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TS☆魔法少女エンジェルステラ  作者: 天崎 剣
【1】魔法少女エンジェルステラ登場!/ 第3話 エンジェルステラ・フィーバー!!
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chapter.1 渚健太郎という男

 昼下がり、そらいろ生命南東京支社営業部。

 二人の男が雑談しながら外回りから戻ってきて、これから遅い昼休み。営業部の昼はまちまちで、この時間オフィスにいたのは、休憩から戻った内勤の三人だけだった。

 中年の小柄な男と、痩せぎすの若い男。年の離れた二人は重い荷物をどさっと同時にデスクに置いて、各々自分の席へと腰を下ろした。


「いやぁ、渚君のおかげで助かったよ」

「いえいえ。課長の説明が丁寧だったのが好印象だったんでしょう」

「僕は熟女キラーの渚君と一緒だったから上手くいったと思ってるけどね」

「褒められてるのかどうかは甚だ疑問ですが、加藤さんも喜んでたみたいだし、まぁ褒め言葉と受け取っておきますよ」


 午前中二人で出向いた年配の女性宅で、その娘夫婦が同席してのアフターフォロー。生命保険は期間の長い商品だから、定期的に内容を確認し、生活環境や家族形態の変化に合わせて保障を見直しながら、未来のために備えてもらう必要がある。


「V2特約なんて、七十代の加藤さんには難しかったろうし、娘さん達に話したところで必要性を感じて頂けるか不安だったけどね。やっぱり、色々知ってる渚君だからこそ、言葉に重みがあったんだと思うよ」

「そう仰って頂けると助かります。課長だって娘さんが不登校になって大変だって聞いてますけど」

「だけど僕は見てないから。育児は妻に投げっぱなしなのに、そういう時だけ被害者ヅラするのはね……」


 優顔の課長は椅子に背中を預けてグイッと背伸びした。

 上司の気の抜けたような顔にホッとしつつ、渚健太郎は営業カバンから契約書類とタブレットを取り出した。書類を整理し、タブレットで必要な入力を済ませてから、少し離れたデスクにいる内勤の女性のところまで書類を持っていく。


「木村さんお疲れ様。これ、午前中のヤツ。不備あったら教えて」

「渚さんお疲れ様です。今日は円谷課長と同行だったんですね」

「うん。午後からは多田と同行なんだ」

「さっすがぁ〜! モテモテですね〜」

「男にモテても面白くないけどね」


 ハハッと苦笑いしていると、内勤の男性がスッとファイルを渡してきた。


「渚君、特約成約率、お陰でうちの支社が今期トップだって。社内報に載せるから、後で広報が取材に来るってさ。これ、その予告」

「マジすか」

「部長のご指名。円谷課長にも取材行くけど、渚君メインらしいから」

「……了解です」


 渡されたファイルに目を落としながら席に戻ると、課長の円谷が締りのない顔で健太郎にチラチラ手を振っている。


「そういう訳だからよろしく」

「……課長、面倒くさいこと俺に投げましたね?」

「まぁまぁ、そう言わない。僕は君のこと買ってるんだから」

「それは嬉しいですけど」


 不貞腐れた顔でファイルを机に置き、健太郎はふぅと息を吐いた。


「こんな特約、売らなくても良い世の中になれば良いのに」

「それはみんなが思ってるよ。少なくとも三年前まで、世の中はこうじゃなかった。知らないうちに蔓延った何かが世界を変えた。僕達に出来るのは、こんな理不尽な世界でも希望を失わずに生きていくためのお手伝いをしてあげることくらいじゃないかな」


 まるでテンプレートみたいな台詞を淡々と喋りながら、円谷はノートパソコンの画面に目を向けている。デスクの上に無造作に置かれたスマホの待ち受け画面には、彼の息子と娘の姿が映っていた。


「“V2によって被害者或いは加害者になってしまった場合に被保険者又はその遺族に支払う特約”だなんて、世も末ですよ。課長の娘さんがもしこの特約の支払い対象になっていたらどうでした? それで癒やされますか?」


 健太郎の問いに、しばらく円谷は黙りこくった。

 スマホを手に取り、子ども達の写真をしばし眺めたあと、小さくコクコクと頷いた。


「癒やされただろうね。金の心配をしなくて良かったなら、仕事を休んででも娘のそばについていてあげただろうから」


 ふぅんと、健太郎は気のない返事をする。


「……君は? 君はどうだった? こういう特約があったら入っとけば良かったって思ってる?」


 円谷に質問を返され、健太郎はまた小さく息を吐いた。

 どうでしょうと目をそらし、オフィスの外に広がる空に目を向ける。


「そうですね。もしあの時こういうのがあって保険金が下りたのだとしたら……その金で、彼女のために色々出来たことはあったんじゃないかと思います」


 表情を暗くしてボソッと零した健太郎に、円谷はフッと頬を弛めた。


「そういう言葉が自然と出てくるのが、渚君の良いところだと思うよ」

「……だから課長、そういうのやめてください」

「昼、早く取らないと。三時から多田君と同行だろ」

「はい」

「急げよ」

「ですね。課長は弁当ですか」

「そう。片付いたら食堂行くよ」

「そすか。俺はコンビニ行ってきます」


 左腕の《ステラ・ウォッチ》に目を落とす。

 昼から表示されっぱなしの注意表示に意識を移しながら、健太郎は円谷に軽く頭を下げ、オフィスを後にした。

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