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TS☆魔法少女エンジェルステラ  作者: 天崎 剣
【1】魔法少女エンジェルステラ登場!/ 第2話 バズってる?! 絶対バレちゃダメなのに!!
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chapter.5 “エンジェルステラ”一色


 とんでもない事になってしまった。

 のどかはテレビ画面に映し出された“エンジェルステラ”に釘付けで、向かいの席で困惑している兄には気付いていないようだ。


「あ〜、これか。エンジェルステラ! 昨日からバズってたもんな〜!」


 洗面所の方から現れた父まで二人の名前を知っている。

 あまりの衝撃に、伊織のお腹はギュルギュル鳴った。食欲が湧かない。どうにかしてお腹に詰め込もうと梅干し茶漬けにしてみたが、それすら上手く口に運べない有様だった。


「可愛いわよね、エンジェルステラ。私はこのピンクの子かな〜。のどかは?」

「私はね~、金髪の子。クールでカッコ良いし!」


 母と妹との何気ない会話すら、伊織にどんどんダメージを与えた。

 茶碗が重い。箸が重い。嫌な汗が止まらない。


「あれ? 伊織、具合悪い? 昨日のこと引き摺ってるなら学校は」

「いや、大丈夫。な、何ともない」


 無理やり茶碗を口元に運び、伊織は平気なフリをしてどうにか朝食を掻き込んだ。






 *






 一晩で、何かが変わった。

 スマホのニュース通知も、SNSのトレンドも、電車内で聞こえる会話さえ“エンジェルステラ”一色だった。

 昨晩はどうやらスマホを触る余裕がないくらい疲弊していたらしく、うっかりそのまま寝てしまった。だからこんなに大事になっているだなんて、伊織には予想が付かなかったのだ。


 優也からも、何度も何度もLINKが来ていたようだ。余程緊急の用事でもあったのかと個チャをチェックしてみると、


《キュアキュア見た?》

《バズってる!!》

《ちょっとマジヤバい》

《可愛くね? 超可愛くね?》

《俺ピンクの子が好き! 伊織は?》


 ……と、大量のエンジェルステラの拾い画とキュアキュアのスタンプと一緒に、どう返したら良いのか分からない文字列が並んでいた。

 ピンクの子が好き。

 これがとにかく大ダメージだった。

 朝だというのに、制服の中は脂汗でぐっちょりで、着替えが出来るなら今すぐにでも着替えたい気持ちになっていた。


「おはよう。ねぇ、見た? 昨日の」

「エンジェルステラでしょ?」

「コスプレ?」

「違う違う。本物の魔法少女ってやつ!!」


 教室まで何とか辿り着いたところで、聞こえてくる会話の内容は変わらない。

 この情報化社会、一度ネットにアップされた映像・画像は簡単には消えないし、一度バズると変な方向に拡散していくってことくらい、伊織だって当然知っている。


「どうしよう……。消えたい……」


 机の上に上半身を全部投げ出してうつ伏せていると、ドンッと頭の上に何かが乗っかった。


「重っ」

「伊織~! LINKくらい返せよな~」


 重みがなくなったところで顔を上げると、優也がバッグをひょいと持ち上げているところだった。


「優也か。おはよ」

「おはよじゃなくって! LINK、既読無視してただろ」

「違う違う。無視してたわけじゃないよ。今さっきやっと見たとこ」

「スタンプくらい返せば良いじゃん」

「ごめん、マジ疲れてて……」


 のっそり起き上がり、前の席に座る優也に一応の詫びを入れる。優也はよいしょと伊織の方を向いて座り、下から顔を覗き込んできた。


「もしかして、あの電車乗ってた?」

「うん」

「マジ?! じゃあ見た?!」

「それどころじゃなかったんだって。初めて間近でV2見て……」


 窓ガラスに映った自分は見たが、それどころじゃなかったのは本当だ。嘘はついていない。


「すんげぇ立ち回りだったみたいだから、伊織が見てたら興奮しただろうなってさ」

「興奮……まぁ、そうかもね」

「見てなかったのかよ~! めっちゃ可愛くてさ、俺もう、絶対この子のファンになるわ」


 ジャァ~ン! と効果音を付けながら突き出してきた優也のスマホの待ち受け画面は、いつもの推しキュアからピンク髪の“まどか”に変わっている。しかもこれは、思いっ切りカメラ目線で『エンジェルステラだ!』と名乗った時の。


「マジかよ……」

「な、可愛いだろ。絶対この子、変身前も可愛いと思うんだ」


 まさか変身前はお前の目の前に居るなどとは言えず。

 新たな推しを得て喜ぶ優也を、伊織は複雑な気持ちで見ているのだった。






 *






 それにしても、このバズり方は狂気だと、伊織は息を呑んだ。

 優也もそうだが、普段はキュアキュアの話なんて一切しないような連中まで、みんなエンジェルステラの話をしている。

 授業と授業の合間にスマホをチェックしていると、世の中の神絵師が挙ってファンアートをアップしているようだし、撮影された動画を編集したショート動画や、キュアキュアシリーズの動画や特撮ヒーローの動画とミックスしたような動画まで作られている。


「この動画も観てよ。めっちゃ良くない?」


 真顔で動画をチェックする伊織に、次から次へと優也が別の動画を勧めてきた。

 とにかくクオリティが高い。

 ほんの一瞬、あそこで戦っていたのは、十分にも満たない時間だったはずなのに。


「エンジェルステラ、またどこかに現れたりするかな?」

「ど……どうかな。またV2の魔物が暴れたりすれば……」

「名前知りたいよな、それぞれの。エンジェルステラのホワイトとブラックとかなのかなぁ~」

「なんかさ、異常な盛り上がり方してない?」

「なんだよ伊織、ノリが悪いなぁ。いつもなら食い付いてくるくせに」


 エンジェルステラのファンソングを口ずさむ優也に、伊織はただただ苦笑いを返すばかりだった。


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