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第26話:襲撃

 ◇


 王都への帰路の途中、俺はふと足を止めた。


「……」


「レイン、どうしたのですか?」


 無言で立ち止まった俺を不審に感じたのか、ミリアが声をかけてくる。


「悪い、ちょっと静かにしてほしい」


 疑問符を浮かべるミリアとリーシャをよそに、俺は目を閉じて五感を研ぎ澄ませた。


 俺は普段から『探知』で周囲の魔力に気を配っているのだが、今日は街を出てからずっと二点の魔力が気になっていた。


 おそらく、この二点の魔力は人間。それも、人間の中ではかなり強い魔力を感じる。


 最初は同じ現場へ向かう冒険者かとも思い、それほど気にしていなかった。だが、常に一定の距離を取りながら付かず離れずなのが気になっていた。


 俺たちがノーブル山の岩山で依頼をこなしている間は、一キロほど離れた場所でずっと動かなかった。まるで俺たちを監視しているかのような動きで、気味が悪い。


 俺が立ち止まったのは、この二点の魔力が距離を詰めてきていたからだ。これほど広大なフィールドで俺たちの方へ一直線に近づいてきているのは偶然とは思えない。


 どうして俺たちを追いかけるのか事情を聞きたい。それが叶わないとしても、姿だけでも確認しておきたかった。


 五感を集中させたことで、足音や息遣いから大体どの場所にいるのかハッキリわかる。


 スピードを上げてきた。あと数秒で——


 と、その時。


 大きな魔力の発生とともに、ヒュっという風切り音が聞こえた。


「……⁉︎ 二人とも、伏せろ‼︎」


「え?」


「……っ⁉︎」


 俺が声を上げたとほぼ同時に、ミリアとリーシャが指示通りにその場に蹲る。


 それから一秒にも満たない時間の後——


 ドオオオオオンッ‼︎


 と、俺たちの真後ろで小さな爆発が起こった。


「な、なんですか⁉︎」


「何の前触れもなかったわよね⁉︎」


 ミリアとリーシャは混乱しているようだ。


 あまり詳細を話す時間的余裕がないが、最低限の情報共有はしておこう。


「今のは、多分……火属性の魔法が込められた矢だ。今日街を出てからずっと、俺たちの周りをうろちょろしている二人組の人間がいた。多分そいつらだ。警戒してくれ」


「ぜ、全然気が付きませんでした!」


「いったい誰⁉︎」


 リーシャが言った瞬間、件の二人組が姿を現した。


 二人組のうち、弓を持つ冒険者の姿を見た瞬間、俺は絶句するしかなかった。


「レ、レイヴンさん……⁉︎」


「……」


 俺と顔を合わせるなり、レイヴンさんは気まずそうに少し俯いた。


「どうして……あっ……そういうことか……!」


 『Sieg』のシナリオでは、クランを抜けたリーシャをクランマスター——ジルドの命を受けた剣士ルーガスと弓魔士レイヴンが襲い、返り討ちにされるというシーンがあった。


 原作ではリーシャは当然俺と出会わないため、ソロで活動しているところで襲われるため、今とは状況がまったく異なる場面だった覚えがある。


 そうか……俺の行動によってシナリオが変わってしまったということか。


「レイヴン! ルーガス! どういうつもり⁉︎ 当たってたら、怪我じゃ済まなかったわよ⁉︎ 危ないじゃない⁉︎ 私だけじゃなくて、ミリアとレインも危なかった! あなたたち、自分が何をしたか分かってる⁉︎ ねえ!」


 リーシャが見たこともないくらい剣幕で二人を怒鳴り散らす。


 何も言葉を発さないレイヴンをチラッと見てからルーガスが話を始めた。


「俺たちだって、好き好んで元同胞を殺めようってわけじゃねえ。だが、裏切り者を放っておくことはできないってことだ。そこの新人を巻き込むことになったのは気の毒だが……恨むなら、そこのリーシャを恨むんだな!」


 そう言った後、ルーガスが俺に向かって勢いよく剣を振り下ろしてきた。


 同時に、後ろのレイヴンも弓に次の矢をセットし、ミリアを狙っている。


 なるほど。この二人は、ミリアと俺をただのFランク冒険者だと思っている。先に俺たちを始末してから、ゆっくりリーシャを処理しようということか。


 やれやれ。こうなっちゃ仕方がないか。


 俺は『全属性石化』を発動。


 エリアボス『レッド・ドラゴン』の攻撃をも無効化した防御魔法で身を固めた後、地を蹴り、ミリアのもとへ急いだ。


「バカめ! 避けようたって、俺の剣からは——」


 キン——‼︎


 ルーガスの剣は俺の背中に触れた瞬間、甲高い音を鳴らして跳ね返されたのだった。


 これは、決して斬れない壁に剣を打ちつけたようなもの。この状況を予想していなかったルーガスは、反動で姿勢が崩れてしまう。


「なっ⁉︎ なんだこの硬さは⁉︎」


 ルーガスが驚いている中、既にミリアを狙ったレイブンの矢は放たれている。


 このまま、ルーガスの時と同様に高い防御力の俺が代わりに攻撃を受けるという手もあるが……今回は余裕がある。よりスマートに処理することとしよう。


 ミリアの前に立った俺は、しっかりと矢の軌道を確認し、スッと手を伸ばす。


 そして、矢の勢いを殺すよう意識し、ソフトタッチで受け止めた。


「……はっ⁉︎ 手で矢を止めただと⁉︎」


 俺は無言で矢を真っ二つに折り、レイヴンに声を掛けた。


「やれやれ。大したことがないな。これで終わりか?」


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