第一話:俺とコマの出会い
俺がコマの魅力に夢中になったのはいつからだろう。
最初はきっと幼稚園の頃だ。
正月の行事として、俺の通っていた幼稚園ではコマ回し大会をすることになっていた。その時まで俺はコマというものを知らなかったし、そこで初めて知ったと思う。
年明け後のある日、コマ回し大会の説明をするために幼稚園の先生が園児を集めていた。先生の動物がプリントされたかわいらしいエプロンのポケットから取り出されたのは、赤と青のラインが描かれた木製のコマと細長い紐だった。
俺はそれを見たときに、どう使うんだろうと体育座りをしながらぼーっと見ていた気がする。
目の前で先生は説明をしながら、コマの中心から突き出ている棒からくるくると紐を巻き付けている。
「順番に紐をまきつけて、床に、投げます。」と言って、紐の端をもって手早くコマを離した。
カンッと床とコマの中心の棒があたる音がして回りだす。
赤と青のラインが混ざってコマが別の色に変化した。幼いころの俺は何故倒れないんだろう、と不思議に思えて目が釘付けになった。
回りだしたばかりのコマは床の上を大きく移動し、バランスを崩してすぐに止まる。
先生が止まったコマを拾い上げ、今度は一緒に練習しましょう、と言った。
今思えばその先生はあまりコマを回すのが上手くはなかったのだと思う。
だけど、俺はその縦横無尽に動き回るコマの姿が強く心に残ったのだ。
先生は実演をした後、園児全員に新品のこども用の小さなコマが入った袋を配った。
俺はその袋を誰よりも早く開けて、何度も回した。何か月も飽きずに回した。
最初は正月の行事であるコマ回し大会のために他の園児達も一緒になって回していたが、節分の豆まきが終わった頃までも回し続けていたのは俺だけだった。
もちろんコマ回し大会は俺のコマが最後まで周り続け、先生や同級生から誉められた。でもそのあと同級生はコマのことを忘れ外に遊びに出かけていき、次第に俺の世界はコマと俺だけになっていった。
それが俺のコマに出会った話だ。
そしてこの時は、高校に入学して新たなコマの魅力に引き込まれていくことを知る由もなかった。