ハーブティー、万歳
ふっと、目を開けると、そこは白い世界だった。自分以外の全てが白色一色。
ソニアではない、前世の自分。それだけ、分かる。
上を見ても、足元を見ても、白いだけ。何も無い。
不意に、一人ぼっちだと感じる。
いつからここにいたのか、これからもずっとここにいるのか。
虚無の世界。
なんの音もしない世界に、なぜか悲しい気持ちになり、その場に座り込み、目を閉じる。
どの位、目を閉じていただろう。かすかな音に目を開く。
少し離れた所に、誰かいる。膝を抱えて座り込んでいる。
その姿をみて、ほっとした。もう、ひとりじゃない。
側に行ってみよう、そう思い、歩き出す。
そこにいたのは、小さな子どもだった。
顔を伏せて、膝を抱えた子ども。
その子に声を掛けようかと思ったけれど、声を殺して泣いているようだ。
考えた末、声をかけるのは止め、側に座る。
静寂の中、二人の時間が流れる。
「どうしたの、ソニア。」
しばらくすると泣き顔をこちらに向け、子どもが話しかけてくる。
「一人ぼっちで寂しかった時、貴方を見つけたから、ここに来たの。」
ハンカチを渡そうと思い、淑女のシークレットポケットをゴソゴソ探る。あった。
子どもの顔をそっとハンカチで拭く。ついでにポケットに何故か入っていたクッキーを手渡す。
「ソニアのポケットは何でも入っているんだね。」
はにかみながら子どもが笑う。良かった、笑顔が見られて。
えへへと笑い、更にポケットを探ると、何と金貨が。
「これも好きなの。光ってきれいだし、手に握ったときの大きさと重みがちょうどいいの。貴方にあげる。」
子どもは驚いた表情をしたが、すぐに笑顔になって受け取ってくれる。
「ソニアの大切なものじゃないの?」
「大切だから、貴方にあげるの。」
「どうして私にくれるの?」
「貴方が大切だから。」
子供の顔が苦しそうな表情になる。どうしたんだろう。
「私がソニアを苦しめているとしても?」
少しの間、考えるが、苦しめられた記憶がない。
「私、貴方に苦しめられていないわ。貴方と一緒にいられて、私は幸せだもの。貴方が大切よ。」
そう言い終えると、子どもが私に抱きついてきた。
抱きしめられた感覚が何かとダブる。
「叔父様。」
一言そう言うと、黒髪の子どもは、笑って言った。
「どうか忘れないで。ソニアの幸せが私の幸せだから。」
手を伸ばすが、世界が崩れていって、離れ離れになってしまう。いやだ、離れたくない。
手を伸ばし続け、視界が暗くなった。
◇◇◇
目を開けると、怖い顔のどアップだった。
「おおうっ。」
一応伯爵令嬢なのに、令嬢らしからぬ声をあげてしまった。ちょっと息を整えようと深呼吸する。
何故、マンドラゴラが枕元にいるのだろう。
「お目覚めですか、お嬢様。」
リズが顔を出す。
そこで、昨日、ハーブティーを作りまくっていた事を思い出す。バッと飛び起きると、ちゃんと寝巻きを着ている。
「いろいろ本当にごめんなさい。寝落ちしました。」
マンドラゴラにもごめんねと謝る。
リズがマンドラゴラを褒めていた。マンドラゴラ、リズに褒められるってすごいことなんだよ。
身支度をして、食堂へ。
着席後、すぐに料理長がやってくる。苦情は受け付けないぞ、と身構えていたら、何だかとても良い笑顔だ。
「ソニアお嬢様。昨日のハーブティー、夜に屋敷の皆で試飲会をしました。見た目や味は、どれも個性的で、表現しづらいのですが、どのハーブティーにも言える効果がありまして。」
え、お腹痛くなった?
「飲んだ者皆、疲労感や肩こりが軽減されたと報告がありました。風邪気味の者も良くなったと。」
「そうなの?それは良かったけれど、副作用的なものはなかった?」
「今のところ、聞いてないですな。私も持病の腰痛が軽くなりまして、ソニアお嬢様のおかげですな。」
ガッハッハと豪快に笑っている。料理長はハーブティー、気に入ってくれたようだ。
「私も、昨日はソニアのお陰で良い夢見られたよ。これからもハーブティー、作ってね。」
そう言ってくれる叔父の顔を見ると、何だかとてもあたたかい気持ちになった。
至福の極み。ハーブティー、万歳。




