0. プロローグ
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5月9日(木)
本日は誠に勝手ながらお休みをいただきます。
店主 谷川
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こんな貼り紙がお店の出入り口の前に貼られていたのを横目で見ながら俺は大学に向かっていた。
特に気にすることもない。
だけどいつも見る光景とは少し違うから、何かあったのかとは思いつつも心の中では僅かながら悪態をついて自転車をこぐ。
『いつも休みみたいなもんじゃねえか』と。
変わらない穏やかな時間が流れる平日の朝。
これから会社に通勤するスーツ姿の男性や高校生の女の子達、それに子どもを自転車の後ろに乗せた女性に、商店街でお店の開店に合わせて準備をする人達がいつものように視界に入る。
「あぁ~、眠い」
騒がしさとはかけ離れたこの町に引っ越して来て3年目。大学生活にも慣れて、友達も出来た。親からの仕送りが少ないからバイトをせざるを得なくて週に数日バイトをしている。
「朝飯は~・・・コンビニにでも寄るかな」
昨夜はバイトで少し帰りが遅くなってしまい、大学の講義の課題もあって疲れていたせいか家に着いて早々に記憶をなくしてしまい気が付いたら朝になっていた。
(・・・焼きそばパン食いたい)
だけど何事もなかったかのようにチラッと見て終わったこの貼り紙が意味することが、あとになってこんなオオゴトになるなんてこの時の俺は微塵も思ってなかった。