愛に気づかない鈴虫
小説というものを理解できておりませんが、初めて書いてみました。愛情の中にある別の感情をテーマにこの作品を書こうと思いました。好きな相手には愛だけでは自分の形がわからなくなります。
帰り道の電車は季節を感じさせないようにわかりやすく空調が整えられている。味気ない風景に悲しく、虚しい感情になる。しかし僕は違った。夏が終わりに向かっているが、今日は交際記念日だ。初めての彼女だった僕は何回も経験している記念日でも心は高まっている。同棲している彼女の好きなシュークリームを買って帰ることにした。貯金は底をつく勢いだったが彼女への愛は深まるばかりだ。
「ただいまー」
「おかえりなさい」
ソファーに座りテレビを見ていた。いつも通りでなんだかホッとする。部屋の中にインドのような香辛料の匂いが漂っていた。
「今日のご飯はなんですかー?」
語尾をあげ、あたかもわからないかのように彼女に問うと
「カレーですよー?」
と彼女も語尾をあげた。
「早く食べよ!冷たくなっちゃう」
「そうだね」
何気ない会話の中に暖かさを覚えた。帰る時間を考えて料理を作ってくれたと考えると体が燃える。すると、
「そう言えば私、プレゼントがあるの!」
といい奥の紙袋から何やら白いものに包まれているものを取り出した。
「ジャーン、お揃いだよ!」
無邪気な笑顔で彼女が取り出したのは同じ柄の入ったスウェットだった。僕は嬉しさのあまり笑顔が収まらなかった。
「僕も、!」
帰りに買ったシュークリームをレジ袋から取り出した。喜んでくれるか不安で手には汗が滲んでいたが、僕の汗は無駄だった。シュークリームを見た彼女は笑顔の中に黒い影があった。
僕は焦って「駅前の美味しいやつ」と口に出そうとしたが「ありがとー」と言い、スウェットを綺麗に畳んでシュークリームを受け取った。触れた手が冷たく不安は僕を覆った。
(うれしくなかったかな。僕もプレゼントをあげる余裕があれば)
カレーを食べながらそう思った。無言か続く夕食の中、重い口を開ける「カレー、美味しいね」僕の声は鈴虫の音色に負けていた。
「お金がなくていいプレゼント用意できなくてごめんね、次はちゃんとしたの渡すから。」
負けないように大きめの声で言った。
「大丈夫だよ。お金ないのわかってるし、あとどんなものでも愛があったら嬉しいよ。」
そう言う彼女の顔はどこか電車の中を思い浮かばせた。
記念日も終わりに近づいてきた頃、僕たちはベットの重力に身を任せた。
「いいプレゼント用意できなくてごめんね?スウェット大切にするね」
僕は悲しい声でささやく。
「いいってば」
あっさりした返し、その唇に僕は唇を重ねた。二人の影が重なり、彼女を思う気持ちは夜の闇に誘われた。二人の影か重なる中、外では鈴虫が鳴いている。
最後まで読んでいただき誠にありがとうございます。