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無事冒険者になれました

 冒険者ギルドに戻ったイリス達を迎えたのは、ユスティだった。

 彼女はすぐにリック達を治療する手続きを済ませて、彼等をギルドと協力関係にある病院へと搬送した。

 諸々の手続きを済ませたユスティから、改めて状況の説明を頼まれる。


「ボクとルブリムは戦っただけだからね。詳しいことは、そこのヘイゼル君に聞いてくれ」

「ん」


 状況だけをいうのならば、イリスの言葉は正しかった。

 イリス達はあくまでも冒険者見習いなわけであって、それを監督していたのはヘイゼルという形になる。

 ヘイゼルがありのままあったことをユスティに上手く説明してくれたおかげで、無事にその日のうちに冒険者としての証明書が発行された。

 手元に輝く一枚のカード。そこにはイリスの名前や冒険者としてのレベルが刻まれている。


「ほほう、これが冒険者の証か」

「おぉ」


 椅子に座って、イリスとルブリムは改めてそれを見つめる。

 特に飾り気のない一枚のカードが、今は妙に誇らしいものに思えた。


「苦労しただけあって、喜びも大きいものだね。ルブリム、君もだろう?」

「うん」


 相変わらず無表情のルブリムも、気持ち嬉しそうに見える。


「明日からはギルドでクエストを受けて、やることは沢山だ」

「……イリスは」

「うん?」

「なんで冒険者になろうと思ったの?」


 ルブリムがそう尋ねる。


「ふむ。それはボクのこの有り余る才能が冒険者に納まっているのが勿体ないと言う意味かな?」

「……多分違う」

「……そうか」


 確かに、ルブリムには語ってもいいかも知れない。

 少なくとも一度は戦場を共にした中ではあるのだから。


「ボクが冒険者になった目的は、友達を作ることだ」


 高らかに、胸を張って宣言する。

 思ったよりも声が響いて、近くで喋っていたユスティとヘイゼルもこちらに注目しているのが少しばかり恥ずかしかった。


「どういうこと?」

「言葉通りの意味だよ。冒険を通じて信頼できる友を得る。それこそがボクの目的の一つだ」

「ふぅん」

「なんだ、折角聞いたのに興味なさそうだな」


 非難の意味を込めて、少し高い位置にあるルブリムの顔を睨みつける。

 それを見たルブリムは、相変わらずあまり表情の出ない顔の頬を小さく緩めた。


「じゃあ、わたしはイリスの友達だ」

「……む」


 面と向かっての言葉に、反射的にイリスはたじろいでしまう。

 だが、考えてみればそれも悪くはない。


「確かにそうかもな。君はボクの、記念すべき友人一人目だ」


 腕を組んで、偉そうにそう宣言した。


「……一人目?」

「そうだが?」

「他に友達は?」

「いないが?」

「やっぱり」


 何やら可哀想なものを見る目で見られたが、一先ず気にしないことにする。イリスの見立てでは、恐らくルブリムも友達がいない……と勝手に思うことにした。


「なんにせよ、これでボクの目的に一歩近づいたわけだ」


 改めて、冒険者ギルドを見渡す。

 すぐ傍ではユスティとヘイゼルが何か会話をしており、離れたところにある食事スペースでは大勢の冒険者達が談笑をしている。

 依頼を見繕う者達や、酒を飲んでくだをまくものだど、そこにいる人々は様々だ。ここならば、イリスもルブリムも異彩を放つことはない。


「未知への出発だ。精々、希望を抱いていくとしよう」


 イリス・ノルダール。

 後に名を馳せる冒険者にして最強の魔導師。

 そんな彼女の大いなる一歩は、今日この日より始まったのだった。


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