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Page.4 蠢く音


「ヴィア!そっち行ったぞ!!」

「わかってます!そっちもまた一匹上から!!」

「ちぃ!こんなに群れてるなんて聞いてないぜ!」


ストーンスネーク、通称岩蛇との戦闘

加工が難しいといわれるだけあってその体躯は頑丈

なのにグレインさんから課せられた討伐条件はできるだけ傷つけるな



「グレインさんやっぱり多少はぶん殴ってもいいですか?!死んじゃいますって!!」

「何いってのよ!!貴重な素材に傷つける気?!いい?首!!奴らは頭の可動域が広い!!

つまり隙間が大きい、そこに一撃いれればいいのよ!最悪首なら切り落としても構わないわ!」

「暴れすぎんだよこいつら!!首狙うのも一筋縄じゃ行かねぇ!!」

「レイン!!あなたの魔法で動きを…レイン?」



まあ、大抵の場合魔物の討伐で僕みたいな魔法士の立ち位置は微妙だ

条件付きの依頼だと強すぎる魔法は肉体を破損させることが多く、

依頼達成の阻害になる可能性が高く使えない

かといって弱すぎる魔法は論外…だけど今回に限っては別だ



「僕はもうノルマ分終わったよ?」

「あら、あなたその辺の木っ端よりやるじゃない、ちゃんと魔法士してるわね」



そう、魔法士と言えば!!派手な魔法を使い、戦場を駆ける一騎当千の戦士!!と言われがちだ。

特に魔法を使わない人や新人の魔法士に多い。しかしそれは違う。

魔法士は大から小まで、あらゆる技を使いこなしてこそ。

極論戦士や騎士と根本は変わらない。奥義や晴れやかな表舞台だけじゃない、基礎や地味な下働きがそのあとを紡いでいく。

とりあえず何が言いたいかっていうと…



「麻痺で毒して終わりだよ、のたうち回ることもできない。哀れだね。

くつくつ…ただただぶっぱすればいいだけじゃないんだよ、魔法ってのは」

「「わかったからかっこつけてる暇あったらこっち手伝えカス」」



とりあえずイラっとした僕は悪くないはず



「はいはい、動き緩めるから、とどめはちゃんとやってね

魔力だって無限じゃないんだから。簡易構築―身体阻害:麻痺パライズ・ザ・アビア



簡単な魔法陣で周囲の岩蛇の動きを止める。

岩蛇は何度も言うが極めて頑丈な体を持っている、つまり物理的に強い。

だがお約束というのかなんというか…こいつは魔法に対する抵抗力が低い

さほど苦労せず僕がノルマをクリアできたのはそのおかげだ



「うわ、どうなってんだよこいつら。動けなくなった奴が上から降ってきたぞ。

どうやって天井に張り付いてんだよ、重いんじゃねぇのかこいつら」

「魔法か何かの類でしょうか、まあ細かいことは良いじゃないですか。

とりあえず片付けてしまいましょう」

「そういえば聞くの忘れてたけど、あなたたちこいつら運ぶ方法考えてあるの?

アタシとしては量が多いに越したことはないけど」

「一応私が空間魔法で持って帰れますけど…もしかしたら全部はきついかもしれません」

「珍しい魔法使えるのね。でもまあ余った分はアタシの魔法の袋使うからいいわよ」



さすが大商人…レアなもの持ってるなぁ…僕たちはまあ、ヴィアの魔法に頼りきりだから

いざというとき困ったりするからやっぱり一人一人最低限持てるものは持っておきたいよね


そんなこと考えてたらヴィアとグレインさんはあらかた今回の獲物を仕舞い終わっていた

僕は魔力補給のためヴィアお手製の魔法薬接種中、イルは洞窟の壁を触って…

あれ何してるんだろう



「さっきからイル、何してるの?」

「ん?いや、この山って結構有名な割に意外と知られてないこと多いじゃん?

山道の周囲はともかく、探索されてなさそうなところとか秘密通路ありそうじゃね?」

「無いでしょ…」



ズゴゴゴゴゴ…



「そういえばさ、なんか岩蛇が引きずる音って洞窟に反響して地震みたいだよなぁ」

「そう?最初来た時そこまで大きくは感じなかったけど」



ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…



「え、でもまだ狩ってない奥のやつなんか暴れてるっぽくね?さっきから」

「そういわれれば今なんか…っていうか…」



ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…!!!!



「イル!下がって!!」

「?!」



とんでもない音、衝撃と土埃

イルの感覚は間違ってなかった、ただ目の前に現れたのは地震の原因だといわれても納得するくらいには大きい蛇だった



「ギシャアアアアアア!!!!!!!!!!!」

「ヴィア!ネエさん!ヤバイ!親玉っぽいのがきたぞ!!」



黒光りする巨躯、先ほど戦っていた奴らより二回り以上も大きい

広く感じた洞窟が手狭に感じるくらいの存在感をそいつは放っていた



「あらあら!!縄張りを荒されて怒髪天って感じね?」

「逃げますか?」

「冗談でしょ?!こんな機会逃せないわよ!!あんたたち気張りなさい!

こいつ倒したら報酬にはたっぷり色付けてあげるわよ!!」

「ったく…剣が折れても知らねぇからな!!」

「そんなの報酬で鍛えなおせるわよ!!いい、やんちゃ君は私とあいつを引き付ける囮よ!

その間にイケメン君と坊やは魔法で“できるだけ”!!傷をつけずに倒しなさい!!」

「ってことは俺反撃できないじゃねぇかよ!!こんな時にも傷つけずにかよ!!」



グレインさん獰猛な笑顔だ。多分こいつにはそれくらいの価値があるんだろう

ただ…こいつ、さっきまでのやつと違う…黒は黒だけど金属とか岩というより何か鉱物みたいな煌めきを感じる。多分この洞窟の主、岩蛇の群れのボスに相当する個体だ。

だけど同じ岩蛇なら魔法が有効なはず、麻痺らせて毒………

うーん…こいつ搦手効くのかな…



「とりあえずヴィア、僕が動きをとめるから二人の援護よろしく!!」

「それが妥当でしょう、一応言っておきますが簡易構築では…」

「わかってるって!!」



とりあえずさっきの倍くらいでかけて様子見か…

魔法陣構築【身体阻害―麻痺―魔力密度75%―基礎構成・雷―付与・水】



「《パライズ・ザ・ゼノ》!!」

「グギシシシシ…」

「流石レイン、大型の魔物相手でもこの効き…しかし」

「おっしゃレインあとは任せとけ!!!クリヴァス流剣術[落雷]!!」



僕の魔法で動きを止めたストーンスネークにイルが斬りかかる

彼の剣術、クリヴァス流は屋内での戦闘に特化した剣術だ

落雷はクリヴァス流の基礎であらゆる地形において足場を蹴り高速移動する陣風、その派生形だ。

蹴るだけならと思うが何やらコツがあるらしい。

そして落雷の全要とは…ただ天井を蹴って体の重さと合わせ相手を強襲する技だ、雷要素はどこにもない。ありていに言えば勢いよく落ちているだけ。イルの場合はそこにかっこもつけて。

だが威力は折り紙付きだ、何よりクリヴァス流のその真骨頂は魔法との組み合わせにある。

普段呪文だの形式だのと魔法を不得手とするイルだが使えないわけではない。

彼は剣術の一部として扱う場合に限り魔法を最大限の力で行使できる。

ほかの流派からは魔の力など邪道など言われているらしいが、そんなこと生き残るためには関係ないだろうに。



「もらったぁ!!」



イルの刃がストーンスネークの首にかかった!!とともに激しい金属音と衝突音が響いた

何がと思ったが簡単だ、イルが吹き飛ばされた。麻痺が効いていなかった?

違う。ストーンスネークは今も身じろぎくらいしか出来ていない。

反撃されたわけではない、だとしたら金属音と合わせて答えは明確だった



「いつつ…こいつ固すぎ!!」

「素晴らしい頑丈さね…!!いいわ、ますます欲しくなったわ!!」

「イルの落雷で斬れないとは…どうやらこいつの体、タダの鉱物じゃないみたいですね」

「あああああああああああああ!!!俺の愛剣がブチ折れてるううううううう!!!」



そこまで慌てている様子でもないグレインさんを見るに、死の危険があるわけではなさそうだ。

ただ麻痺もいつまでも続くわけじゃない。

イルがさめざめと落ち込んでいるところだが相手はどうやら待ってくれないようだ



「ギシャアアア…」

「さすがに強い、もう麻痺に抵抗し始めている。

さて…暴れだす前に次は毒を盛るところから行きますかね!!」




―――――――――――――――――――――――――――――――




3人が洞窟でストーンスネークと戦っているとき、暗闇に蠢くものはまた別にいた



「まだ全員集まってないのか」

「まだと言ってもこれ無い奴も何人かるよ、そうイライラしないでよ」

「今日は珍しくあの方からの招集だ、来ないなど言語道断だ」

「そうはいてもそんなことイウのアナタくらいネ」

「遅いぞ、他のやつも一緒か?」

「シラナイよどうせあちこちでバカやておくれてるヨ」



薄暗い室内だったが密談とはおおよそこんなものだろう

その中では偉丈夫の男がイライラしながら仲間を待っていた



「貴様らはいつもそうだ、あの方は特に気にしてはいないようだがもう少し節度というものを持ち行動したらどうだ。特に最近は派手な行動が目に付くぞ。

我々はまだ日陰のものなのだ、我らの存在を嗅ぎ付けられればあの方の目的が…」

「はいはい!そこまでよ、あんたはいつもイライラし過ぎよ。

騎士団でもあるまいに、そこまで私たちは堅苦しい組織でもないのよ」

「むぅ…だが秩序が必要だというのも理解してもらおう。行き過ぎた自由は自壊を招く」



取りなした女性に対して男はやや気分を収めたようだった

そこにさらに男達が入ってきた



「ぼくらで最後かな?」

「そのようだ」

「あら、珍しく遅刻せず来たわね。

それで…その後ろの子が例の?でも予定では二人連れてくるんじゃなかったの?」

「そうだ、だがもう一人の方は邪魔が入ってしまってな」

「ぼくも手伝おうかって言ったんだけどねー、別々でやった方が効率がいいだろうってー。

まあその結果逃げられてるんだけどねー、にひひ」

「貴様ら報告が届いてるぞ、二人とも派手に動いたそうだな?俺は秘密裏にといったが?」

「無理無理ー。町中でこそこそするにも夜に奇襲するにも騒ぎはつきものだよー」

「しかり。私たちとて努力はしたのだ」



言い合いをする傍らほかの者たちはまたかという顔をしていた。ここではいつものことなのだろう

そして各々近しいものと近況報告や雑談を進めていた。

しばらくするとそこに一人の外套を纏ったものが現れた。

その者が入ってきた瞬間空気が引き締まり、部屋のものは全員立ち上がり礼をとった



「やですね、いつも言っていますわ。かしこまらなくていいのよ、楽になさい」



口調からして女性のようだった、目礼をし全員が席に座ったところで会議が始まった



「ふうん…空席はなかなかに埋まってきたわね、それで?新しい子はその子?」

「そうですよー。中々にいい力をもってる。ぼくが保証しますよー」

「そうですか、あなたがそういうならきっとそうなのでしょう。あなた、お名前は?」

「…カリウス・ヴィンセント」

「まあ、聞き覚えのある家名だわ…あらあら…これは面白いことになりますわね。

さて、カリウスさん。あなたにはそこの空席…Ⅵの席を使ってもらいましょう」

「俺はまだあんたらの仲間になることに了承はしたが、納得したわけじゃない。

しばらくは様子見させてもらう」

「ええ、それで十分よ。それで、もう一人の方は?」

「申し訳ございません。そちらは失敗しております」

「あらあら…それは仕方ないわねぇ。じゃあその子は後の楽しみに取っておきましょうか」

「寛大な御心感謝いたします」

「さて、今日皆さんに集まってもらったのは新しい仲間を迎えるため、そしてそろそろ本格的に動く時期を決めるために集まってもらいました」



女性の宣言に息を呑む音が聞こえた。

陰に動くもの、それが表舞台に出ることになると



「空席も残り少し、しかし猶予はもはやありません。

帝国と王国間の対立ももはや限界、開戦は時間の問題でしょう。

そして教国は虎視眈々と機会を伺っています。

私たちも…その機に乗じて動きましょう」



世界は徐々に動き始めていた



順調に獲物を狩っていた3人

そこに現れたのは黒光りの大物!

彼らは無事に下山できるのだろうか


そして、彼らの知らぬところでは暗雲と世界が動き始めようとしていた


次回、Page.5 笑うものと抗うもの

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