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絡繰異聞・前日譚  作者: 和条門 尚樹
堕天使の章
9/30

翼の覚醒

 気がついたら、宙を(ただよ)っていた。眼下では、天音(あまね)にぃが、動かなくなったかつての自分を()きかかえて()(わめ)いている、気がする。でも、音は聞こえない。

 これは、(うわさ)に聞く、幽体離脱(ゆうたいりだつ)とやらだろうか。

 まあ、せっかくの体験だし、このまま少しだけ空を飛ばせてもらおう。少しだけ。(もど)れなくなる前に、帰ってくるから。

 あまりこの場を(はな)れていると、二度と(もど)れなくなるという自覚は、あった。

 天井(てんじょう)をすり()けて、ぐんぐん空へと(かけ)る。ずっと、空を飛ぶのは(あこが)れだった。刻一刻と表情を変える、この広々とした空間を、何の(うれ)いもなく、心行くまで()(まわ)るのが、小さい(ころ)の夢だった。

 目の前を、鳥の群れが飛んでいる。(つばさ)の動きを見ていて、なんとなく(うで)真似(まね)しようと思ったけれど、そこで違和感(いわかん)があった。

 この(うで)を、(つばさ)にしてしまっても良いのだろうか?

 ……イヤだな、と思った。もしもこの(うで)(つばさ)になってしまったら、今も(なげ)いているに(ちが)いない天音(あまね)にぃを、(なぐさ)めるのが大変だ。

 それに、さっきから、背中がムズムズしているのだ。何かがそのムズムズから、飛び出そうとしている。

 嗚呼(ああ)そうだ、この背には。

 (つばさ)が、あるじゃないか。

 きっとその瞬間(しゅんかん)に、自分は(つばさ)を手に入れたのだろう。一度、二度、ぎこちなく羽ばたくたびに、感覚が馴染(なじ)んでくる。鳥たちに併走(へいそう)して、その動きに学ぶ。

 とても楽しい時間だけれど、いつまでも続けていたら、帰れない。随分(ずいぶん)(なめ)らかに動くようになった翼で滑空(かっくう)して、自分のいた場所まで降りれば、目を真っ赤に()()らした天音(あまね)にぃと視線が合った。

 天音(あまね)にぃ、そんなに目を見開いたら、目玉が(こぼ)()ちてしまうだろう? 思わず、笑ってしまう。

 天音(あまね)にぃが(かか)えている、かつての自分には(もど)れない。何故(なぜ)なら、そこには(つばさ)がないから。

 今の自分には、天音(あまね)にぃの作ってくれた、(つばさ)ある身体が合うのだろう。正直、ちょっと美形過ぎる気もするけれど、そこはまあ、追々慣れていくしかないだろう。

 かつて素体(そたい)と呼んでいた身体に手を()ばすと、天音(あまね)にぃが再び泣きそうな表情になった。何か言っているようだが、生憎(あいにく)と、聞こえない。

 不思議と、身体との同調方法に、不安はなかった。目を閉じて、次に開ければ、そのときにはこの身体になっているだろうという自信があった。

 だから、素直(すなお)に目を閉じた。

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