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第三話「拝啓、一夜明けたら、俺……反逆者でした」②

 ……そんな訳で、俺は一人クランハウスの俺の部屋のベッドでごろりと横になっている。


 ド・ムー先生も、俺を心配してくれただけみたいだったようで、ベッドに俺を寝かせつけるとそのままどっかへ行ってしまった。

 

 言っておくが、何もされてないぞ……ド・ムー先生は、ああ見えて紳士の中の紳士と呼ぶべきナイス筋肉ガイなんだ。

 

 シンプルに……何もかもが、とても、とても暑苦しい人だってだけだ。


 クランハウスも今日は、皆街に買い出しに行ったり、自主訓練に出かけたり、バイトに励んだり、ボランティア活動……まぁ、休日の過ごし方なんて人それぞれだ。

 

 とにかく、二階の居室には誰もいないようで、静かなもの。


 一階のリビングには、何人かたむろってるみたいだけど、俺を気遣ってか、至って静か……。

 

 皆、イイ奴らだよなぁ。

 

 まぁ、頭痛も治ってきたし……丸一日寝て曜日とか、不本意だし。

 腹も減ってきたし、そろそろ、起きるかな……と思っていると、一階の方が騒がしくなる。

 

「……おいおい、騒々しいな……何事よ……おちおち寝てらんねぇじゃん」


 言いながら、一階のリビングに降りていくと、なんともピリピリした雰囲気……。

 

 ……なんだこれ? 殺気?

 

 気配を殺して、階段の脇から一階の玄関先の様子を眺めてみる。


 クランハウスの入り口の外には……フルプレートの重装騎士ヘビーアーマーナイツ……それが四人も並んでいるのが見えた。

 

 玄関先にも、帝国治安局の制服を着た小柄の奴がいて、一枚の紙をバーンと見せつけている。

 

 一方、クランの仲間達はド・ムー先生を先頭に人垣を作って、一歩も引かない構え。

 

「申し訳ありませんが、そこを退いていただきたい。私は治安維持局の治安官です。……罪状もありますので、大人しく退いていただかないと公務執行妨害として、あなた方も拘束せざるを得なくなりますよ」


「あら、アタシ達は、ここにただつっ立ってるだけよ。なんなら、力づくで押し通していけば? 出来れば……の話だけど」


 デカくて筋肉、ド・ムー先生に、図体だけならクランナンバーワンの巨漢グレイブ、筋肉鍛冶師のハインケルのおっさんまで……むさっ苦しいのが三人も並んで腕を組んで、ガッツリ入り口を塞いでいた。

 

「やれやれ、そう言う事なら、無理やりにでも、通してもらいますからね。ぐ、ぐぬぬーっ! お、重いっ! びくともしないだと?」

 

 治安局のチビも、その隙間に身体をねじ込んで、押し通ろうとしてるのだけど、三人の筋肉の壁はビクともしない。

 

「うりゃあああっ! ど、どう言うことなんですか! いくらなんでも、微動だにしないなんて! お、おのれ……小官を馬鹿にしてっ! ムキィイイイイイッ!」

 

 助走をつけてタックルしてるんだけど、いかんせん筋肉の壁は安定感抜群すぎて、チビの治安官がいくら頑張っても屁の突っ張りにもなってない。

 

 後ろの騎士達は違う意味で、恐れをなしているようで、ドン引き気味。

 

「あらやだ……。何か触ったかしら?」


「気のせいじゃろう……ワシらはここで仲良く腕を組んどるだけだからな! おい、そこのデカブツ共、こんなチビ助一人でワシらを動かそうなんて、100万年かけても出来っこないぞ! ちったぁ手伝ってやったらどうだ?」


「あらやだ……そこの人、ちょっとイケメンじゃない。良いわよ……全身全霊でドーンと向かって来なさいっ! アタシもこの鍛えまくった筋肉でガッツリ抱きとめてあげるわっ! ヘイカモーン! 武器なんて捨てて、かかってきなさい!」


 まさに、鉄壁……無敵のバリケード。

 ……こんな壁、俺だって当たりたくないよ。

 

 しかし、罪状まであるのか。

 ……内容はよく判らんかったけど、俺の名が書いてあったのは確かだった。

 

 ……お、俺! なんか悪い事した?

 

 ど、ど、ど……どうしようっ?

 なんか、めっちゃ変な汗が出てきた……。

 

 あそこでド・ムー先生たちが頑張ってるから、強制的に踏み込んでくるとかは無さそうだけど。

 そんないつまでもって訳にはいかない……。

 

 治安局の名指しでの呼び出しとなると、多分俺が何かをやらかした……。

 

 けど、思い当たるフシもない……。

 ケイブワイバーンの討伐なんて、帝国冒険者ギルドからの正式な依頼……問題があるはずがない。

 

 関所だって、堂々と通ったし、昨夜の馬鹿騒ぎだって、ちゃんと金払って、酒場貸し切りにしたし、店の外で騒いだりもしてない。

 

 別に、金や物を盗んだりしてないし、税金だってちゃんと専属の税理士立てて、きっちり払ってる。

 

 女の子に乱暴とか、そんな事、女神アイリスが許しても、俺が許さないから、それこそあり得ない。

 メンバーへのセクハラやパワハラだって、やっちゃいない。

 

 タバコやゴミの投げ捨てだって、そんなノーマナーな事しない。

 

 えー? 思い当たるフシが全然ないんですけどー。

 

「オッサムさん、オッサムさん! こっちです!」

 

 途方に暮れかかっていたら、上の方で小声で俺を呼ぶ声がする。

 振り返ると、小さな人影がゾロゾロと。

 

 リゼッタちゃんと、五軍……お子様パーティのメンツが揃っていた。

 いつもは、五軍も引率のホノモトって爺さんがいるんだけど、姿が見えない。

 

 足音を立てないように階段を上がると、なんか一斉にお子様連中に抱きつかれる。

 

 まぁ、こいつらは揃いも揃って10歳位のお子様で、弱小クランで思いっきり搾取されて、奴隷みたいに扱われてたんで、見るに見かねて、俺のクランで面倒見る事にしたんだ。

 

 食うのにも困ってたような有様から、一転A級クランの仲間入り……そんな訳で、めっちゃ懐かれている。

 

 一応、チームリーダーはちょっとだけ年長の双子の姉妹のトレイニーとラミー。

 

 それぞれ、軽戦士ライトファイター治癒士ヒーラー……レベルは低いし、下位職だから、戦闘力も高くないけど、偵察に素材集め、物資輸送と、裏方仕事がメインながら、ちゃんと仕事してくれるから、十分役に立ってる。


「オ、オッサムさんは何処にも連れて行かせないですぅっ!」


 妹のラミーが泣きながら、ズボンにすがりつく。

 他も似たようなもん……と言うか、事情がよく判らん。

 

「ああ、リゼッタ……悪い。何がどうなってんだ? なんか、俺……治安局に逮捕されそうだったりする?」


 リゼッタちゃんが無言で頷く。

 ああ、やっぱり……そうなると、こいつら総出で、俺を守るために、身体張ってるって事か。

 

 他のメンツも今頃、クランハウスに向かって来てるだろうな。

 

 ……或いは、町中で治安局との睨み合いの真っ最中か。

 

 まぁ、俺を捕縛……なんてやるなら、俺のクランの連中が全力で阻むなんてのは、日の目を見るより明らかだからな。

 

 つか、どいつもこいつもお上に逆らって……とかよくやるよなぁ。

 まったく、義理堅すぎて、涙がでるぜ!

 

「やれやれ、お前らどうせ……屋根裏部屋から、忍び込んだとかそんなところか? となると、外の様子も見てきたと思うが……どうだった?」


「あ、はい……外は治安局に動員されたと思わしき、同業の冒険者達に何重にも取り囲まれてます。私達も、屋根伝いになんとか来れただけで……。けど、屋根裏部屋の窓は、私達ならともかく、オッサムさんは無理ですよね……どうしましょう」


「う、裏口が手薄みたいなんで、そっちから逃げてください。僕らが先に出て、囮になりますから、その隙にリゼッタはオッサムさんを連れて逃げてください」


 軽銃士ハンドガンナーのサブローが震えながら、そんなことを言う。

 弓狩人ハンターアーチャーのカティナ、水術師ウォーターコマンドのロナーの二人も同意するように頷く。

 

「なんか、いつもと逆だよね! でも、こう言うときにこそ、お役に立たないと、いつまで経っても御恩が返せないですから! この場は、私達を捨て駒にして、オッサムさんは、何としても逃げ延びて下さいっ!」


 リーダーのトレイニーが勇ましくガッツポーズを決めながら、勇壮な決意を語る。

 まったく、こいつらは……。

 

 俺が普段カッコいいことばっか言ってるから、変な影響受けやがって……。

 まぁ、俺はこいつらの見本……親代わりを上手くやってたって事か。

 

 まったく、これじゃ文句の一つも言えやしないぜ!


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