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追放魔導師のイリス

「イリス・ノルダール。君をこの学園から追放する」


 ウィルベーラ王立魔法学園。

 この国で最も優れた魔法の総本山であるその学長室。

 無駄に広々とした間取り、妙に広い窓。

 その奥で高級そうな机の上で手を組みながら、白髪に髭の生えた厳めしい顔の老人、学園長は厳かにそう言った。

 魔法学園からの追放。

 それは当たり前だが、ここで学んでいる生徒に取ったは死活問題となりうる。魔法を学び修めるために高い学費を出して入ってきたのだから、それら全てが無駄になることと同意味だからだ。

 しかもイリスが言い渡されたのは、退学ではなく追放である。これは生徒にとっては相当に重い処分であり、少なくともイリスが知っている限りでは追放処分を受けた生徒は他に知らない。


「……わかりました」


 しかし、そんな事実を知っている一方でイリスの反応は冷めたものだった。

 同年代の少女と比べても一層年下にみられる小柄な体躯。蒼銀の髪を二本編み込んで垂らした、眠たげな目をした少女は素直に頷いた。


「自分が何故、この学園を追放されるか、心当たりはあるな?」

「……はい、まぁ」


 気のない返事で、イリスが答える。

 正直なことろ、追放処分を受け入れたのだから早々にこの場から退散させてほしかった。荷物を纏めたりなど、色々とやることがあるのだ。


「そもそも君は授業態度があまりよくないと報告を受けている。他の生徒達と揉め事になることもしょっちゅうだったらしいではないか」


 手元にある資料を捲りながら、学園長がそう告げる。


「それは……まぁ、そうですね。とは言っても、ボクから喧嘩を売ったことはなかったと思いますけど、その辺りは書いてませんか?」


「ないな。むしろ君の方から積極的に相手を挑発するような発言を繰り返していたと書かれている」


 咎めるような視線に、イリスは目を逸らす。


「……確かに人によっては、そう感じることもあったかも知れませんね」

「確かに高位の魔導師が最も重要視するのは、己の研究結果と研鑽した魔力だ。そうなればいずれは孤独になるものかも知れん。だが、まだ未熟な学生の身分であるならば……」

「学園長」


 国内でも名の知れた魔導師であり、教育者。

 この学校の学園長は実に教育熱心であった。それこそ、今しがた追放を言い渡したイリスにも説教をくれるぐらいに。


「ボクがこの学校の生徒でなくなるのはいつからですか?」


 質問の意図を理解して、学園長は咳払いをする。

 早い話が、イリスは「もう生徒じゃないのだから説教は聞きたくない」と伝えたのだ。


「……まぁ、他の生徒との軋轢だけならばまだ見逃せたのだが、君は再三の注意にも関わらず禁術の研究をやめなかった。これが追放を決定した一番の理由だ」

「はい。理解しています」


 素直にイリスは頷く。

 その態度を見て、学園長は少しばかり拍子抜けしたような表情を見せた。


「……落ち着いているな」

「理解も覚悟もしていましたので」

「一度禁術の類に触れた者は、その力に魅入られる。であれば、それを失うことを極端に忌避するものなのだがな」

「ああ、はい。そういう人もいるでしょう」


 あくまでイリスの対応は、淡々としていた。別に相手を挑発する意図があるわけではなく、ここまでのやり取りは全て予想の範疇だからだ。


「では学園の規則により、追放処分を受けた者はその魔力の大半が封印されると言うのも知っているな?」

「はい」

「君が学んだ禁術も、その大半が使えなくなるのだぞ?」

「問題ありません。知識としては頭の中に入れてあるので」


 で、あればその力そのものは必要ない。

 それらの魔法は確かに強力であったり、人の理に反するものであった。中には非道過ぎて封印されたものもあったが、そのどれもがイリスにとって必要なものではなかった。


「……後悔する、と言ってももう遅いか。わかった」


 学園長が手元のベルを鳴らす。

 外に控えていた教師が二人、部屋の中に入ってきた。


「彼女を追放処分とする。地下にて封印術式を施せ」

「わかりました」


 片方の女教師が頷いて、イリスの肩を押すように出口へと先導する。彼女は、イリスの担任であった教師だ。


「お世話になりました」

「心にもないことを言うのね」

「バレてましたか?」

「貴方はわかりやすいもの。魔法はできても、それ以外はまだ未熟。これから苦労するわよ」

「……はぁ」


 イリスは要領を得ないまま頷いて、二人は部屋を後にする。

 二人の足音が消えてから、学園長は深く息を吐いた。


「厄介な生徒でしたが、これでようやく処分できましたね」


 と、残された男の教師が言った。

 それを聞いた学園長は、その教師を睨みつける。

 老いてもなお迫力を失わないその眼光に射すくめられて、彼はその場に固まることしかできなかった。


「馬鹿者が」


 吐き捨てるように、老人が呟く。


「捨てられたのはわしらだ。……イリスは、この学園全てにもう興味を失ったのだよ」


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