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ケンドール家

 幸いにして、イリス達が暴れたお咎めはなしになった。誰がどう見てもあの状況ではガエルたちに原因があったから、当たり前だろう。

 一通り落ち着いた後のギルドで、改めてユスティがお礼を言いにやってくる。そして何故か、ルブリムの座っている位置がイリスの間隣になっていた。


「近くないか?」

「ん」


 頷くだけだった。


「今日はありがとうございます」

「なに、礼を言われるほどのことじゃあないよ。それにギルドからすれば、冒険者同士の乱闘だろう?」

「そうですね。上層部はそのように処理をするみたいです。だからこれは、わたし個人からのお礼ということになります」

「そういうことなら、素直に受け取っておくとしよう。今度飲み物の一杯でも奢ってくれたまえよ」

「はい」


 深々と頭を下げてから、ユスティは笑顔を見せてくれた。

 それから話は、あのガエル達についてへと移行していく。


「で、奴等はいったい何者なんだ? 実力的には確かにそれなりなのかも知れないが、幾ら何でも横暴が過ぎる」

「……ガエルさんは、本名をガエル・ケンドール。貴族の息子なんです」

「なんで貴族の息子が冒険者を?」

「表向きにはケンドール家の長男として家を継ぐための、武者修行だと言われていますが……」


 予想に過ぎないから、ユスティはそこから先を語らなかったのだろう。

 もし武者修行をさせたいのであれば、騎士団にでも入れればいいだけの話だ。魔法の才能がある貴族の子息、子女が箔をつけるために魔法学園に入学するという話も珍しいものではない。

 つまりは騎士団には入れない素行の持ち主ということだ。それ自体はガエルのあの発言や行動を見ていればすぐ理解できるが。


「……ケンドール」

「どうした?」


 真横を見れば、ルブリムが表情を硬くしている。


「わたしのいる村に来たのも、ケンドールの使いだった」


 ぽつぽつと、ルブリムは過去所の過去を語る。

 バリアントはその戦闘能力から、傭兵としてあちこちを渡り歩いて戦う集団を形成することがある。

 ルブリムは幼い頃はそこに属していたが、ある戦いの際にそこからはぐれてしまったらしい。

 そこである老夫婦に拾われ育てられた。それが、彼女の言うおじいちゃんとおばあちゃんなのだろう。

 彼女が育った小さな村に、ケンドールの使いがやってきた。彼等は突然重税を課し、それが払えなければ食料や人を奪っていったのだと言う。


「君が立ち向かったというわけか?」

「ん。でも、駄目だった。来た奴等は倒せたけど、キリがない。だからわたしはおじいちゃんとおばあちゃんに迷惑を掛けないように村を出て、お金を送りたかった」

「そこでその息子のパーティに入ってしまうとは、嫌な縁があるな」


 苦笑いを浮かべながらユスティの方を見ると、彼女はルブリムの境遇に思うところがあったのだろう。目に涙を浮かべていた。


「ルブリムさん……そんなことがあったんですね……。大丈夫です、このギルドは例えどのような種族であっても差別はしませんから!」


 力強くルブリムの手を握る。

 なんにせよ、彼女の居場所が確保されたのは嬉しいことだろう。


「しかし、困ったものだね。今後も奴等に因縁をつけられては、活動しにくい」

「一応、別の街で冒険者として働くのも選択肢の一つではありますが……」


 冒険者ギルドがあるのは、何もこの街だけではない。それなりの規模の街ならば、同じように存在している。

 一度冒険者になればそれは別の地方でも適用されるので、ある意味ではイリスはここに拘る理由はなかった。


「ですが、わたしとしてはイリスさんにここに残ってもらいたいと思っています。……現在のギルドの状況はあまりよくはなく、一人でも強い方が必要なんです」

「まだ銅級だけどね」


 イリスの軽口に、ユスティは少しだけむっとした顔を見せた。


「しかしまぁ、貴族かぁ……。そんな奴が治めているとは、領民は不幸だね」

「……はい。ですが、仕方ありません。以前ここを治めていたロムリア家が謎の失踪を遂げてしまいましたので」

「それはまた、穏やかなじゃないな」

「数年前までこの辺りを治めていたのは、ロムリア候と呼ばれる貴族の方でした。領民のことを第一に考える、とても慕われた人だったと記憶しています」

「その人物が消えて、後釜にケンドールが収まったと?」


 ユスティが頷く。


「キナ臭い話だとは思うが」

「ですが確証はありません。ですから」

「ああ、わかっているよ。他言はしないし、態度にも出すつもりはない」

「ありがとうございます。すみません、お礼を言いに来たのに変な話をしてしまって」


 再度頭を下げて、ユスティが仕事に戻っていく。


「ルブリム。向かいの席が空いたようだが?」

「ん」


 返答ばかりで、動く気配はない。それどころか頬を突いたり、頭を撫でたりと、スキンシップが多めになってきていた。


「急に入れ替わった貴族か……確かに冒険者の手に余る話ではある」


 冒険者はあくまでも、ギルドから降りてきた依頼を果たすものだ。そして冒険者ギルドの運営には貴族からの献金も使われている。

 貴族を監視するのは他の貴族や国家の仕事である、というのが通説でもあった。

 そしてユスティはしっかりと、イリス達に釘を刺していた。この話に首を突っ込めば、下手をすれば消される危険性すらありうると。


「だた残念なことに、ボクは好奇心が旺盛なんだ。それにちょっと気になることもある」

「……ん!」


 イリスの悪だくみするような言葉に応えるように、ルブリムも強く頷く。もっとも、イリスが何をやろうとしているのかを理解しているわけではないだろうが。

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