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四番通りのマスターワーカー  作者: ゼッケイ・カーナ
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ヴェール伯領-密造者制圧依頼①

 朝もやが立ち込め、空がうっすらとピンク色に染まる早朝。

 宿舎の応接間にはクッキーと茶の良い香りが漂っている。テーブルを囲むクレイ、ミリア、サファイアの三人は簡易的な地図を広げながら話し合っていた。


「へぇ、ノブリスってこんな広いんですね。国境はずっと向こうの川なんだ。というか森多い……」


「ここで暮らしてたら中々実感が湧かないわよね。それで今回行くヴェール伯領はちょっと特殊で港のある地区も含まれているわ」


 サファイアの指が首都ノブリスから麓の農耕地区、そして大きな森からヴェールと書かれた文字へとなぞられていく。


「ヴェールの森は海岸に一番近くて岩が多いのが特徴よ。昔の人間や動物が掘った穴なんかが大量にあるわ。私達が襲撃する場所は町のすぐ近く……逃がしたりしたら厄介な事になる」


「最悪、海に逃げられるという可能性もありますね。とりあえず足を撃つのを最優先にしておきます」


 そこへ管理人のフロバがティーポット片手にやってくる。そしてその背後には昨日の魔法使いの少女アリシアの姿もあった。


「皆さんおはようございます! 今日はよろしくお願いしますね!」


 そう言うと同時にアリシアは机の上に一枚の紙を置いた。国から依頼が送られてくる際に用いられる上質なその紙に書かれた報酬金の額にミリアは釘付けになる。


「ま、まままま前金で50G!? 達成報酬合わせて……200G……!?」


「山分けで一人あたり50ね。でもアリシアさん、あなたワーカーじゃないのよね?」


「はい!」


「そのお金は誰が受け取るのかしら? 基本的に受注したワーカー以外が報酬を受け取るのは禁止されてるのだけど……」


「キュリオ……ぉおじさんと知り合いなんで、特権で受け取らせてもらうんです。受け取り人は……お母さんですけど」


 快活で無邪気な口調から告げられる権力の横暴に三人とも何とも言えない気分になる。

 ふと、クレイが横にあった窓から宿舎の入り口を見下ろすとそこには馬車が停まっている。恐らくアリシアが乗ってきたものだろうと彼は思ったが、普通の馬車ではないある特徴があった。


(金属製の馬車……? 傾斜の多いノブリスじゃ馬が疲れるから使われないって聞いたけど)


「出発はもう少し待ってくださいね。今、馬車を調節してるんで」


 ※  ※  ※  


 フロバに行ってきますと告げて宿舎を出ると件の馬車の周りをローブを着た御者らしき人物が困った様子で歩いている。アリシアは話を聞くと、御者がポケットに入れていた小さな麻袋を乱暴に抜き取りそのまま馬車の下に潜っていってしまった。

 御者も三人も呆気に取られているとアリシアはすぐに戻ってきて馬車が直ったと伝えた。


「それじゃ出発しましょうか。着くのはお昼前ぐらいですかね」


 乗り込んだ馬車が動き始めてすぐにアリシア以外の三人は妙な違和感を覚える。馬車とは揺れるのが常なのだが、これにはそれが殆どない。

 不思議そうな顔で見合わせる三人を見てアリシアは楽しげな声で言った。


「揺れないのが不思議ですか? 実はこれは新型の馬車でこの下に魔法陣が彫ってあって、風魔法で馬車を少しだけ浮かしているんですよ」


「魔法陣? なんか本で読んだような……読んでないような……」


「魔法を使うための方法の一つです。これとかですね」


 そういうとアリシアは腰にぶら下げていた大きな本に手をかける。あずき色の皮と金具で装丁された厳つい本を捲ると、ページの一枚に文字と図形がびっしりと描かれた精緻な魔法陣が描かれていた。


「うっへー……なんか見てるだけで頭が痛くなってきちゃう。これ全部手書きなんだよね?」


「はい。私が描きました!」


「この間の熊もそうだけど、まだ小さいのに凄いねぇ。私は練習したけど全くダメだったんだ……でもなんでこれで魔法が撃てるの?」


「魔法の原理は魔力操作による成形と放出です。無詠唱以外では成形するのに設計図が必要なんですが、その設計図の種類の一つがこの魔法陣。他には口頭による詠唱なんかもありますし、魔道具は魔法陣を更に使いやすくした発展形なんですよ」


「へぇ……じゃあ、この魔法陣を使えば私も魔法が撃てるの? まさかねー」


「では使ってみましょうか」


 そう言うとアリシアはミリアの腕を掴んで手のひらを魔法陣に触れさせた。ミリアが驚きの声も上げる事も止める暇もなく、いったい何をされたかを理解する事もできずにボケってしている間にも魔法陣は魔力の輝きを強めていく。

 ようやっと彼女があげた第一声は「なんの魔法なのこれ!?」であった。


「風魔法の【ブリーズ】です」


 魔力の光が弾け、本から飛び出した魔法陣が起動する。回転し、微かな音を出しながら放たれたものは……頬を撫でるような優しいそよ風であった。

 なにが飛んでくるのかと身構えていたミリアから全身の力が抜けていく。


「よ、よかったぁ……!」


「アハハハ! 馬車の中でハリケーンとか撃つわけないじゃないですか!」


 アリシアはいたずらが成功して上機嫌に笑い、サファイアは困ったような笑顔で固まっている。クレイは注意しようかと悩んだが、子供のいたずらかと納得し何も言わなかった。


「お礼じゃないですけど、私が魔法を教えてあげます。着く頃にはアローの一本でも撃てるようになりますよ」


 こうしてヴェールまでの道中、アリシアの魔法教室が開かれた。


 ※  ※  ※


 木で組まれた壁を越えた先にあったのは、まばらに建った家屋以外に目を惹く物は特にないお手本のような村があった。ここはブランチと呼ばれる村で、彼らが仕事をする森に一番近い場所である。

 まずは指定された家へと入り、調査を行ったワーカーから話を聞く手筈なのだが、歩いているミリアの顔はこの世の終わりでも知ったかのような絶望に満ちていた。


「あんなに、あんなに丁寧に教えてくれたのに……一個もできないなんて……」


「魔力は一杯あるみたいですけどセンスはゼロですね。だからしょうがないです」


 慰めなのか罵倒なのか分からないアリシアのフォローにミリアは膝から崩れ落ちた。

 指定の家の前に着くと、アリシアは持っていた鞄の中から大きな一枚の紙を取り出して扉に押し付ける。その紙が一瞬だけ光ったかと思うと鍵が開くような金属音が鳴った。


「初めて見ますね。この施錠方式」


「旧式で魔法陣(カギ)を作るのが面倒なタイプですが、代わりに合鍵を作られにくい信頼できるやつですよ」


 扉を開けた先にあったのは大きな机と椅子が数個並んでいるだけの殺風景な部屋で、その一つに全身黒ずくめの人物が座っている。

 扉の音に反応し、黒ずくめの人物は立ち上り振り返る。その服の胸部には穴の開いた金貨が糸で縫いつけられ、顔や手には真っ黒な布が巻かれ素肌は殆ど見えていない。


「来たか、待っていたぞ。お前がクレイ・フォスターか。暁の金貨所属のマチェットだ」


「クレイ・フォスターです。今日はよろしくお願いします」


 マチェットと名乗る男はクレイと軽く握手を交わしほか三人とも挨拶を終えると机に地図を広げだした。多少雑ではあるが、そこにはブランチと襲撃予定地点との位置が描かれていた。


「目標地点までは目印を置いてある。それを頼りに進んで行け。それで、敵の()()なんだが……」


 彼は複数枚のスケッチを取り出して置いていく。特徴的な植物等の位置関係から同じ場所を複数の視点から描いたものだとは全員が理解したが、それが何を意味するのかさっぱり分からなかった。


「密造者と思わしき連中の後をつけたが、必ずその場所で姿を消すんだ。どうやって消えたか皆目見当もつかない」


「あぁ、そういう……じゃあ透明化の魔法の一種ですね。恒常的に発動するのは人間には無理ですしどこかに設置型の魔道具も置いてあるでしょう。私なら看破できます」


「なるほど、お前が話に聞いた魔法使いか。まだ幼いようだが……まぁ仕事をしてくれるなら歳はいいか」


 それから確認できた敵の数などを聞いたが相手はよほど警戒心が強いのか、クレイ達が満足するような情報は手に入らなかった。

 話が終わるとマチェットは荷物を素早くまとめはじめる。


「すまんが俺の仕事はここまでだ。正式に受けていない仕事はやらない主義でな」


「ありがとうございました。マチェットさん」


 ドアノブに手を掛けたマチェットが突然動きを止め、黙ったまま立ち尽くした。少しの間悩んだ後に彼はある情報をクレイ達に与えた。


「実は一つだけ森で気がかりなことがあってな。個人的な感覚の話だから言おうか迷ったが」


「……お願いします。情報は多い方が良いです」


「そうか……俺は二十年近く魔獣を狩っている。だから魔獣のいる場所では緊張の糸ってのがピンと張り詰める感覚に襲われるんだ。この森の調査中にもそれを感じた」


「魔獣がいるって事ですか? 別に変な事じゃ……」


「それがそうでもないんだな。嬢ちゃん」


 彼は布の上からでも分かるほど得意げな表情で語る。


「ここ最近のスパンがおかしいだけで、魔獣ってのは一つの地方に一年で二、三匹出たら多い方だ。それにヴェールの魔獣は俺が一週間前に狩ったばかりだから出る訳がない」


「なんで魔獣はそんなに出ないんです?」


「大概の獣は魔獣になる前に死んじまうからな。魔獣化するほど長生きするの少ねぇし、魔獣になった奴が他の魔獣候補を排除しちまう。それに魔力の供給源たる餌も独占するから後から生まれる事も稀だ」


「じゃあつまり! ……どういう事です?」


「潜伏してる奴らは何かしらの魔獣を隠し持ってる可能性があるって事だ。魔獣をテイムする奴も知ってるし、ありえない話じゃない」


 そこまで言いうと、マチェットは視線をクレイに向ける。その眼差しは期待と好奇心に満ちていた。


「ま、熊だの猪だのの魔獣を狩った奴が居るんだ。面白い風の噂を期待してるぜ。トールの友達(ダチ)


彼は愉快そうに笑いながら家を出て行った。

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