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第三話「拝啓、一夜明けたら、俺……反逆者でした」④

「あんた、疑いだなんて、一言もいってなかったよな? しっかし、アルドノア……お前さんも、こんなくだらん仕事にクラン総動員とは……ご苦労なこったな」


 後ろに立つ重装騎士の一人に声をかけると、そいつはフェイスガードをくいっと持ち上げて顔を見せる。

 金髪碧眼のイケメン……「ジェームズ666」クランリーダーのアルドノア。

 

 戦士としての実力も、御前試合で俺と互角の勝負を繰り広げたほど……鉄壁の守りを誇る重装騎士の中でもトップクラスの実力者ッ!

 

 強敵と書いて「とも」と読む……まぁ、お互いライバルと認め合ってる仲だ。


 ライバルっても、時々一緒に飲みに行っては、お互い大変だよなーと肩組んでクダをまくような関係なんだがな。

 ……要するに、友達マブダチだ……そうだよ、仲良しなんだよ!


「さすがにバレてたか……。悪い、オッサム……。治安維持局の勅令ともなると、俺達も従う他ない。幸いお前のクランの連中は節度ってもんがある……皆、大人しいもんだ。今の所、うちの連中ともにらみ合いで済んでる。俺達も別にお前らとやり合いたいなんて、思ってないからな。予め、先に手出しせず、足止めに徹するように厳命してある。もっとも、そこのガキ共にゃ、まんまと逃げられちまったようだがな」


「……どうせ見逃してくれたんだろ? ガキに甘いのはお互い様だな……。だが、穏便に済ませてくれた事には礼を言う。仕事なんじゃどのみち、恨みっこなしだからな。それと、その反逆の疑いってのは、俺だけか? まさか、クランぐるみって話じゃないだろうな?」


「えーと。そうですね……。今の所、罪状にはオッサム氏の名のみが記されていますので、オッサム氏のみの招聘となりますね。ただ「黒銀X団」の皆様の行った様々な当局への妨害行為につきましては……公務執行妨害に該当……」


 チビの治安官がもったいぶったように前に出て、偉そうな事を言い出す。

 だが、俺一人ならともかく、仲間達までってのは、納得いかんぞ?


「あら! アタシらはここに立ってただけよ。ちょっとお邪魔だったみたいだけどね。アルドノアさんも見てたわよね」


 さすがに抗議のひとつもしようと前に出ようとしたら、ド・ムー先生が治安官の前に立つと、どーんと腕を組んで無言で見下ろす。


 ……ド・ムー先生の圧倒的存在感の前に、治安官も無言になると、目線を逸らす。

 まぁ、極めて普通の反応だろう。


「ああ、ド・ムーの旦那と他の二人も治安官殿には、一切手出しはしてなかったぞ。俺達もその程度の事で、公務執行妨害とは思っていなかったから、手出しは控えたまでだ。制圧命令も出ていない以上、当然の話だ……」


「いえ、アルドノア殿……こいつらは……その……小官を……ですね」


「何やら治安官殿は、独り相撲を取っていたようですが、それで公務執行妨害とは横暴と言うもの……それでは、勝手に転んで、そこにいただけで公務執行妨害となるのですかな? さすがにそれは理不尽というものでしょう」


 ……同業者のよしみがありがたい。

 アルドノアの奴、ナイスフォロー。

 

 まぁ、公務執行妨害とか現場の治安官のさじ加減次第なんだがね。

 いつだったか、反抗的な目つきだったから……なんて、理由で捕まった奴もいたからな、実際。


 けど、アルドノアもそんな理不尽は許さないと言いたげな様子……治安官もちらりとアルドノアに視線を送って、ギロリと睨み返されると慌てて姿勢を正す。


「うんうん、アタシは立ってただけだからね! なんなら、やさしーく、抱きしめてあげてもいいのよ? アナタちょっと好みじゃないけど、特別サービスって事でっ!」


 そして、ダメ押しとばかりにド・ムー先生の凶悪な笑顔……。


「そうですね! 皆様、単に立ってただけですよね! 小官は気に致しませんからっ! はいっ! と、とにかく、オッサム氏が大人しく出頭すれば、すべて丸く収まります。ど、どうでしょう……すでに、投降の意思を示したと私も判断しているのですが! 決して、悪いようにはしません、この二等治安官ポトキン! この六芒星の治安官バッジに誓って、正義のみを遂行すると宣言いたします!」


 ……さすがに、あっさり折れた。

 と言うか……やたら偉そうな癖に、こいつ二等治安官なのかよっ!

 

 思いっきり下っ端じゃねぇか……軍隊で言うところの二等兵じゃん。


 下手すりゃ、俺達に切り捨てられかねないからって、死んでもいいようなヤツを回したとかそんなか?

 まったく、治安局もクールな真似やってくれるな……

 

 いずれにせよ、このチビを始末した所で、何の解決にもならない。

 こいつを脅して追っ払った所で、別のやつが出てくるだけの話。


 ……ここは、条件付きで大人しく投降する……それしかないか。

 

「そうだな……仲間に手出ししない、追求もなし。この条件を守ってくれるなら、大人しく同行しよう」


 俺がそう言うとチビの治安官も、心底安心したようにため息を吐く。

 

 交渉は成立だ……まだ疑いってだけみたいだし、何の罪もない冒険者を罪人に仕立て上げるほど、帝国も腐っちゃいないはずだった。

 

 ……って言うか、俺だって名誉称号ながら「帝国自由騎士」の称号を持つ准貴族でもあるんだからな。

 貴族を拘束するとなると、それ相応の手続きも必要になるし、形式やら色々面倒が出て来る。

 

 それらをガン無視するような無茶がまかり通るようなら、それはもはや、この国の秩序ってもんに、喧嘩を売ってるようなもんだ。

 

「はい、私も余計な騒ぎは御免こうむりますからな。うんうん……正直、A級クランのリーダーの捕縛と聞いて、私も念のためという事で、確実に制圧出来る戦力として、100人近い冒険者を動員していたのですが……。誠心誠意の説得の末、無血投降……うん、素晴らしい結果ですな。まさに、平和主義の私の人柄故にか……。とにかく、これは考えうる限り、最上級の結果ですからな。オッサム氏の手下諸君に罪が及ぶことはないとこの私が断言します。万が一、オッサム氏が反逆者として罪に問われても、この私が氏の無罪を訴えるべく、証言台に立ちますから、大船に乗った気でいてください」


 うわぁ……こいつすっげぇ、小物臭。

 頼もしいこと言ってるけど、なんか全然心強くねぇし、嬉しくねぇ……。


 大船? 手こぎボートのほうがまだマシな気がする。


 つか、ホントにA級クラン総動員しやがったのか。

 どう見ても小物のくせに、やることが派手だな……。

 んな、冒険者100人動員とか、予算とんでもないことになってるんじゃないのか……馬鹿か? 馬鹿なのか?

 

「オッサムちゃん、ホントに大丈夫? 女神の加護を受けた冒険者であり、准貴族でもあるオッサムちゃんに反逆罪なんて、余程のことがない限り適用されないはずよ……。ねぇ、何かアタシ達に隠し事とかしてない? ヤバい証拠がどこかにあるなら、今のうちに言って……人だろうが、物だろうが、軽く闇に葬ってくるから」


「ないない……そもそも、俺、悪い事してないし。あ、それとお前ら……そろそろ、離してくれないと動けない」


 ……俺の足元には、ちびっ子チームの奴らが意地でも行かせないとばかりに、総掛かりで張り付いていた。

 リゼッタは、一歩離れた後ろで、心配そうに見てるけど……もっとガキなこいつらはそこまで聞き分けが良くないみたいだった。


「おい、ガキ共……もう離してやれ。オッサムは俺達を巻き込まない為に、一人お上に下る事にしたんだぞ。お前らが今更、意地張ってもむしろ、こいつを困らせるだけだ!」


 ハインケルのおっさんが、ずいっと前に出る。

 ガキ共もさすがにビビって縮こまる。


「まぁまぁ……皆もよく聞いてくれ。多分、反逆罪とか何かの間違いだろうからさ……。カテリーナ陛下だって、まんざら知らない仲じゃない……陛下にちゃんと話せば、何かの間違いだって認めてくれるさ。とにかく、お前らは大人しくここで留守番しててくれ。ド・ムー先生……年長で副長格のあんたの言う事なら、他のやつも聞くだろうから、留守を任せてもいいか?」


「さすがに、オッサムちゃんの頼みなら、断れないわよね……。アタシも、執政府関係者に知り合いくらいいるから、手を回して見るから……。いいこと? 自分の潔白が疑いないってのなら、とことん、それを貫き通すのよ! 拷問されたって、無実だって言い張るのよ! さぁ、チビちゃん達はこっちよ!」


 筋肉三人組が俺に群がってたガキ共を軽々と引き離すとまとめて小脇に抱え込む。

 さすがに、クラン随一の筋肉三人衆の前には、チビガキ共なんて抵抗すら出来ない。

 

 何故か、同列扱いでド・ムーの旦那に抱え上げられたリゼッタがなんでーっ! って抗議してるけど、まぁ、いいか。


「解った解った! じゃあ、ちょっと行ってくるわ」


 俺も努めて、明るく振る舞うと、治安官の後ろを黙って付いて行くのだった。

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