chapter.2 空中戦!!
まどかとなぎさ、そして蛾の姿をしたV2モンスターがほぼ同時に地面を蹴った。
スクランブル交差点に居合わせた人々が固唾を呑んで見守る中、まどかとなぎさは魔物と激しく殴り合った。魔物は二対の腕を器用に使い分け、右腕でまどかを、左腕でなぎさを相手し、彼女らの攻撃を的確に躱している。
単純攻撃は悪手だと、まどかが腰を落として胴体に左足で蹴りを入れようとすると、魔物はまどかの足をガシッと受け止め彼女を吊し上げようとする。
「ヤバッ!!」
反動を付けてスルッと抜け、体勢を整えていると、なぎさが今だとばかりに魔物の懐に入り込み、思い切り下から殴り付けた。
ブワッと魔物が宙に浮く。
「グワァッ!!」
歓声が湧いた。
なぎさはそのまま飛び上がり、更なる攻撃を加えて魔物を宙へ宙へと押し上げていく。
「ナイス、なぎさ!!」
地面を蹴って、まどかも高く飛び上がる。
なぎさと魔物より若干高いところまで飛んだまどかは、空中で一旦静止すると、自分と同じ高さまでなぎさが魔物を押し上げたところで思いっ切り魔物の胴体に蹴りを食らわせた。
「はあああああッッッ!!!!」
ガゴッと鈍い音。
凄まじい勢いで蹴り飛ばされた魔物は、高層ビルの壁面目掛けてぶっ飛んで行く。
「まどか! やり過ぎだ!! ビルの中にも人が!!」
「んな事言われても!」
「ブリンク、激突止めるための何か!!」
「おっけー!!」
徐々に落下しながら頭上のまどかに怒鳴るなぎさ、なぎさの懇願に応えて落ちていく彼女の周囲を数回転するブリンク。
「ウイングスタイル発動ぉーッ!!」
キラリンッと小さな星屑が瞬いたかと思うと、なぎさの胸部装甲の背中部分からブワッと天使の白い羽が広がった。
「えええッ?! 何アレ?!」
順調に落ちていくまどかを尻目に、なぎさは羽を大きく羽ばたかせてギュンッと魔物とビルとの間に滑り込んで行く。
激突まであと数秒のところでビルの壁面まで辿り付いたなぎさの目に、窓ガラスの向こう側から心配そうになぎさを見つめる会社員達の顔が映り込んだ。
「ブリンク、ビームとか必殺技とか出ないの?!」
「できるよ! “スターダスト・トルネード”。両手を前に突き出して叫んで!!」
「オッケー!!」
即座に両腕を伸ばし、なぎさは両手のひらを魔物に向けた。
「届け!! “スターダスト・トルネード”――――!!!!」
なぎさの両手から光が放たれる。
星屑のような光の粒の混じった閃光が渦を巻いて、蛾の姿をしたV2モンスターに向かっていく。
――と、魔物が空中で急停止、背中の羽を大きく揺らし、風を巻き起こしてなぎさの攻撃を素早く回避した。
「う、嘘でしょ?!」
風に煽られ、なぎさは背中からビルの窓ガラスに強く打ち付けられた。
ピキッとガラスにヒビが入る音。
「くっ……!! しまった……!!」
ガシャアアァアァン……!!!!
割れるガラス、身体ごとオフィスのデスクに叩き付けられる。
「うぐっ!!」
背中に激痛が走り、なぎさの表情が歪む。室内のあちこちから悲鳴が聞こえ、バタバタと逃げ惑う人々の足音が響き渡った。
が、それどころではない。
すぐさま起き上がって後ろに振り返り、オフィスの会社員達に話し掛ける。
「ごめんなさい!! もっと攻撃が来るかも! 離れて!!」
オフィスの窓際には割れたガラスが飛び散って、平穏だった仕事風景が一気に修羅場へと変わってしまった。
申し訳なさそうに謝り、強めに警告するなぎさに、オフィスの面々は即座に頷き後方へと下がっていく。
「ありがとう! しっかり倒すから待ってて!!」
なぎさがウインクすると、会社員達はパアッと表情を明るくした。
「エンジェルステラ?」
「本物だよね?」
「だってここ、十階」
「羽? 空飛んで来た?!」
「めちゃくちゃ可愛い……!!」
「ヤバ過ぎ!!」
興奮のあまり、数人がスマホを向けてじりじりと寄ってくる。足元にはガラス、遠いとはいえ、窓の外にはまだ魔物の姿が見える。
「危ないから退い」
「おぉ〜っと!! 危ない危ない!! みんな、なぎさの邪魔をしちゃいけないぜ〜!!」
近付いて来る会社員の前に、黒うさぎのブリンクが躍り出て画面を塞ぐ。
「わっ!!」
「何?! 妖精?!」
「可愛い〜! うさぎさん!!」
会社員達の視線が一気にブリンクに向く。
「彼女、“なぎさ”っていうの?」
「ね、ね、あなたの名前は?」
「おれはブリンク。なぎさのパートナーだ。で、まどかのパートナーはティンクル。あっちは白うさぎの姿をしてるんだ。おれ達ふたりが戦闘に慣れないなぎさとまどかのサポートをしてるんだぜ!」
足止めがてら会社員達の視線とカメラに向けて自己紹介するブリンクを尻目に、なぎさはガラスの割れた窓枠に足を引っ掛け、思いっ切り外に飛び出した。
「あ! なぎさが外に!!」
誰かが叫んだ頃には、なぎさはビルから遠く離れたところまで飛んでいた。
「そういう訳だから、エンジェルステラのなぎさとまどかをこれからもよろしく頼むぜ〜!!」
わざとらしい挨拶を残し、ブリンクはスマホカメラの前で大きく手を振ってから、ヒュンと光の球に変化した。
「え?!」
「妖精……?!」
場が混乱している隙に、ブリンクはなぎさを追って、窓ガラスの間から外へと消えていったのだった。




