薬草茶を、買いに
「お昼ごはん持ってきました。」
薬草畑には、リグさんとマンドラゴラが作業をしている。
今日は、叔父とパックは、キース様のところへ薬の納品と、ハーブティーを試飲してもらおうと持っていってくれている。
ハーブティーの委託販売店として、キース様の薬局が候補に上がった。領民の皆が気軽に立ち寄れる場所だし、薬草に詳しいキース様がいてくれたら心強い。
今日のお昼ご飯は、パンとポテトフライと鶏の唐揚げだ。
最近、オリーブオイルを大量に入手出来たので料理長にリクエストしたら、とっても美味しく作ってくれた。さっき味見したから間違いない。
リグさんとマンドラゴラ、そして私で畑の隅に置かれた木のベンチに腰掛け、昼食を楽しむ。
ハーブティーを配合していると、ずっと室内にこもってしまうので、最近は、こうして理由を作って外に出るようにしている。
気分転換大事。
外だし、身内しかいないし、ホントはだめだけど、手で唐揚げつまんで食べちゃおうとしていたら、ふいに視線を感じてそちらに目をやる。
ちょっと離れた藪の側にちびっこが立っている。目が唐揚げに釘付けだ。よだれもちらっと出ている。
試しに唐揚げを持って左右に振ったら、その子の頭も左右に揺れる。
どこかの子が遊びに来たのかな。襟足までの白い髪に金の瞳がきれいな子だ。
「食べる?」
聞いてみると、おずおずと頷くので、唐揚げを持っていってあげる。
「はい、どうぞ。」
「…ありがと。」
小さな声でお礼を言って、唐揚げを齧る。ひとくち食べて目を輝かせて感動していた。
あまりにも可愛いので、私の唐揚げを全部あげてしまった。
「ここには、どうして来たの?」
食べ終わってから、聞いてみる。
「あの、お茶が欲しくて。」
「ああ、ごめんね、飲んで。」
カップに入った紅茶を渡す。
「あの、いや、違うの。」
何だろう。紅茶、嫌い?
ちびちび紅茶を飲みながら、ちびっこが言う。
「薬草のお茶が、欲しいの。」
「ああ、ハーブティーのこと?」
お客さんか。
「どうしてお茶が欲しいの?」
「母様がね、お熱があって。治してあげたいの。」
聞いた瞬間、もらい泣き決定な話だ。治してあげたいが、ハーブティーでどうにかなるものなのか。
「ハーブティーじゃ、治らないかもしれないから、お医者様に診てもらうほうが良いわ。」
「みてもらったらね、お茶が良いって言われたの。」
「そうなの?」
少しでも力になれたら。確か、熱冷ましと、リラックスの効果があるハーブティーをさっき作ったはず。
「ええっと、あるよ。ちょっと待って。」
淑女のシークレットポケットを探る。よしあった。
「はい、これ、どうかな。」
さっき小袋に詰めたばかりの出来立てだ。
スンスンと小袋の匂いを嗅ぎ、頷くちびっこ。
「それ、飲んだら、味にびっくりするかもしれないから、気を付けて。ちょっとそれ、苦いの。あと、見た目が赤くってとろみが付いてるの。でも、飲んだ後、良く寝付けるから。」
ちびっこが着ているベストのポケットから大事そうに布にくるまれたものを取り出す。
それを私に手渡してくれる。
「なあに?」
手を広げて見ると、それは小指の爪ほどの種だった。
「これ、あげるから、お茶ちょうだいね。」
「お茶は、そのままあげるから、いいよ。種、大事なんじゃないの?」
そう聞くと、ちびっこは首を横に振る。
「母様がね、もらったら、あげなさいって。」
「良いの?じゃあ、交換ね、ありがとう。」
「うん、ありがとう。」
「いつでもいいから、またおいで。」
そう言うと、ちびっこは頷いて藪の向こうに消えていった。
「え、そっち道あったっけ?」
静かに様子を見ていたリグさんとマンドラゴラに聞く。
二人とも、深い溜め息をついている。
「あれじゃなあ、ソニアお嬢様は薬草に好かれとるしな。じゃから、お前さんもここにおるんじゃしな。そういうめぐり合わせなんじゃなあ。」
マンドラゴラが相槌を打っている。
何なんだ。
「ソニアお嬢様、あの子どもはここらの主の子どもじゃ。普通、ここでワシらがお目にかかることはない。」
主ってなに?
「魔の森に住む、魔物の主じゃ。少々の魔物じゃない。ワシらは霊獣と呼んどる。その子どもじゃな。」
「どうしてリグさんもマンドラゴラも分かるのです?」
「気配じゃな。ソニアお嬢様は分からんかったんじゃな。まあ、なんぼか、魔物との修羅場くぐったら、分かるようになってくるから大丈夫じゃ。マンドラゴラは、自分が魔物じゃしな。」
マンドラゴラがうんうん頷いている。魔物との修羅場とか、何言ってるんだ。
「後は、あの金眼じゃな。昔から金眼は霊獣の証じゃと言われとる。子がおるとは聞いたことがあるが、人の姿は小さかったのう。」
「あの、もしかして、主さんは、もふもふ系ですか?」
そういえば思い当たることがある。
「もふもふ?ああ、毛が生えとるな。主は大きな狼の姿じゃな。ワシは一度だけ遠くから見たことがあるんじゃ。」
やっぱりかー、さっき変だと思ったの!
「あの子、お手々が、もふもふだったんですよね。」
「おおー、そうかそうか。」
リグさんののんびりした返事を聞きながら、前世で大好きだった、手袋を買いに来た子狐の絵本を思い出していた。




