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上位存在の私、人間の尊さを知る  作者: くちばし
Vol.0 『この地獄のような世界で』
2/8

『人間を知る』

 人間とは実に不思議な生き物だ。

 我々には理解出来ない鳴き声で交流し、高度な連携を取り、そして私たちにも名をつける。

 彼らは私たちを『モンスター』と呼び、中でも特に強大なモンスターは『ネームドモンスター』と呼称している。

 あくまで私なりに噛み砕いた単語の解釈だから正しいかは分からんが、概ね合っていると思う。

 何故わざわざ屠る者に名を名付けるのか、私にとっては理解に苦しむ内容だが、異種族なのだからそれも仕方ないのだろう。


 私に名付けられた名は『ノーフェイス』という名だ。

 何故そのような名になったのかは理解できないが、それなりに意味はあるのだろう。

 私の名を知った日、その日は四人ほどの人間が武器を手に取り、私を屠ろうとした。


 一人、大きく踏み込みながら、剣を振りかぶって私を断ち切らんとする。

 明確に向けられた殺意は私の臆病な本能を刺激して、私の体を突き動かした。

 本来ならば人間が突き進むであろう空間に、まるで転移したかのように私の体が支配する。


「え、はや……」


 呆気に取られたかのような声を漏らした人間の顔は、何が起きたか分からないと云った表情をしている。

 そんなものは気にも留めず、腕から生えた刃をただ全力で振り、人間の体を真っ二つにした。

 鮮血が散る、私の体を濡らす。

 生暖かく、そしてまだ生気を感じる微かな熱。

 代わりに私の下に落ちた人間は小刻みに痙攣し、死の舞踏を踊っていた。


「おま、え……お前、よくもぉぉぉッ!!!」


 続いて憎悪を込めて走り出した二人目は長い槍を持って、その切先を私の胸に目掛けて放たんとした。

 戦いにおいて熱くなるのは、自分の命を相手に差し出すようなもの。

 見え透いた直上的な攻撃に対し、軸をずらして最小限の動きで交わす。

 勢いを殺さず私の懐に入ってきた人間は、ここから攻撃に移ろうにも相当の時間を要するだろう。

 その隙を見逃さず、私は生まれ持った爪で人間の頭を割り、引き裂いた。


 これで二人始末し、残りも二人。

 二人のうち、片方は確かに怒りを抱いており、もう片方は唖然としていたか。


「クソ、クソ……!! お前だけは絶対に殺してやる!!」


 そのように鳴いた人間は、唖然としている人間を置き去りにして何処かへと走り去っていった。

 仲間意識が高いと思っていたから、まさか仲間を置いていくとは思わなかったのを鮮明に覚えている。


「あ、え……」


 残された人間は、私の前でへたり込む。

 腰に備えられた剣を抜き取る様子もなく、涙を流す様子もなく、声を出す様子もなく。

 絶望と表現するに相応しいその様は、私にとって見慣れたものだった。

 返り血に濡れた長い白い髪に、他の人間よりも明るい瞳……人間にしては珍しい容姿だが、それ以外は何も変わらない。


(もう、殺すか)


 決してその様が気持ち良いものではない。

 そして見た目が不気味にも感じる。

 不快に感じたそれを払拭するために、刃を振り上げた。

 振り上げた瞬間、だった。


 私の胸に、何故か人間が抱きついていた。

 脳に流れたのは困惑の一言のみ。

 宿った殺意は散漫し、私の心を揺らし続ける。


「あぁ、よかった、本当によかった……もう良いように利用されずに済むんだ……助かったぁ……!」


 安堵したかのように延々と鳴く人間に、余計私はたじろいでしまう。

 何故先まで絶望していたのに、安心できる。

 私はお前を殺そうとしたのに、何故抱きつく。

 混濁する疑問は私の意識を惑わし続ける。


「もう何だってします、貴方は命の恩人なんです……何なりと、私にお申し付けください」

「ア、ヴ……?」

「……あれ、もしかして言葉が分からない? おかしいな、情報が正しければ交流が出来るって聞いたんだけど……」


 訳の分からない言葉を使う人間に、私はただたじろぐことしかできなかった。

 顎に手を当て、何かを考える人間。

 はっとした刹那、もう抱きつかれていないことに私は気付いた。


(こんな人間に付き合ってられない)


 とにかく未知の恐怖から逃げ去りたい。

 その一心で、私は空を翔んだ。

 人間が何やら叫んでいたが、構うことなく。

 もう関わりたくなかったから、無視を貫き。

 住処に駆け込むように、ただ空を翔ける。


 一重の安息。

 洞穴の仄暗さが、確かに安心感を与えてくれる。

 これこそが私にとっての平穏であり、日常。

 もうあのような騒がしい人間に会うこともないのだ。

 そう思い、思い込み、私は瞳を閉ざす。


「あ、ここにいた」

「……?????」


 洞穴から差す影と声。

 微かな明かりを塞ぐ人間は、先の人間だった。

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