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第35話:ドライな判断

「……⁉︎」


 何を言い出すかと思えば、ジルドを……?


 いまいち意図が分からない。俺が知る限り、レイヴンとルーガスは忠誠を誓っていたはず。『Sieg』ではそんな描写はなかったが、裏切ろうということか?


 ともかく、額面通り受け取るのは危険だ。


「その割には、行動が伴っていないようだが? 昨日のことを忘れたとは言わせないぞ」


「レインたちに完膚なきまでに叩き潰されて、ようやく目が覚めたんだ。こんなことやってても明るい未来はないってな……」


「……」


 嘘を言っているようには思えない。


 それに、完全に嘘なら俺たちの前に無防備な状態で姿を晒す理由はない。


 ……もう少し、様子を見るか。


「クランのクーデター計画に関しては既にリーシャから聞いていると思うが、正直に言えばジルド以外……幹部も乗り気じゃなかったんだ。当然、俺もな」


 確かに、シナリオではジルドの命令直後は困惑した雰囲気だった。


 だが、少なくとも昨日俺たちを襲った時の殺意は本気に感じた。俺の感覚では、本心から計画に乗り気じゃない人間に罪もない人を殺められるようには思えないのだが。


「最初は、今まで築き上げてきた立場を捨てられず、俺たちは流されるままに従った。たった一人、そこのリーシャを除いてな」


 レイヴンは言葉を続けた。


「俺たちが本気になったのは、ジルドからリーシャを始末するよう命を受けた時だ。ジルドは時に徹底的に非情になる。裏切れば自分だけじゃなく、家族諸共殺されることを察した時には、もうどこにも逃げ場はなかったんだ」


 ……確かに、ここまで聞くと少し幹部たちの方も気の毒に感じてしまうな。


 個としての能力が高い彼らであっても、自分以外が全員敵という状況では手も足も出ない。


 ジルド以外のクランの上層部は元々組織として『金を稼ぐ』ことを突き詰めていただけで、最初から悪役というわけではなかった。権力意識もなかったように思う。


 『Sieg』のシナリオでは、正義のヒロインであるリーシャを視点に話が展開されていたため、軽く流し読み感覚で読んでいた俺には、敵側の葛藤など知る由もなかったのだ。


 なるほど。だんだんと繋がってきた。


「つまり、ジルドを消して皆を恐怖から解放してほしいということか?」


「まさしく。身勝手な頼みなのは承知の上だが……」


 やれやれ。本当にその通りだ。


 クラン内部のことは本来身内で解決するべきであって、常識的に考えれば、何の関係もない俺たちに助けを求めるのは組織として終わっている。


 だが、プライドを捨てて頭を下げてきた相手を無下にするのも違う。


 俺たち三人は顔を見合わせる。


 そして、俺は三人を代表して答えた。


「断る。……っていうか、無理だ」


「……っ⁉︎」


 俺は、レイヴンに理由を説明する。


「俺たちならクランを壊滅させることはできる。……っていうか、やろうと思っていたことだしな。でも、お前たちを救うってのは無理だ。諦めてくれ。ジルドがその辺を一人で歩いているなら話は簡単だが、そうじゃない。ジルドを倒そうとすれば、必ずクランと戦うことになる」


 ある程度は手加減して、後で俺の回復魔法で治すという手もある。だが、本気で殺しにかかってくる多勢相手に命の保証をするほどの余裕はないのだ。


 無理なことを安請け合いするような不誠実なことはしたくない。


「そこに関しては、俺に任せてほしい。もう少しだけ生かしてもらえるのなら……だが」


「何か考えがあるのか?」


「ああ。幹部全員を俺が、是が非でも説得する」


「せ、説得……?」


 さっき、自分と家族の命を握られていると聞いたが、説得程度でどうにかなるのか?


 それで解決しているなら、もう既に問題は解消していそうだが……。


 などと思っていると——


「既に一人成功している。ルーガスだ。こいつは、最初こそ俺の説得に応じなかったんだが……」


 レイヴンは、地面に横たわるルーガスの肩を揺らした。


「とっくに目が覚めてるんだろ? 話は聞いていたはずだ。返事を聞かせてもらおう」


 レイヴンの言う通り、ルーガスは気絶したフリをしているだけだったらしく、すぐにパチっと目を開いた。


「……この状態で、反抗できるわけがねえ。……ああ、分かったよ。俺の負けだ」


「ということだ。もし話して分からなきゃ、俺が責任を持って力尽くでも説得する」


 ……な、なるほど。


 まあ、確かにこれなら『説得』に関しては上手くいくかもしれない。これを『説得』の範疇に含めるのかどうかは意見が分かれそうだが。


「頼む……この通りだ! 今ジルドを倒せるのは、俺が知る限りレインたちしかいない。ついこの間、内定取消なんて酷い扱いをしちまった俺が頼めることじゃないことは分かってる! だが、そこをどうか頼む! どんなことでもする……だから!」


 必死に懇願してくるレイヴン。


 ここまで条件が揃うなら、答えを出すのは簡単だった。


「分かった。ジルドに関しては俺たちに任せてくれ」


「本当か⁉︎」


「ああ。レイヴンさんが他の幹部の説得に成功すれば、だけどな」


 必死さに心を打たれて……ではない。つい数日前、俺が『黒霧の刃』への内定を取り消された時、俺の必死の懇願は聞き入れられなかった。だから、俺も態度で対応を変えるようなことはしない。


 その上で頼みを聞き入れたのは、俺たちにとってメリットがあったからだ。


 元々、ジルドを含め『黒霧の刃』を壊滅させるつもりだった。……というより、壊滅以外では王都を守り、リーシャの気が済む結末はなかったのだ。


 だが、レイヴンさんの説得があるなら状況は一変する。他の幹部たちへの説得に成功すれば、俺たちが戦うべき相手は大幅に減り、ジルドのみに限定される。


 より安全に、より簡単に同じ目標に到達できるなら、その方が良いだろう。


 あくまでもドライに判断した結果なのだが……感謝されて困ることは何もない。これは俺の胸の内だけに留めておくとしよう。


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