第一話 プロローグ
鋭く銃声が鳴った。やけに時が遅く感じる。
銃口から出てきた金色の弾丸は、少しのズレもなく私の心臓を狙って飛んできた。
避けられない。終わったー...。その時のことだった。
突然脇腹を軽く押されて私は、右肩の方へ倒れ込んだ。
私は体勢を崩したが、どうにか顔を上げ、押してくれた誰かの方を見た。
私の両目が大きく見開かれる。
「ウソ...」
"名探偵"が、立っていた。彼女は私にゆっくりと微笑みかけると、
大きな音を立て、倒れていった。
視界の端で"犯人"が、ピストルを放り投げて立ち去っていくのが見えた。
けど、私にはもう追う気力は残っていなかった。私はペタリと座り込み、
たくさんの血を流しながら倒れている"名探偵"のことをじっと見ていた。
視界が真っ赤になった気がした。
「...ろはちゃん。彩葉ちゃん!彩葉ちゃん!!」
私は誰かが呼ぶ声を聞いて、ゆっくりと瞳を開けた。ここは...教室か。
で、私の目の前にいる茶髪の女の子は...
「なに茜ちゃん。数学の居残りさせられてたんじゃなかったの?」
「とっくに終わりましたけどねー。これだから午前3時までゲームしてる人は」
「それはほとんどオールして小説書いてる人が言うセリフなんすかね」
いやあなたと違ってちゃんと耐えてますけどね、と笑ったのは私の親友、佐藤茜。
引きこもりだけど結構優しい性格だと思う...。多分。
と、その茜ちゃんが、何かに気づいて青ざめた。
「彩葉ちゃん。なんで泣いているの?」
「えっ?」
全然気づかんかった。私は慌ててハンカチで拭う。
それを見て茜ちゃんが、ニヤリと笑った。
「ははーん。さては彩葉ちゃん、昨日ゲームで泣ける展開だったんでしょ」
「うーんそれは...。なくもなくもなくもなくもなくもないかもしれない。」
「どっち?!」
2人とも笑ってしまう。全く、これだから引きこもりは...と思いながら、
私はふと教室のドアの向こうに目を向け、両目を大きく見開いた。
そこには、いるはずのない"名探偵"が立っていた。
3年前。私が中学3年生くらいの頃。
「やめて!離して!」
「うるせえ。誰が人質解放すんだよ。黙ってろ。」
私は誘拐され、人質にとられていた。先生も両親も友達も警察も来ない。
私は泣きそうになった。その時のことだった。
突然、部屋のドアが吹き飛んだ。部屋の中にいた人が全員驚いた。私を含め。
「?!」
ドアの向こうから、16歳くらいの女の子が入ってきて、こう言った。
「どうもー。ロリコン野郎のお家ってここであってるー?」
「なんだお前!てか、どうやって入ってきやがった?!」
誘拐犯が叫んだ。彼女はさらっと答える。
「え?それ今言う必要ある?。あと、私はただその子を解放させてもらいに
きたんだけなんですけど。あ、君達みたいなロリコン野郎とは話し合えないか、
しょうがないしょうがない」
「テメエ...。言わせておけば...!」
誘拐犯は煽られてキレたのか、金属バットを振りかぶって彼女に襲いかかる。
私は思わず叫んだ
「危ない!」
「大丈夫。だって私、強いから」
そう言うと彼女は男の間合いの中に入って男の右手を彼女の右肩に乗せ、
「よいしょっと〜」
男を背負い投げしてしまった。男が床に叩きつけられてうめく。
彼女はポンと手を叩くと、残りの誘拐犯たちに
「どうする君たち?もっと私と遊びたい?」
と、妖艶な笑みを浮かべた。男たちはいっせいに逃げ出した。
彼女は、ロープをほどきながら私に優しく声をかけてくれた。
「大丈夫?怪我はない?」
「な、ないです。ありがとうございます...」
「いーよいーよ。あと、そんなかしこまらなくても。同じくらいの歳なんだしさ」
私はうなずいた。彼女はそして言った
「名前は?」
「文月 彩葉です...」
すると彼女は少し首をかしげて言った。
「ふーん、彩葉ちゃんか……」
「……?あなたは?」
私が聞くと彼女ははにかみながら答えた。
「……私?私はね……
"名探偵"だよ」
3年経った今も、あの時のことは鮮明に覚えている。
そして私は、あの時から彼女のことをずっと尊敬しているんだ。
だから、彼女が私の前にいるはずがない。
彼女はニコリと笑いかけると、どこかへ歩いていった。
私は急いで彼女を追いかけた。
「彩葉ちゃんっ?!」
「ごめん茜ちゃん!急用出来た!すぐ戻るから待ってて!」
そう言って私は、茜ちゃんを置いてけぼりにして、"名探偵"のことを
追いかけていった。私は必死で"名探偵"のことを追いかける。
「待って……待って!」
彼女は振り返りもせずに歩いて行ってしまう。彼女は階段をゆっくりと
登っていく。私はその後ろを1段飛ばしで追いかける。
彼女は屋上へと登っていった。私は階段を登りきった。
屋上へと続くドアを蹴るようにして開け私は彼女を探した。
けど、彼女はどこにもいなかった。そっか。そうだよね。
だって"名探偵"にはもうー...
「二度と、会うことが出来ないんだもんね...」
私は、秋の空を眺める。風が強く吹いていて少し寒い。
今頃彼女は紅茶でも飲んでんだろうか。一年中飲んでたもんね。
その時のことだった。風が少し強く吹いて、
屋上にあった紙が飛んで私の顔にへばりついた。
「うわ何?!」
私はその紙を顔からむしりとる。私はイライラしてクシャクシャに
しようとした。けどやめた。何か書いてある。
「なにこれ中国語?いや違う。暗号だ」
「赤下隊登高位夜潮画志図務戸着似赤阿潮。女恋事姫亜」と書かれていた。
「明日の太陽が沈む時に会おう。オココヒア。...オココヒアって誰?」
簡単だなこの暗号。エニグマに比べて簡単すぎる。初心者だね。
これ昨日屋上に来たときにはなかったから、明日、屋上で誰かが
待ち合わせでもしてるのかな。わざわざ暗号で書いてるあたり、
ちょっと気になる...。まあ明日は時間あるし、行ってみても損はないかな。
私は紙を四つ折りにしてポケットに入れると、
茜ちゃんのところに戻るために教室へと戻っていった。