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田舎令嬢、弱虫と出会う。

 わたしはシルヴィ、エクトルお父さまとジョスリーヌお母さまの娘よ! わたしたち家族は貴族というとってもえらい人間で、領地を治めて生活しているの。


 だから、わたしは自分の領地をいつも見て回らないといけないわけ。今日もお供の平民(かしん)たちと森や原っぱに行かなきゃ!


「みんな、ちゃんと武器は持ったわね?」


「おー! 見てくれよ、オレの新しい槍!」


「折れたやつの代わりね。よくやったわ!」


 先にとがった石をくくり付けた木の棒を持った子をわたしはほめた。平民(かしん)の中でこの子は一番器用なのよね。


 みんなが自分で作った武器を持っているのを見たわたしは、五人を連れて村の広場を出発した。


 この五人はわたしの家臣なの。みんな最初は生意気だったけど、けんかに勝ったらおとなしくなったし、おうちの食べ物をわけてあげたら言うことを聞くようになったわ。


 さすがお母さま! あめとむちの効果はばつぐんよ!


 村から少し歩くと川があって、それより向こう側は原っぱがあって、奥には森も見える。わたしたちの住んでいるアベラール男爵領は自然がいっぱい!


「シルヴィさまぁ、今日はどこに行くんすかぁ?」


「今日は森に行くわよ!」


 橋を渡ったあたりで平民(かしん)の一人から聞かれたわたしはすぐに答えた。昨日は原っぱだったから、今日は森の気分なのよ。


 いつもの歌を歌ってわたしたちは歩いていく。森に入ると薄暗くなるけどへっちゃら。だってもう数え切れないくらい入っているんですもの。


 森の浅いところだと迷うことのないわたしたちは、あっちに行ったりこっちに行ったりした。たまに石をどけて虫が慌てふためくのを見ながら休憩する。


 そうしているうちに、とうとう敵と出会った。最初に見つけたのはもちろんわたし!


「みんな、のら犬よ! 囲め!」


 木の棒を持ったわたしが命じると平民(かしん)たちは小さいのら犬をあっというまに囲んだ。真向かいにいるわたしに小さいのら犬が牙をむいてうなっている。でも、別に怖くなんてないもん!


「よーし、かかれ!」


「ガウ!」


 わたしの声と小さいのら犬が動いたのはほぼ同じだった。でも、それはいつものことだからすぐ木の棒で小さいのら犬を打つ。すると、悲鳴を上げて目の前で止まった。


 後はいつも通り、みんなで小さいのら犬を囲んで何度も槍で刺したり斧で叩いたりした。領地を荒らすのら犬はやっつけないといけない。


 そうして動かなくなったのを見ると、わたしたちは攻撃をやめた。そして、みんなを見ながらわたしは声を上げる。


「やっつけたわよ! えいえいおー!」


「えいえいおー!」


 みんなばらばらに勝どきをあげるのを聞いてわたしは気分が良くなった。またひとつ良いことをしたから。


 これがわたしの日課よ。わたしもお父さまとお母さまをお手伝いしているの。


 気分が良くなったわたしたちはまた森の中を歩き始めた。もっとたくさんやっつけなきゃ!




 平民(かしん)といっしょに森や原っぱを見て回っていたわたしは、その日も満足するまで原っぱを歩いて回ってからお屋敷に帰った。すると、見慣れない子がお父さまとお母さまの前に座っているのを目にする。誰かしら?


「お父さま、お母さま、ただいま戻りました」


「お帰り、シルヴィ。いきなりだけどこの方を紹介するわ。わたくしたちの寄親のバシュレ伯爵家からいらしたロランくんよ。しばらくここで一緒に暮らすから、仲良くしてあげてね」


 お母さまのお話を聞きながらわたしはロランの顔を見た。髪の毛は金色でさらさら、顔つきはまるで王子様のようにかわいらしい。でも、今にも泣きそうな顔をしている。


「わたしはシルヴィ、お父さまとお母さまの娘よ。どうしてそんなに悲しそうな顔をしているの?」


「ぼく、そんなに変な顔をしているかな?」


「変っていうか、今すぐ泣きそうね」


 ロランはますます悲しそうな顔をしてそれきり黙っちゃった。えー、なによこいつ、わたしの質問には答えてくれないなんて。


 わたしのロランへの感じはそれで悪くなった。あんまり合いそうにないわね。


 楽しかった毎日の中に、ある日突然知らない子を押しつけられたわたしは困った。何しろ、ロランは全然お外に出ようとしないんだもの。


「ねぇ、ロラン。お外に出て領地の見回りをしましょう」


「やだよ」


「どうして? ちゃんと見張らないと悪いやつが悪さをしにやってきちゃうんだから」


「そんなの兵士に任せればいいじゃない」


「兵士? そんなのいないわよ」


「えぇ!?」


「領地はみんなで守るものよ。だから、わたしや家臣が自主的に集まって領地を見て回るの」


 呆然とした顔のロランにわたしはさとすようにお話をした。きっとあまりの正しさに何も言い返せなくなったのね。


 ということで、わたしはロランの手を引っぱってお屋敷を出た。まだ何か言いたそうだったけど、すっかりろんぱした気でいたわたしは意気揚々と村の広場へと歩く。


 平民(かしん)たちはもう広場にみんな集まっていた。その中にわたしも入ると、みんなにロランを紹介する。


「みんな、今日からわたしたちと見回りをするロランよ!」


「おー、シルヴィさまみたいないい服を着てるなぁ」


「でもなんか弱そう」


「なんで泣きそうな顔してるんだ?」


 初めて見るロランをみんな不思議そうに見ていた。その様子を見てわたしはすっかり良い気分になる。


 困った顔をしたロランがわたしに目を向けてきた。そうしてやっと聞こえる声で何かを言ってくる。


「家臣って、どう見てもみんな平民の子じゃない」


「そうよ。だってみんな村の子なんだもん。おとなはみんな働いているから、わたしたちが領地を見て回るのよ」


「えぇ」


「さぁみんな、今日はロランも一緒に見回りをするわよ!」


「こいつ武器持ってないぜ。これじゃ危ねーよ」


「今日のロランは見ているだけだからいいの。初めてで振り回されても危なっかしいから逆に困るわ」


「それもそーかー」


 わたしの言うことに納得した平民(かしん)の一人が黙った。他に何か言う子はいない。よし、それじゃ出発ね!


 全員をまとめたわたしは機嫌良く歩き始めた。いつもと同じように川の向こうへと向かう。今日は森の気分よ!


 たまに後ろを振り向いてロランがついてきているかを見る。いつもの泣きそうな顔のままわたしの後ろを歩いていた。よしよし、良い子ね。


「これが森の中かぁ。薄暗いね」


「なぁに、ロラン。森は初めてなの?」


「うん。屋敷の外に一人で出るのも初めてなんだ。前はお付きの従者がいたから」


「早く一人でなんでもできるようにならないといけないわ。でないと一人前のおとなになれないのもの」


「そうなんだ。ぼくも一人前になれるかな」


「なれるわよ!」


 歩きながらわたしはロランに笑った。お父さまとお母さまだってそうやっておとなになったんだから、わたしたちだってなれるに決まっているわ。


 新しい友だちと一緒にわたしたちは森の中で遊ん、いえ、見回った。木の棒で剣士ごっこをしたり、珍しい草木を見たり、石をどけて何がいるのか確かめたり、いろいろと森の様子を見たの。


 最初はぼんやりと見ているだけだったロランも、わたしや平民(かしん)たちにあちこち引っ張り回されているうちに自分から動くようになっていた。今はあっちで動物を探しているらしいわ。


 今日もわたしが森の平和を確認していると、ロランの悲鳴が聞こえた。木の棒を握りしめて駆け寄る。すると、ロランがうり坊から逃げ回っているじゃない!


「た、助けて!」


「みんな、うり坊よ! 囲め!」


 木の棒を持ったわたしが命じると平民(かしん)たちはうり坊をあっというまに囲んだ。木を背にしたわたしにうり坊が牙をむいてくる。ふん、そんなの怖くなんてないわ!


「よーし、かかれ!」


「プギィ!」


 自分に向かって来るうり坊をわたしは避けた。すると、そいつは木の幹にぶつかって悲鳴を上げる。今よ!


 後はいつも通り、みんなでうり坊を囲んで何度も槍で刺したり斧で叩いたりした。仲間のロランを襲ったうり坊はやっつけないといけない。


 そうして動かなくなったのを見ると、わたしたちは攻撃をやめた。そして、みんなを見ながらわたしは声を上げる。


「やっつけたわよ! えいえいおー!」


「えいえいおー!」


 みんなばらばらに勝どきをあげるのを聞いてわたしは気分が良くなった。ちゃんと仲間を守ったわよ、わたしたち!


 少し離れた場所でへたり込んでいるロランにわたしは声をかける。


「これがわたしたちの仕事よ。どう、すごいでしょ?」


「それで、他の平民は何をしているの?」


「倒したうり坊を持って帰って食べるのよ。自分の食いぶちは自分でかせがないといけないんだから」


「そんなことまでするんだ」


 平民(かしん)たちがうり坊を持って帰る準備をする横で、わたしはロランに説明してあげた。わたしたちだっておとなに負けないってことを示さないとね!

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