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四番通りのマスターワーカー  作者: ゼッケイ・カーナ
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惑わしの生存戦略

 クレイ達の前に現れた集団は商人が話していた行方不明者達であった。アリシアの予想通り、彼らも魔法で方向感覚を失い数日の間ずっと森を彷徨っていたのだ。彼らはクレイ達を救助隊と思い込んでぬか喜びしていたが、そうでない事を伝えられると膝から崩れ落ちた。


「お、俺達ここで干からびて死んじまうのかよ~!」


「森だから水はあるぞ」


「そういう意味じゃねぇって!」


 騒ぎ始める商人達を横目にクレイとアリシアはどうすべきかを話し合い続けていた。


「そういえば空を飛べるんですよね? 空からなら大丈夫なんじゃないですか」


「普通の幻術の類ならそれでもいいんだがな。これは霧に幻術を混ぜ込んだ混合魔法だ。この手のやつにそれをすると酷い目に遭うんだよ」


「例えば?」


「人間にとって視覚というのはかなり重要な様でな。幻覚で見た景色を現在の状態だと誤認してしまうんだ。そして魔法には意識が重要、空を飛ぶ魔法なら地面から離れるという意識がな。つまり空中で地上の景色の幻覚を見たら頭が勝手に魔法を解除して墜落してしまう。この仕組みを理解していても一瞬、体が勝手に反応してしまうんだ。私はこれで一回肥溜めに落っこちたよ。あれは本当に酷かった……」


「……確かにこの状況で怪我するのはいいとは言えませんね。治癒の魔法があるとはいえ」


「そうだな。はてさて、どう……」


 続きを喋ろうとしたアリシアは突然黙った。実は先ほどから不快な音がずっと耳に入ってきていたのを無視していたのだが、流石に気になって声を掛けた。


「すまんが、そこの彼は大丈夫か? さっきからずっとくしゃみと鼻が止まらないみたいだが」


「あぁ、気にしないでくれ。ここに入ってからずっとこれなんだよ」


「なんでか……わかんないけどさぁ……ハァックシュンッ! ……目も痒いし、鼻水が滝みたいに……ブェックシュッッ!」


「うわぁ! こっち向いてくしゃみすんなよ! ビョーキかもしれねぇだろ!」


「酷い事い……ハァックシュン!」


 ただのくしゃみや鼻水というにはあまりにも酷い様相に憐れんだミリアはそこらへんの無害な葉っぱを引きちぎって渡し、そこである言葉を漏らした。


「辛いですねぇ~、妖精のからし()


「……妖精のからし粉? なんだい、それは」


「アリシアちゃん、知らないんだ。花粉の事だよ。花粉が鼻に入るとね、こんなのになっちゃうんだよ。まぁなる人は少ないらしいんだけど」


「花粉症の事か……ん? 待てよ、花粉症?」


 アリシアの脳内にある可能性が浮かび上がってくる。天を見つめがら何かブツブツと呟き始めると、自身の長い銀髪を指で二、三度梳く。そして指を見つめるとサファイアの方へと顔を向けた。


「サファイアくん、水の魔法は使えるか?」


宝飾魔法(ジェムチャント)でなら使えるわ」


「じゃあ……その剣に水を纏わせて振り回してくれ。全員、離れろ! 吹っ飛ばされないようにな!」


「? まぁ、やってみるわね」


 サファイアは剣を抜き、刀身にイメージを注ぎ込むと剣は水色の美しい魔力の光を帯び始めた。アリシアはその様子を興味深そうに眺めている。


(あれがジェムチャント。元が装飾用の魔法とは思えない魔力の出力、貴族らしく才能はあるようだな)


「行くわよ。宝飾(ジェムチャント)【アクアマリン】、解除(リリース)!」


 魔法の水を帯びた剣が鞭の如く振り回される。ゾッとするような風切り音と波が寄せては返すような音が混じった不思議なデュエットが響き続けて少しの後、水の色に変化が表れ始めた。なんとゆっくりと黄ばんできたのだ。


「え、きったな……」


「そういう事言っちゃだめですよ、ミリアさん」


「よーし、それくらいでいいだろう! その取り込んだ物を零さないように上手い事水を抜いてくれ!」


 サファイアは埃取りから埃をこそぎ取る様にゆっくりと水を落としていく。それまで薄汚かった黄色は目がチカチカとする程に濃い色の黄色の塊となって現れた。彼女の手に乗った塊はふんわりとしており、風が少し吹くだけでも敏感に反応し崩れていく。


「こ、これはなんなのかしら!?」


「花粉だよ。植物がせっせとまき散らしてるアレさ」


「もっと言い方ないんですか……」


 彼女の手から花粉の塊を手に取ったアリシアは風で飛ばないように魔力で固定し、じっくりと観察する。


「ふむ……やはりこの森から感じていた微妙に違う魔力と同じものをこれから感じる。どうやらこいつがこの騒動の元凶だな。じゃあ早速会いに行くとしようか」


 すると彼女は花粉の塊を宙に浮かし、更に月の様に淡く光り輝かせた。その様子をミリアは興味津々で見ている。


「なんの光なの、これ?」


「光自体はライトと呼ばれる魔力を光らせるシンプルな魔法だ。それに魔力の痕跡を見えるようにするロケーティングという物を混ぜている。今から私達はこの花粉がやってきた経路を逆順して大元の花へ向かうのさ。さ、準備をしてくれ! ここから脱出しよう」



 ~~~~



 浮遊する花粉塊に付いていく事たったの10分。一行の目の前に一段と窪んだ地に咲き乱れる小さな花畑が現れた。その優し気なライトブルーの花達の中にひとつ、明らかに異常な花が鎮座している。


「凄い……おっきな花が光ってるよ」


「あぁ、高濃度の魔力が起こす発光現象の一種だな。これ以上放っておいたら発火現象までおきかねん」


「……でも他のを踏むのはちょっと気が引けますね。アリシアさん、あの花だけを対処すればいいんですか?」


「 あぁ、どう見ても元凶はあれだけだからな」


「じゃあ、こうしましょうか。チェーンハウンド、あの花だけを持ってこい!」


 クレイは狙いを定めて魔弾を放つ。鎖の猟犬は飼い主の命令を忠実に守り、目標に迷いなく噛みつく。引く抜くために力を入れた時、アリシアが割って入って来た。


「ちょっと失礼。待ってもらえないかな」


「なんですか?」


「なに、君の魔力を借りるのさ」


 彼女の手が腕に触れたその瞬間、クレイの体に稲妻が走ったと錯覚するような感覚が襲ってきた。それまで感じた事もないような内側からの灼熱、自分の体内で散らばっていた魔力の糸が一本の太い糸に()り合され、一点に向かって放たれたような衝撃。

 未知の感覚に彼がフリーズしていると、彼女の手がそっと離れた。


「…………特にこれといったものはないな。もういいぞ……おい、どうした?」


「え? あ、いや……なんか変な感じがしたんで、つい」


「……君、まさかこういった外見の年頃の女児がイケるクチなのか……!?」


「断じて違います!」


 気を取り直して花を引き抜くと、周囲に満たされていた薄い霧はあっという間に消滅していった。クレイの手に握られた元凶たる一輪の花は時が加速したようにみるみるうちに萎れていく。


「これは一体……」


「本来とっくに寿命を迎えていたものが相当量の魔力を得た事で生き永らえていたんだろう。花のような小さな存在ならあり得ん話ではないな。あとそれを私にくれないか? 研究材料になりそうだ」


 こうして遭遇した自然発生型魔道具によるアクシデントは大きな損害もなく幕を閉じた。その後、無事に目的地に到着したクレイ達は意外な人物から追加報酬を得る事になる。


「今回はよくやってくれた。心ばかりだがこれを受け取ってくれ」


「貴方は……いえ、もう十分な報酬は貰っていますよ」


「いいから。これは詫びの気持ちだ」


 断ろうとするクレイの手に強引に数枚の金貨と銀貨を乗せたのは、途中パニックを起こしていた髭面の商人だった。


「……自分で言うのもなんですが、僕はひょっとしたら貴方を殺してたのかもしれないんですよ。殺すって、普通はダメな事なんですよね?」


「それはそうだが、そこまで言ってくれたことで逆に冷静になれたんだよ。経緯はどうであれ、おかげで助かった。もし厄介事があったらその時はまた頼む」


 そこまで言うと、商人は忙しそうにどこかへ小走りで去っていく。思いもよらない彼の行動にクレイはその意図が読めず固まっていた。


「なんの狙いが……?」


「狙いも何もないでしょう。商人らしく金銭で感謝の意を示しただけじゃないかしら」


「……そういうものですかね」

(一度殺意を向けてきた相手をよく信用できるな……)



 ~~~



 それからクレイ達がギルドハウスに帰る頃には夕方になっており、彼らは夕食の準備をしていた。しかしそこにアリシアの姿はない。


「アリシアちゃん、まだ帰ってきませんね」


「用があるらしいですけど……まぁ、心配ないでしょう。アリシアさんですし。ミリアさん、そこのお皿取ってください」


 粛々と準備を進めていると、力強く玄関の扉が開く音がした。何事かとその場にいる全員がリビングの入り口を注視していると、そこに土に塗れ嬉しそうな顔をしたアリシアが謎の岩塊を魔法で浮かしながら帰って来た。彼女は抑えきれない喜びを放出する様に早口で話し始める。


「いやぁビンゴだった! 花だけであんな事が出来るわけないと睨んでいたが、やはり地下に真の元凶が眠っていたよ!」


 そのまま土に汚れた岩塊をテーブルに置こうとする彼女をサファイアが睨みつけ静止する。アリシアは肩を竦めおどけた様子で床に置くと、それが何かを説明し始めた。


「こいつがあの幻覚を見せる魔法の正体だ。あの花はあくまで花粉を超広範囲に撒く事で魔法の適応範囲を広げていただけだったんだよ。つまり花粉のあの細かい粒子のひとつひとつに魔法の性質が移っていた可能性があるという事だ! これを研究すれば……!」


「その岩が? なんの変哲もなさそうだけど……」


 クレイとミリアの二人にはそこら辺に転がっている大きな岩としか見えず、これが魔法の元凶だと言われてもいまいち納得ができなかった。しかし汚れを落とそうと近づいたサファイアはその正体をすぐさま看破した。


「これ……琥珀(アンバー)の原石じゃないの!」


「あんばー?」


「宝石の一種、樹脂が長い時間を経て固まる事でできた生物由来の珍しいものよ。ノブリスで出るのはあまり聞かないわ……これなら魔道具化も納得ね」


「琥珀には生き物が閉じ込められている事が多くてね。不思議な作用だが、その生き物の特性と自然の魔力を琥珀が結び付けて増幅させるという事例が度々報告されているんだ。さしずめ、こいつには風景と同化する……カメレオンや虫なんかが閉じ込められている可能性があると私は見ている」


「それ、どうするんですか? ここで保管するんです?」


「いや、キュリオか……宝石の事だし、サファイア君の姉君にでも渡しておけばいいだろう。その前に私がじっくり調べさせてもらうがね」


「……アリシアさん」


 席に着こうとしたアリシアをクレイが呼び止めた。


「湯浴み、してきてください」


「……駄目か?」


「……駄目です」


「お腹が空いたんだがなぁ……」


 渋々といった様子で彼女は風呂場へと向かっていった。

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