表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
四番通りのマスターワーカー  作者: ゼッケイ・カーナ
14/30

魔法使いがやって来る

 サファイアが口にした「ゴーストの討伐」という目的は、ミリアにこの街に来た日の夜の事を思い出させた。


「ゴーストってたしか……偉い人が殺されたって話ですよね? それだと二人じゃないですか?」


「……間違いではないわ。殺されたのは当時魔法と魔道具の開発のリーダーで、兄様の幼馴染だったウィズダムさんよ。奴はあの人の命を奪った後に私達と遭遇して、私を攻撃しようとしたの……姉様はそれを庇って右目を貫かれた」


 ミリアはそれを聞いて思わず光景を想像し、苦い物を口に含んだようなしわくちゃの顔で口を覆う。こういった話を基本的に真顔で表情を崩さずに聞く事が多いクレイも珍しく強張った顔になる。


「だから敵討ちなの。でも、ゴーストは強いかどうかすらの判別ができない程に近距離で遭遇するのは稀な存在。ひょっとしたら拍子抜けな結果になるかもしれないし、多くの犠牲を払った末に討伐するかもしれない。そして私と一緒に組むなら貴方達は確実にそれに巻き込まれる。それが嫌なら……断ってちょうだい」


「僕は構いませんよ」


「は?」


 ガンマンの早撃ちが如き即答にサファイアは素っ頓狂な声を上げてしまう。


「そ、そう答えてくれるのは嬉しいけど! もっとこう……考える時間とかあるものじゃない!?」


「ワーカーになった時点で命の危険なんて承知の上ですし、どういった形であれこの街の平和を脅かす存在なら敵対する覚悟もあります。それに協力できるなんてむしろ光栄ですよ。さて……」


 そう言ってクレイはミリアの方へ顔を向けると「どうします?」と一言。彼女は表情をころころと変えながら長い間悩んでいる様子だったが、覚悟を決めた表情をするとこう言った。


「ワーカーになってから日も浅いですが、それでも分かります。あ、これ一人じゃ無理だって。だから私はお二人についていく事にします! 報酬の良い仕事もいっぱい来そうですし!」


「あはは……とってもワーカーらしい理由ね。それじゃ二人とも、今日からよろしくね。結成に祝いに私からなにか奢らせてちょうだい」


 そこへカチャカチャとした金属音を響かせ、規則正しい足音を鳴らしながらやってくる者が一人。三人がそちらを見れば、そこには全身をプレートアーマーに包んだ人物が背筋を伸ばし立っていた。

 その人物はハキハキとした声でこう告げる。


「サファイア様! キュリオ様がお呼びです。ご同行をお願いしたく存じます」


「キュリオさんが?」


「それと……そこの二人はクレイ・フォスターとミリア・ガーランドだな。貴様らにも来てもらう」


 二人は唐突な招集に啞然としたが、それがどうにも王室からの勅命と聞かされ大人しく従うことにした。


 ※  ※  ※


 ひたすら坂を上り続けると彼らが普段は目にしない大きな門が現れた。特殊な合金で作られた無機質な扉からは何人も通さないという意思を放っている。そう、この門を越えた先こそは貴族達が住む地区であり、この国の政治的な中枢でもある重要区画なのだ。

 見慣れない様式の建物がずらりと建ち並ぶ大通りにクレイとミリアの視線は忙しなく動いている。そんな最中、ミリアはある特徴に気付いた。


「ここは坂じゃないんですね。山の頂上付近なのに」


「ご先祖様達が整地したそうよ。そしてその時生まれた大量の土は……あの場所に使われた」


 サファイアが指した先には断崖絶壁と錯覚する程の長い階段。庶民の二人がその階段の先を目で追えば、一段高い場所に巨大な城があった。この国を治める王家が住まう場所にして、国の象徴たるノーブル城だ。

 二人はそのスケールに思い思いの感想を胸に歩みを進めていたが、城の目の前に立った時には圧倒されて言葉にする事はできなかった。


(家から見えてたあの小っちゃい建物、こんなに大きかったんだ……倉庫何個分?)


(なんというか空気が違うなぁ。僕は下の方が性に合ってるかな)


「キュリオさん達の研究室はあっちの棟よね?」


「はッ! 実は先日、魔法の実験で下の入口が吹っ飛んで瓦礫で塞がれてしまい、現在は復旧作業中との事です!」


「……相変わらず元気そうで良かったわ。じゃあ渡り廊下から入らないといけないのね」


 サファイアは慣れた様子だが、事情を知らぬ二人はその会話に一抹の不安を覚える。だが二人に拒否権などなく、行くしかないのだ。


「そういえば説明してなかったわね。キュリオさんはウィズダムさんの後を継いだ現在の研究主任よ。魔力関連のプロフェッショナルと思ってちょうだい。癖の強い人だけど、いい人だから気にしないであげて」


 案内されるまま、魔法で燃える燭台に照らされた廊下を進むとこの地区に入る時に見た門と同じような金属製の重厚な扉が彼らを出迎える。甲冑の兵士が取っ手に手をかざすと金属が擦れるような音が鳴り、扉が開かれた。

 部屋の中はかなり広く、いくつも並べられた机の上には紙やら箱やら何から何までが乱雑に置かれ、何人もの人間がひっきりなしに往来している。


「す、凄い……!」


「ここ、こんなに広かったんですね」


「空間魔法っていうので拡張してるらしいわ。建材に魔法陣を仕込んだとかなんとかって……勉強してるけど未だに仕組みが分からないのよね」


「んんっ! キュリオ様、サファイア様一行をお連れいたしました!」


「こっちだこっち!」


 なんとも楽し気な声でキュリオなる人物が手を振りながらやってくる。その姿はまるで剣士を志す者が修練で使用する藁人形のような装いであった。


「君、ご苦労だったね。それじゃあ警備に……あぁそうだ。下の瓦礫撤去作業に行ってくれ。復旧と飯は早いに限る」


「ハッ! 承知いたしました!」


「……相変わらず、会う度に凄い恰好をされていますね」


「ハッハッハ! こうでもしないと危険なのさ、サファイア。お母上に似てきたかな? 久しぶりに会えて嬉しいよ。そして君達が話に聞くワーカーかな? キュリオだ。よろしく」


 彼は二人と力強く握手すると「こっちに」と言って足早に歩き出す。そこにあったのは大きな机の上で今まさに解剖されているあの熊の魔獣であった。遺骸を取り囲む研究者達の目は太陽よりもギラついた輝きを宿している。


「猟師達を呼んで話を聞いたんだが、こいつは若いオスという事でほぼほぼ間違いない。そうすると問題が出てくる。なぜ魔獣になったかという事だ」


「そりゃ、一杯ごはん食べたんじゃないです?」


「そう! そうそうそう! だからだ!」


 何気ないミリアの言葉にキュリオの興奮が爆発する。彼は軽く引き始めていた二人を気にもせずに続ける。


「本来、魔獣化現象が起こるのは年老いた個体。それは魔獣化する程の魔力を本来の食事のみで肉体に蓄えるには長い時間を要するからだ。魔力は万物に宿るから、息をしたり排便排尿でも肉体から漏れ出す」


「へ、へぇ……」


「だが、何事にも例外はある。数多くの報告からある食物を集中的に摂取した獣は短期間で魔獣化する事が分かっている! 何かわかるかな?」


「な、なんですか?」


「人間だ! 生物で唯一魔法を扱える人間は肉体の魔力の貯蓄量に個体差はあれど、他の生物とは比にならない魔力を肉体に宿す!」


 その言葉に三人の顔が一気に歪む。三人とも見知らぬ人間が死んで涙を流すほど感受性が豊かな訳でもないが、かといって人間が何人も喰われたと聞いて心が全く動かないほど薄情でもないのだ。


「そしてもう一点! 妙なところがあった……古傷だ」


「傷ですか? それなら僕とサファイアさんとの戦闘で」


「違う違う違う。古傷だ。魔獣化の際に身体能力の向上で負傷が全快するというのは知られているが、既に治ってしまっている傷は例外だ。この若い個体にはなぜか全身に刃物で斬られたような古傷がある。そこで私はある一つの仮説を立てた!」


 キュリオが手を叩くと床に落ちていた紙が空中に集まり大きな紙となる。そこへ彼は指を使って図を描いていく。


「まず前提として、ここ数年で無刻印……つまり流通が許可されていない魔道具が見つかる事例が増加している。そしてそのどれもが携行する事を目的とした殺傷性の高い武器だ。同時にノブリス領土内の森で人間が行方不明になったとの報告も増加しているんだ」


 器用な指先で描いた三つの絵が線で結ばれていく。


「武器としての魔道具の性能を測る方法の一つに狩りがある。おそらくだが……ひょっとしたらこの熊は何者かによって性能実験の為に痛めつけられていたのかもしれない」


「うわぁ……酷い話」


「しかし行方不明になった領民との繋がりが分からないわね」


「それに関して結論から言わしてもらうと、恐らく行方不明になった人間達はパーツ取りの為に解体されて殺害されてると僕は見ているよ」


 あまりに悪趣味極まりない仮説にサファイアは思わず彼を睨みつけるが、キュリオはそんな事は気にしない。だがその口調からは既に楽し気な雰囲気は消え去っていた。


「人体は先ほども言ったが魔力に富んでいる。だから……無法者共の世界では内臓を魔道具のパーツとして組み込むことがあるんだ。本来の魔道具の存在意義を考えれば本末転倒も甚だしい」


「……違法な魔道具を作成している集団ないし個人が人を攫い熊を傷つけ、死にかけた熊が攫われた人を食べ続けて魔獣化したって事ですか?」


 クレイがとんでもない事を言ってると自覚しながらした出した回答に、キュリオは静かに「その通り」と答えた。残酷極まりない予想に全員が心中で現実はそうあって欲しくないと願っていた。


「だから僕はギルド【暁の金貨】を秘密裏に雇って森を探索させたんだ。そしたら怪しい場所が幾つか見つかった。そこで君達三人に依頼がある。目星をつけた場所の一つを襲撃して事実を明らかにしてほしい。陛下からも許可は頂いているから、多額の報酬を約束しよう」


 並のワーカーでは戸惑う依頼内容だが三人に迷いは無かった。サファイアは貴族としての義務。クレイは自分が愛する故郷に仇名す敵の排除。そしてミリアは家族を守る為。一切の間を置かずに依頼を受けた。

 一先ず区切がついて安堵したのかキュリオは溜息を吐く。そして何か思い出したかのような「あっ」という声を上げると、非常に申し訳なさそうに喋りだした。


「それともう一つ……その、依頼に際して一人連れて行ってほしい人……子が居るんだ」


「戦力なら歓迎しますが、どんな人なんですか?」


「……もう良いよ」


 そうすると部屋に置かれた棚の影から一人のマントを羽織った人間が姿を現したが、三人はその容姿に度肝を抜かれる。なにせ彼らの目の前に居たのはどう見ても十二、三才ほどの小さな女の子だったからだ。

 銀色の長髪のツーサイドアップに金色の瞳。その腰には小さな体躯に見合わぬサイズの巨大な本が鎖で吊り下げられ、身に纏った服は継ぎ接ぎなのか繋ぎ目のような線が大量にあるぴっちりとしたもの。

 誰もが呆気にとられ何も言えずにいると、彼女は自己紹介し始めた。


「こんにちは! 私の名前はアリシア・クラークって言います。今回のお仕事ではよろしくお願いしますね!」


「い、いやいやいや! こんな小さな子供連れて行くなんて非常識ですよ!? 怪我じゃすまないですよ!」


 クレイは至極当然の反論をするが、キュリオは何故か諦めきったような口調でこう返す。


「すまない。こっちも色々事情があって、そのひ……子を連れて行くのは絶対条件というか、その子が絶対について行くと……」


「えぇ……?」


「安心してください! 私、魔法には結構自信があるんですよ!」


「君には分からないだろうけど、危険な仕事なんだよ? だから……」


「……じゃあ、見せればいいですか? 実力」


 アリシアは返事も聞かずに手近にあった机の端を折ると、天高く放り投げる。全員の視線が空中に集まったのを確認すると静かに詠唱した。


「マジックアロー・ヘヴィーレイン」


 すると彼女の周りに複数の魔法の矢が生成され、一斉に木片目掛けて発射される。空中で弾き飛ばされ軌道を変えながら削られていく木片にまるで吸いつくように矢は誘導され、アリシアの手に落ちてくる頃には小さな木彫りテディベアが生まれていた。

 マジックアロー。それはこの世界において魔法の基礎中の基礎でよほどでなければ誰でも使える魔法だが、それを考慮しても天才としか言いようのない精度の神業にクレイは無言で認めざるを得なかった。


「……オッケーって事で良いですよね? じゃあ明日の予定をたてましょう!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ