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みちくさ

下支え

作者: 斎木伯彦

 職業に貴賤はありません。どのような職業であっても社会の存続に必要だから存在しているのです。

 例えば、戦後しばらくまで各地に存在し、「決してなくならない職業」とまで言われた炭焼きも、電気やガスが普及した現在では見掛ける機会が激減しました。

 花形と言われ、高給取りの代名詞でもあった「炭鉱夫」に至っては昔日の面影さえもありません。

 需要が減れば衰退する職種がある一方で、電話が普及して増えた職業として「コールセンター」の従業員がいます。

 「コールセンター」があるから通販などの便利な仕組みを利用できるのですが、世の中にはそうした重要な働きをする職種に対して偏見を持つ方もいます。

 何でも新卒向け就職情報サイトの『就活の教科書』が「底辺の仕事ランキング」を紹介していたとして、問題視されたようです。

 ランキングは上から「土木・建設作業員」「警備スタッフ」「工場作業員」「倉庫作業員」「コンビニ店員」「清掃スタッフ」「トラック運転手」「ゴミ収集スタッフ」「飲食店スタッフ」「介護士」「保育士」「コールセンタースタッフ」だったとか。

 底辺の仕事とした理由が「肉体労働」で「誰でもでき」て「同じことの繰り返しであることが多い 」とされています。

 少なくとも「介護士」と「保育士」は資格が必要です。

 「トラック運転手」は運転免許証、「土木・建設作業員」や「倉庫作業員」は重機などの操作に資格が必要ですし、「警備スタッフ」に至っては法令でその身分が厳しく問われているため、派遣社員すら禁止されていて「誰でもできる」というのは大間違いです。

 これらの職種以外の人々も、存在しなかったら社会の安定に危機が訪れるでしょう。

 就職の入り口でこうした偏見を植え付けられる新卒の方々に同情申し上げます。


 視点を変えて、こうした職種の方々を見下す人々は、決して関わらない生活を思い浮かべて下さい。

 タワーマンションに居住し、自社ビルを保有するような広告代理店に勤務していると仮定します。

 まず清掃スタッフが関わりませんので、マンションの共同空間や自社ビルの廊下、トイレの清掃を自らの手で行う必要があります。

 広告を制作して販売した商品の取り次ぎは、コールセンターではなく自社ビル内で扱う必要があり、在庫管理や輸送はおろか、製造も一手に引き受ける必要があります。

 食事も自ら作らなければなりませんし、老親の介護、子供の保育もして下さい。

 道路工事での交通誘導や、自社ビルの保安、貴重品運搬の警戒も全て自ら行う必要があります。

 タワーマンションや自社ビルも建設会社が施工していますので、建築物に入居できませんね。

 一流企業に勤務と言っても、結局はこうした勝手に底辺と見下している人々の手を借りなければ、何一つとして生活が成立しないことを理解させる教育が必要です。

 こうした生活環境の維持に密着した職種については、政府自らが補助金や助成金を交付して保護する必要があるでしょう。

 コロナ自粛以前に、全国各地で花火大会や催し物が中止になった理由として、警備員の人件費を役所がケチったため、必要不可欠な警備体制の構築が不可能になり断念している事例があります。むしろ警備員の仕事内容が「誰でもできる」ならば、役人や地域社会のボランティアを募って安全対策とすれば良いのです。それができない理由を考えれば、こうした職業差別は起きないでしょう。

 差別意識を助長している底辺とされる職種の「平均年収が低い」という問題を解決する意味でも、管轄省庁の役人と同額の給与が支給できるようにしましょう。


「土木・建設作業員」「トラック運転手」:国土交通省


「警備スタッフ」:内閣府(国家公安委員会)


「コンビニ店員」「飲食店スタッフ」「コールセンタースタッフ」:消費者庁


「清掃スタッフ」「ゴミ収集スタッフ」:環境省


「工場作業員」「倉庫作業員」「介護士」:厚生労働省


「保育士」:文部科学省



 なお明治時代ぐらいからしばらく、賎業とされたのは新しく成立した職業の「新聞記者」でした。

 戦前戦後を通じて、業界が一丸となり印象改善に努めた結果、我が国の平均給与最高峰の一千万円を超える人気職にまでなっています。

 そうした経緯から予測すると、戦後に成立した比較的新しい職種のコールセンターや警備などは今後の発展次第では高給取りになる可能性が秘められています。

 安全や安心が声高になっている昨今、安全産業の伸び代に期待が持てます。

 そもそも現在の我が国が経済成長を持ち直せない原因の一つに、汗を流して働く人々を冷遇している事例があるでしょう。製造現場、介護、保育などの現場、運送業、接客業、警備業などの汗を流す人々の給与を低くして、事務職や管理職の給与を増やしたとしても社会は衰退する一方です。

 インフラを下支えしている業種にこそ、厚遇が必要です。技術立国を自負するならば、管理職ではなく、技術職を増やさなければなりません。司令官ばかりの軍隊では戦えませんし、ファンタジー世界では冒険者のいない冒険者ギルドは潰れるだけです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 感情や怒りに流される事もなく、それでいて偉ぶらない、極めてまっとうな啓蒙要素もある良い作品だと思います。 [一言] 個人的にこういう記事は、新手の「心の貧困ビジネス」だと感じていますね。 …
[一言] 私は現在、倉庫作業(の補助)みたいな仕事をしています。 底辺かどうかはともかく特別な資格は必要ありません。 給料は大したことないですね。今後も昇給の見込みはありません。 また今後の役に立つ技…
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