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第9話 待ち焦がれながら迎えた日


 ナタリーの言う通りになってしまったことが、ちょっぴり悔しい。


 だから食事の時に、さりげなく切り出した。


「婆や。ドレスを新調したいの。次の非番のときに仕立て屋に行くわ。一緒に付いてきてくれる?」


「もちろんです。お嬢様」


 ラーシュに見て欲しいという気持ちになっている。

 ドレスで着飾った姿を。


 でも不安だ。

 自分がドレスを着たところで、と思ってしまう。


 それにラーシュが言おうとしていたのは、自分が思っている通りのことなのだろうか。

 恥ずかしい勘違いかもしれない。

 手を握ってしまったことも。


 でも、やっぱり───。


 そんなふうに心が揺れ動く日々を送りながらも、アラッカ島近くのルートを巡回するときは、必ず見張り台に登って望遠鏡で埠頭を眺めた。


 毎回、船大工たちが忙しそうに働いていた。

 ラーシュも現場にいて、姿を見るたびに頬が緩んだ。


 島には寄らなかった。

 待っていると約束をしたから。


 一ヶ月が経ち、二ヶ月が過ぎた。

 船は着々と完成に近づいていった。

 完成する日が待ち遠しくも、怖くもある。


 そして三ヶ月近くが経過したある日、船に帆が張られていた。

 ドックの水門が開いていて水が引き入れられている。


 浮かんだ船の船主に、ラーシュが立っていた。

 ラーシュも望遠鏡でこちらを見ている。

 望遠鏡を下ろして手を振って来た。


 自信に満ちた表情。

 胸の奥の音が、はっきりと聞こえた。


 手を振り返した。

 ラーシュはうなずいたあとで、船大工たちに指示を出したようだった。


 やがて小型船が近づいてきた。

 細長い船。高速艇だ。

 漕いでいた船大工の一人が立ち上がった。


「ラーシュの若旦那から伝言です。『リスベット号、完成。最高の船に仕上がりました』、とのことです。本当にそうですぜ!」


「造って頂いたことを感謝いたしますわ!」


「ニコルにお届けするのに都合のいい日を聞いてくるよう言われました。もうちょい試験航行して、三日後にはお届けできます!」


「でしたら───、三日後で!」


 少し怖い気持ちもあるけれど、やっぱり待ち遠しい。


「ニコルの船着き場まで届けて下さいませ! 船大工の皆さんもどうかご一緒に! 歓迎の準備をしてお待ちしておりますわ!」


「ありがてえ! 若旦那に伝えておきます。他に何か伝言はありますかい?」


「では、女性と上手く会話するコツは、服装を褒めることだと伝えて下さいませ。うふふ」


「へ?」


「何でもありませんの。ラーシュ君によろしくですわ!」


「分かりやした。リスベット号の漕ぎ手は三十人いれば充分です。三日後は朝出発して、正午前には届けられると思いますぜ。それまでお待ちを!」


 高速艇はアラッカ島へと戻って行った。


「お嬢。手続きをしておきましょうか」


「ええ。ビィゴ」


 アジトに立ち寄ることにした。

 支払い用の資金の受け取り。

 三日後の巡回任務を休みにする申請。

 その他諸々(もろもろ)の、新造船を受け取るための手筈を整えた。


 ニコルに戻ると手頃な飲食店を貸し切り予約にした。

 打ち上げの準備も抜かりはない。


 それにドレスの準備も。


 三日が経過して、受け取り当日の朝を迎えた。


 髪は三つ編みにせずに下ろしたままにした。


 今日着るのは軍服ではない。

 ナタリーに手伝ってもらってブルーのドレスを纏った。

 新調するとき、好きな海の色を選んだ。

 

「とてもお綺麗ですよ。お嬢様」


「ありがとう。婆や」


 ラーシュにそう言って欲しい。

 そう思いながら屋敷を出て船着き場に向かった。


 百人船に宿直している部下を除けばリスベットが一番だった。

 海は陽光で輝いている。


 ビィゴや部下たちもだんだんと集まってきた。

 格好のことをからかわれるのではないかと少し心配だったが、そんなこともなかった。


 船がやってくるたびに、リスベット号かもしれないと目を凝らした。

 だがどれも違う船で、だんだんと()れるような気持ちになってきた。


「ビィゴ。正午前には着くと言っていたのだけど、もう過ぎてしまったわよね?」


「はい。お嬢。ちょいと遅い気がします。アラッカ島の方角から追い風も吹いていますし」


 それからは交代で休憩を取りながら待った。

 だが、リスベット号は現れないまま昼下がりになってしまった。


「なんだかおかしいですぜ。お嬢」


「ええ。でも朝から天気は良かったし、ラーシュ君たちが転覆や座礁のような事故を起こすとは思えないのだけど」


「それにアラッカ島からニコルに来るなら、北岸沿いの安全な航路を取るはずです。今日は巡回こそしていませんが、海賊がいるなんてことはまずないルートですし」


 それなのに、なぜラーシュたちは現れないのだろう。

 心配で仕方がない。


 ふと、船着き場に近づいてくる船が目に入った。

 小型船だからリスベット号ではない。

 だが細長い船体には見覚えがある。


「高速艇ですぜ」


「ええ。でもどうして」


 高速艇が向かっていく桟橋へと急いだ。

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