chapter.5 “エンジェルステラ・プロジェクト”
インパクトのある登場だった。
強烈なキャラクターに、健太郎も伊織も圧倒された。
「えっと……、こっちの高校生が円谷伊織君で“まどか”、こっちの彼が渚健太郎君で“なぎさ”だね。いやぁ〜、素晴らしい!! 最高ですね、緑川所長!!」
汗で湿った手で健太郎と伊織の手を交互に握り、嬉しさを隠しもしない館花の口からは、喋る度に唾が飛んだ。
清潔感どこ行った……と心の中で呟きつつも、健太郎は営業スマイルで返す。
「こちらこそ、お会い出来て光栄です、館花さん」
表情を変えずに館花の手をしっかりと握り返す健太郎に、伊織は少しギョッとして半歩後ろに引いている。
「それにしても凄いですね、ここの設備。どこもかしこも、見た事のないものばかり」
「でしょう! 国からのV2対策交付金あってこそなんですけどね、国内で、いや世界中探してもここまで設備の揃った施設はないと思いますよ。たとえばそこのV波探知装置、開発には相当時間が掛かって、けどその分、日本全国どこの地域で魔物が発生したかつぶさに探知出来るようになってて、まぁそれも各自治体の協力があってこそなんですけど」
「へぇ、そうなんですか」
「それからエンジェルステラのね、スーツに使用されてる繊維には新素材のナノチューブが使用されていて、軽くて薄いのに熱にも火にも水にも強い上に柔軟性があって、だから激しく動いても簡単に裂けたり壊れたりしない、絶妙のフィット感だったと思うけど、着心地については実際に装着したご本人達に是非感想を伺いたくてずっとうずうず」
「――館花、言いたいことは山程あるだろうが、簡潔に頼む」
「あっ、すみません所長。……またやっちゃった」
どうやら館花は仕事の話になると饒舌になるタイプらしい。
緑川に諌められてしゅんとしているようだが、反省はしていなさそうだった。
「館花、《ステラ・ウォッチ》の機能と変身後のスペックについて出来るだけ簡素に解説を頼む。特に円谷少年は未成年なのだから、君の長ったらしい解説で帰宅が遅れたら大変だ」
「ごもっとも! では、ウォッチの機能について解説しますので、奥にどうぞ」
緑川に遠慮するように丸い眼鏡の縁を摘んでヘコヘコ頭を下げながら、館花は奥のスペースへと健太郎達を案内した。
室内は部門ごとに背の低いパーティションで区切られてはいるが、天井は高めで開放感がある。随所に支柱はあるものの、奥まで見渡せる仕様で、パイプや配線が天井やら床やら壁やらを縦横無尽に走る様子は健太郎と伊織を興奮させるには十分だった。
こちらですと連れてこられたのは、真っ白なミーティングテーブルのある一角で、正面の壁には大きめのモニターが設置されていた。
館花は立ったままノートパソコンに向かい、正面のモニターと画面を共有して《ステラ・ウォッチ》の解説を始めた。
「一見普通のスマートウォッチですが、驚くべき機能をたくさん搭載しています。マスコットキャラクター、ティンクルとブリンクとのコミュニケーション、そして実体化、それから通信機能も搭載してます。円谷君と渚君との間でメッセージのやり取り、通話も可能ですけど、試してみました?」
「いいや」
「してないです」
「じゃ、やってみましょう」
ティンクルとブリンクが伊織と健太郎の肩の辺りで《ステラ・ウォッチ》を覗き込みながら、やれよと急かしてくる。更に少し離れたところから緑川まで早くしろとばかりに眼鏡を光らせているので、二人は渋々と館花の指示に従った。
「これで何時でも連絡が取り合える。あ、LINKも交換しといてくださいね。因みに私のは画面に表示されてるQRコード」
「館花」
「あ、すみません。それからね、一番凄いの教えます、小型転移装置。いわゆる、ワープシステム」
「わわわワープ?!」
「ワープってテレポーテーション?!」
二人は同じタイミングで驚き、バンッとテーブルに両手を付いて前のめりになった。
モニターにはエンジェルステラ二人のアイコンが、瞬時に別の場所に移動する様子が図解で示してある。
「そう、要するに瞬間移動。出来ちゃうんですよ、その《ステラ・ウォッチ》でね!」
マジかよと、伊織と健太郎は目を見合せた。
「じょ、冗談だろ。仕事柄経済新聞には毎日目を通してるけど、少なくともここ五年はそんな記事は見ていない」
「お前、そんな難しい仕事してんの?」
「あのな、社会人たるもの、経済新聞くらい読むだろ」
少なくともお前の父親は読んでるぜと口の中で呟いて、健太郎は言葉をグッと飲み込んだ。
「非公表ですから、この研究も、エンジェルステラのことも。世界がV2に侵食され始めた頃から、もうこの研究所では“エンジェルステラ・プロジェクト”が立ち上がっていて、いずれ魔法少女となり戦ってくれる戦士の為にありとあらゆるものを開発してきたんです。世界には魔法少女が必要です。全てを浄化し、人類を希望の光で照らす極上の天使が……!!」
分かりますかとばかりに、館花はテーブルをバンッと叩き、二人に凄んだ。
「これから、私達が一丸となって巻き起こすんです、“エンジェルステラ・フィーバー”を。そしてV2によって傷付く人々を救い続ける。同時に魔物化した罹患者の細胞データを収集し、そのメカニズムを分析し、治療方法を探るのが、“エンジェルステラ・プロジェクト”の真の目的なんですよ……!!」




