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四番通りのマスターワーカー  作者: ゼッケイ・カーナ
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ヴェール伯領‐密造者制圧依頼④

 唸る獣に対峙するは一人の魔法使い。その幼い見た目とは裏腹に落ち着いたよう口調で彼女は目の前の魔獣を分析していく。


「あらかじめつけておいた傷に切断した二つの首を引っ付けたといったところか。魔獣化に際する超再生は数百年近く研究が続けられているが、サンプルの少なさから謎はいまだ多い。そんな事が起こっても不思議ではないか」


 先に動いたのは……アリシアであった。周囲に展開した魔法陣の一つから複数のマジックアローを小手調べといわんばかりに発射する。矢は魔獣の頭へ吸いつくような正確さで放たれたが、獣の歯はいとも容易く飛んできた矢の全てを噛み砕いた。


「ふむ……物理干渉が可能なレベルまで魔力を濃縮したとはいえ嚙み砕くか。その歯にはかなりの魔力が宿っているな? ほれほれ、私を嚙んでみろ、good boy(グッボーイ)!」


 四匹は示し合わせたように二匹ずつに別れて彼女たちへと飛び掛かる。

 アリシアは存外に賢いな、と感心しながら左手で作ったマジックシールドで自分に向かってきた二匹をいなし、もう二匹は右手から伸ばしたマジックチェーンで絡め取る事でその動きを封じた。彼女はその姿勢のままゆっくりと後退りし、犬達を引き離そうとする。


「レディ相手につれない事をするもんじゃない」


 たった一人の子供に自慢の商品があしらわれているのを見た男は自身が不利な事を早々に察し、再び隠し通路へと飛び込む。その瞬間に発射されたクレイの魔弾を肩に受けながらも、男はボウガンで牽制の一撃を撃ちながら闇へと消えていった。

 その後を追いかけてクレイ達も通路へと降り立っていく。


「アリシアさん、先ほどの言葉を信じて任せますよ! こちらが終わったら救援に向かいます!」


「あぁ、ごゆっくり!」


 アリシアの手によって引き留められた魔獣達は本能で彼女が一筋縄ではいかない相手だと理解していた。二匹が自身を拘束していた鎖を千切り、四匹が合流すると彼女の周りを円を描くように取り囲む。彼らは動きを止めることなく隙を窺い続けている。

 しかしアリシアは余裕の態度を崩すことなく、一匹一匹を好奇心に満ちた視線で観察し続けていた。


「取り囲んで隙を探すのはご先祖様の狩りの方法か。さぁ、次はどうする?」


 魔獣のメリーゴーランドはゆっくりと、しかして確実に速度を上げている。彼女は定期的に見る方向を変える事でけん制し、膠着状態は続いていく。

 五分ほどたった頃、彼女がそれ以上の攻撃手段を出してこない彼らに唐突に飽きて「もう始末するか」と思い始めた時だった。アリシアを取り囲む円状の軌跡が淡く輝きだしたのだ。彼女はそれを注意深く観察する。


(第三段階直前の状態の魔力。ここまで出来るということは濃縮による物質化もいけるか。本能か、はたまた魔法の仕組みを理解しているのか? さぁ見せてみろ!)


 次の瞬間、魔獣達は魔力の輪を加えてアリシアに飛び掛かる。しかしその軌道は彼女自身ではなく、その横を通り過ぎる一見不可解なものであった。

 迫りくる魔法の輪を前に彼女はなんと失笑する。そうして眼前まで来たそれを指で挟んであっさりと止めてしまったのだ。


「なるほどなるほど……輪状のマジックブレードで切断しようとした、というわけだ! 魔法を理解しているな。知力は流石、人間と太古から生きてきた種族というべきか……しかし相手が悪かったな」


 彼女はたいした力も入れずに枝を折るようにマジックブレードを破壊する。更に間髪入れずに魔獣達の胴体付近へ魔法陣を生成し、そこから生み出した風の魔法で壁に叩きつける勢いで吹き飛ばした。

 だが相手も魔獣、通常の生き物なら死んでいてもおかしくない衝撃をものともせずに立ち上がる。次なる攻撃を仕掛けるべく魔獣達が視線を向けた先で、彼女は恐るべきものを手に持っていた。


「次は生命力の検証だ。かわいそうだが君らのうち一匹の首を千切らせてもらったよ。動物は嫌いじゃないんだが、必要な事なんでな」


 中央の首を取られ、二個になってしまった一匹が痛みに震えている。彼女がそれに対して特段の感情を抱くでもなく冷静な眼つきで見続けていると、なんと震えていた獣の首の一つがもう片方を食いちぎって空いていた中央に据えたのだ。魔獣特有の再生能力で首は接着され、千切られた痕もなくなっていた。


「なるほどスペアか! しかしという事は、どうやら中央に頭がある事が重要なんだな。サイドのは心臓と繋がっていないのか……それとも……おいおい、今は考えているんだから嚙みついてくるな」


 独り言を呟きながら彼女は魔獣達の猛攻を汗一つかかずにいなしていく。

 獣達も今度は攻め方を変えて防がれると分かっていながらも休まずに攻撃を続けていく。そうして生まれた一瞬のチャンス、彼女が見せた僅かな隙を獣の本能は見逃さず、壁を利用した鋭い角度での飛び掛かりが彼女を襲う。牙が向かう先はむき出しの首筋、距離は既に頭一つ分、獣ながらに勝利を確信していた。


「ほう、速いじゃないか。だがハズレだ」


 瞬間、彼女の結わえられた側頭部の髪の束がなんと高速で回転し始めた! 唐突に現れた髪の盾は魔獣の噛みつきを防ぐどころか、触れた牙を一瞬のうちに削り取った上にその体を弾き飛ばす。


「魔力は人体によく馴染むのだよ。よく手入れされた女の長髪は物理的な武器にもなる。さて……あっちは三対一だし、待たせるのもあれか。じゃあまずはひとつ。【ディオネア・トラップ】!」


 弾き飛ばされた魔獣の足元から、短い詠唱と共に謎の植物が瞬きの間を許さぬ程の速度で成長し始めた。並んだ二つの肉厚な葉は獣を包み込む程に育ち、ぱっくりとその(くち)を開くと、逃げ出そうとした魔獣の脚よりも速く葉を閉じて動きを封じてしまった。

 魔獣は抜け出そうと最初は暴れていたが、三十秒と経たぬ内にその抵抗は止む事となった。アリシアはそれを見届けると続けて詠唱する。


混合魔術(コンパウンド)【エル・ディスチャージ・アロー】!」


 背後の魔法陣から無数の矢が三匹の魔獣ヘ放たれる。雨あられと降り注ぐ矢を獣達は軽やかな身のこなしで避けていき、地面は次第に矢で埋め尽くされていく。

 やがて矢の雨は打ち止めとなり、これ幸いにと魔獣達は再び襲い掛かる。だがこの魔法の本領はここからであった。


混合魔術(コンパウンド)は二種類以上の魔法を融合させたものだ。今回は……おっと、もう聞こえてないか」


 彼女に飛び掛かろうとした二匹が空中で動きを止めている。その全身にはなんと矢の残骸からはじけ飛んできた稲妻が突き刺さっていた。


「雷系統の魔法【スパーク】と基礎魔術【マジック・アロー】なんだがね。矢が放電の性質、雷の軌跡が矢と同じ貫く固体という性質のそれぞれを継承している。よって放電の軌跡が固体となって肉体を貫いたまま残るという訳さ、これで三つ。そして……四つだ」


 背後から不意打ちを仕掛けようとしていた最後の一匹を、振り返ることもなく指の間から伸ばした三本の魔法の刃で貫いた。刃は心臓に直撃し、獣はぐったりと地面に倒れ込む。

 こうしてアリシアはすべての魔獣を一方的に討伐してみせた。静かになった部屋の中心で彼女は思う。


(ギディオンの隠し刃……いたずらで使って以来だったか)

「というか、三人の前で実力を見せて仲間にしてもらう筈だったんだが……しまったな。まぁ大丈夫だろう、多分」


 彼女は仕留めた獲物を腐らぬように氷漬けし、手近な適当な袋に詰めて背負うと隠し通路へと降りる。通路は相変わらず暗く、不気味な程に静かである。


(小型寄りの中型犬といったサイズだが、さすがに四匹は重い……!)

「さて、あっちはどうなってるかな」


 えっちらおっちらと、指を魔法で光らせながらクレイ達との合流を目指して歩みを進めていった。

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