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第23話:裏技

 まさか、ベストな形でリーシャを獲得できるとはな。


 思わぬ収穫だ。


「ところで、レインたちのランクはいくつだったかしら?」


 この世界では、冒険者ランクによって受注できる依頼の難易度が異なる。


 パーティ内でランクが低い者がいる場合、最低ランクの冒険者に合わせた難易度の依頼しか受注することができないため、尋ねているのだろう。


 少し気が引けるが、隠しても仕方がない。正直に言うとしよう。


「Fランクだ」


「Fランクです」


「え……?」


 俺とミリアがありのままを告げたところ、リーシャが固まった。


 困惑しているようだ。


「えええええええええっ⁉︎ は⁉︎ Fランク⁉︎ 嘘でしょ⁉︎」


「……悪いな。本当なんだ」


「で、でも私の目にはレインたちがFランクには見えないのだけど⁉︎ Fランクって、新人冒険者じゃない⁉︎ 真面目にやれば数日で卒業するものよ⁉︎」


 事情を話せばすごく長いことになるのと、出会ったばかりのリーシャにミリアの件はどこまで話して良いのやら……。


 俺が対応に困っていたところ、隣で一連の流れを見ていたシオンが間に入ってきてくれた。


「リーシャちゃんよ、確かにレインたちはランクこそFだが……実力は本物だ」


「え、あなた誰?」


 まあ、当然の反応である。


 シオンがリーシャを認知していても逆はそうとは限らない。


「俺はシオン。レインたちに昨日助けられた身でな。驚くなよ? こいつら『レッド・ドラゴン』を二人で倒したんだ。しかもレインは見たこともねえ回復魔法で瀕死の俺を一瞬で治してくれたんだぜ? 新人なんて話、とてもじゃねえが信じられねえよ」


「『レッド・ドラゴン』!」


 どうやら、シオンのこの説明でピンときたようだ。


「ふふっ、分かっていたことだけれど、私の目は確かだったようね。そう、ランクなんて関係ないのよ。さすがにちょっと驚いたけどね! それなら、やることは一つよ」


 リーシャはビシッと俺たちを指差して、ドヤ顔を決めた。


「さっさとランク上げをするわよ。とりあえず、Eランクになるのが今日のノルマね!」


「お、おう……」


「そうですね!」


 とはいえ、ノルマといってもギルドポイントを集められなければ、どれだけ強くてもランクアップできない。


 ポイントを効率よく稼げる良い依頼があればと思うのだが——


「ん、どこ行くんだ?」


「ギルドにはちょっと裏技があるの。まあ、見てなさい」


 ……と言いながら、リーシャは受付嬢がいるカウンターへ向かった。


「ねえ、今いいかしら」


「いかがされましたか……?」


「私、そこのレインたちのパーティに入ったのだけど……二人はFランクだっていうのよ。Fランクの冒険者だとFランクの依頼しか受けられないじゃない?」


「そのような決まりになっていますね。ただ、リーシャ様がお困りだとしても、我々としては規則の方はどうしようも……」


「違うわ! 融通を利かせてくれって言ってるんじゃないの。私はただ、一日でも早くレインたちのランクを上げたいだけ。そこで——」


 リーシャは両手を合わせて祈るような姿勢になり、うるうるとした瞳で受付嬢を見つめた。


 そして。


「お願いします……! どうか、ギルドポイントが高い依頼を……依頼を……紹介してほしいの! ……お願い! なんでもするから……!」


 リーシャはひたすら拝み倒すのだった。


「リ、リーシャ……?」


「いいから、レインはあっちで待ってて」


 心配になり、駆け寄ろうとするも拒絶されてしまった。


 仕方がない。見守っておくこととしよう。


「お願いお願いお願いお願いお願いお願い‼︎ お願いします‼︎」


「え、ええと……」


 ひたすらカウンターの前で粘り続けるリーシャ。


 受付嬢さんも困惑しているようだ。


「わ、わかりました! 掲示板にまだ出していないギルドポイント高めの依頼をご紹介しますから……! もうやめてください! リーシャ様のそんなお姿誰も見たくないですから!」


「本当⁉︎ 何ポイント⁉︎」


「100ポイントです。Fランクとしては難易度が高いですが、レインさんたちにリーシャ様まで付けば楽勝でしょう。この依頼を一件こなしていただければ、ランクアップできますよ」


「すごい! ありがたいわ‼︎」


 パッと笑顔を咲かせたリーシャが依頼書を持って戻ってきたわ。


「裏技が上手く行ったわ。喜びなさい、今日でランクが上がるわよ」


「……お、おう。サンキューな」


「す、凄かったです……」


 リーシャは裏技と言っていたが、とんでもない。


 その内容は、ただひたすら効率の良い依頼をくれるようお願いすることだったらしい。……ある意味、正攻法だ。


 それにしても、俺たちのためにここまでしてくれるとは……。おかげでかなりの時間短縮になった。何か、別のことでお礼をしないとな。


「じゃあ、早速行きましょうか」


「ああ。あっ、でもちょっとだけ待ってくれ」


 そう言って、俺はシオンたちの方へ向かった。


 さっきリーシャに俺たちの実力を説明してくれたのは助かったが、色々な場所で言いふらされるとたまったもんじゃない。俺は目立ちたくないのだ。


「みんな、昨日のことなんだが……なるべく口外しないでほしいんだ」


「レインが俺たちを助けてくれたことをか……?」


「ああ。それと、どちらかというとエリアボスを二人で倒したこと」


 俺がこのようにお願いすると、三人は困惑顔を見せた。


「レインがそう言うなら黙っておくが……冒険者が実績を隠すなんて損しかないぞ?」


「いいんだ。頼む」


「はあ……まあ、良いけどよ。気が変わったらいつでも言ってくれよ? いつでも言いふら……速攻で王都中に広める準備はしておくからな」


「……はは、その時は頼む」


 俺はそれだけを伝えて、ミリアとリーシャの方へ合流。


 今日の冒険へと出発したのだった。

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