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イリスの敗北(二人目)

「ふー……」


 ガエルを消し飛ばしてから少し後、ヘイゼルが大勢の冒険者を伴ってケンドールの屋敷へとやってきた。

 彼等に色々と事情を聞かれそうになったのだが、イリスが疲弊していることを見抜いたヘイゼルによってそれは後日に回してもらえることになった。

 それから周囲にはまだ水晶の影響で強力な魔物が出没しているかも知れないことを伝えると、彼等は自主的にそれらの掃討と哨戒を買って出てくれた。

 とは言ってもあくまでもイリスがそれを警戒していると言うだけの話だし、例えいたとしても数匹だろうから、腕利きの冒険者であるロレンソがいれば問題ないだろう。一応、それに加えてルブリムにも彼等に協力するようには言っておいた。

 そして今、イリスはヘイゼルと一緒に宿の部屋にいた。殆ど動けなくなったイリスをおぶって、ヘイゼルがここまで連れてきてくれたからだ。


「やっぱり内側から魔力を出すと、堪えるね」


 鞄を開けて、空になったカードリッジを見る。長方形の手のひらサイズの箱には魔力を貯蔵するための魔石が入っているが、全て輝きが失われている。


「イリスさんは、普通の魔法使いではないのですか?」

「イリスでいいよ。まぁ、そうだね。ボクが天才美少女魔導師なのは言うまでもなく、学園を追放された際に封印術式を施されている。こればっかりは相当強力で、ボクでも解けないほどさ」

「どうしてそんなことを?」

「学園を追放されることは、それだけのことをしたということだからね。そんな輩に、魔法学園で学んだ技術を外で使われるわけにはいかないって処置だよ」


 話しながら、ヘイゼルは部屋に備えられている簡易的な風呂の準備をしてくれている。風呂といっても水が出る魔法道具からシャワーが出るだけで、後はそれの温度が調整できるだけのものだ。その部屋にしても、非常に狭い。


「だからボクは、普段はこうやってカートリッジに貯めた魔力を使って魔法を使っているんだよ。これもボクの発明だね」


 えへんと胸を張るだけの体力も残されていなかった。


「それとは別に内側から無理矢理魔法を引き出すこともできるけど、かなりの苦痛を伴う」

「……痛みますか?」


 心配そうに、ヘイゼルがこちらを見ていた。


「痛みはもうないよ。ただ身体が動かないだけ」

「なるほど」


 魔法を撃った直後の苦痛に悶えている姿を見せないですんだのは、イリスにとっては幸運だったのかも知れない。下手をすればそのまま病院に担ぎ込まれていた可能性もある。


「ただ、まぁ……少し疲れたから眠らせてもらうよ」


 今日は色々なことがありすぎた。

 魔導師との戦いに、ガエルとの決着。水晶の行方は気になるが、考えるのは明日以降でもいいだろう。

 それに、得たものもあった。


「ヘイゼル」

「なんでしょう?」

「君はこれからも、冒険者として生きていくつもりかい?」

「……はい。いつかは家の復興を、とも考えていますけど。今のわたしには足りないことばかりですので」

「よかったら、ボクと一緒のパーティになってくれないか? 真面目な君がいてくれると、何かと助かる」

「奇遇ですね」


 いつの間にか、ヘイゼルはすぐ傍にいた。ベッドに転がるイリスを見下ろし、柔らかく微笑みかけてくる。


「貴方が誘ってくれなければ、わたしからお願いするところでした」

「……じゃあ、決定だね」


 確かに実力で言えば、彼女はイリスやルブリムには劣るだろう。

 それでもその実直さや優しさはイリスにとって必要なものだった。


「そういえば、彼のことは大丈夫かい? あの、リック君は?」

「はい。リックさんはあくまでも縁で何度か一緒に依頼を受けただけですので。元々、彼にも別のパーティがあるはずですから」


 で、あれば問題はないのだろう。

 そう思っていると、不意にイリスの身体がひょいと持ち上げられた。

 イリスが小柄というのもあるが、流石にヘイゼルも冒険者で前衛をやっているだけあって、それなりに力がある。


「何のつもりだい?」

「はい。お休みになるのなら、その前に汗を流した方がいいかと思いまして」

「いや、それはそうだが見ての通りボクは動けないのだけど?」

「ですから、一緒に入りましょう。大丈夫です、狭くてもイリスは小柄ですから、何とかなります」


 何やらイリスとしては複雑な気分だが、ヘイゼルは冗談を言っているような雰囲気ではなかった。そんなやり取りをしている間にも、手早く衣服が脱がされていく。


「ちょ、ちょっと待ちたまえ!」

「それに、ルブリムさんからも聞きましたよ。イリスが悪い夢を見ないように、しないといけないことがあるって」


 ヘイゼルは顔を赤くしながら、そんなことを言う。いつの間にか彼女も服を脱いで、二人は一緒にシャワー部屋に入る。


「いやいやいや! そういう問題じゃないだろう! こう、色々と!」

「ご安心ください! わたしはそう言う経験はありませんが、イリスならむしろ歓迎です!」

「ボクの意思は何処にある!」

「それもルブリムさんが言っていた通りですね! 最初は嫌々言っているけど、すぐにその気になる……」

「そういう恥ずかしい話はしなくていいんだ!」

「取り乱しているイリスも可愛いですね。それでは!」

「それではじゃ……あっーーーーーー!」


 狭い空間でお湯を浴びながら、乙女同士が柔肌を触れ合わせる状況ということもあって、お互いにその気になるのにもそれほど時間は掛からなかった。


 ――ちなみに初めてながらヘイゼルの観察眼はなかなかのもので、早々に弱点を知られたイリスは大敗北を喫することとなるのだが、それはまた別のお話。

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