第三話「拝啓、一夜明けたら、俺……反逆者でした」①
あくる翌朝。
俺は酒場の床で目を覚ます。
ウェイトレスのシーナちゃんに、踏まれて起こされると言う素晴らしき目覚めだった。
まぁ……床で寝てたもんで、シーナちゃん気付かなかったみたいなんだけね。
慌てて起き上がったら、スカートの中に顔突っ込んじまってて、思いっきりビンタされたけど……。
なーんか知らんけど、俺ってそんな事故とか偶然で、いわゆるスケベイベントに出くわすんだよな。
ラッキースケベ体質? ただ、俺……ストイックを自認してるし、役得とか思っちゃいないぞ。
俺達の拠点……クランハウスで、女子メンバーの部屋の前通りがかったらドア全開で着替えてた……とか、一人で風呂入ってたら、入ってるの気づかれなくて、女子連中に集団で入って来られた……とか。
別に何も狙ってないぞ……? そもそも、どれも事故だしなぁ。
狙ってできる訳無いじゃん、そんなの。
風呂の時は、ヤケになって、むしろ堂々としてたら、悲鳴ひとつ上げられずに、むしろ背中流してもらったり、ちょっとしたハーレム気分だった。
まぁ、俺は終始タオルで目隠ししてたんだがな! なにせ、俺、紳士ですから。
なんだかんだで、お咎め無しって事が多い。
……リゼッタのお着替えタイムの時は、泣かれて困ったけど……。
そんなになるなら、ドアくらい閉めて着替えてくれよ……。
けどおかげで、すっかり目も覚めた……目覚めの一番乗りってやつだ。
酒場も俺達の貸し切りだったから、マスターもしまいにゃ、もう好きにしろって言って、先に帰ってしまったもんで、皆、店のあちこちで死体のように転がってる。
そんな有様なのを知らずに、シーナちゃんは、いつもどおり仕込みのために、まだ暗い店の中に入ってきて、俺を踏んづけたと。
クランのメンバーには、女の子も結構いるんだけど、皆無造作に寝っ転がってたり、壁に寄りかかってたりとまぁ……まさに雑魚寝状態。
リザ先生とアレキサンドラ嬢なんて、仲良く二人肩を寄せ合って寝てる……女の子同士のこう言う光景ってのは尊いね。
「あ、オッサムさん、おはよーございますぅ」
リゼッタちゃんが眠そうに目をこすりながら、起き上がる。
そういや、いつぞやか制服姿をご披露します……とか言って、制服姿に着替えてくれたこともあったよなぁ。
昭和レトロのリバイバル制服とかで、そのセーラー服姿には、年甲斐なくグッと来たもんだ。
「おぅ、おはようっ! そいや、今思い出したんだが、前に学校の制服姿見せてくれた事あったよな。なんか昭和レトロリバイバルって言ってたけど、あれ可愛かったなぁ……」
俺がそんな事を言うと、なんとも不思議そうな顔をされる。
「学校? 制服……何の話ですか? と言うか、また変なコスプレでもさせるつもりなんですか? オッサムさんは確かに尊敬に値するすごい人だと思いますけどね。そう言う事は恋人でも作って、二人きりの時にでもやってくださいよ。あ、でもでもっ! だからと言って、ここで愛の告白とかやめてくださいね! 断れる自信ないのでっ!」
「え? 昨日、自分で学校通って制服着てた覚えがあるって言ってし、自分で中学生やってたって言ってたじゃん。実際、その制服姿を披露してくれたこともあったはずだろ……確か、セーラー服っての着てたんだろ? ちゃんと覚えてるよ」
まぁ、愛の告白云々ってのは聞き流す。
リゼッタちゃん飛躍しすぎ……でも、断れないって、それって俺が求めたらいつでもOKって事?
……おじさん、困っちゃうね!
「……学校ってなんですか? セーラー服って……そんな単語、聞いたこともないんですが。あ、ちょっと顔洗ってきますね」
意外なセリフと共に、寝起きのボサボサ頭に気付いたようで、慌ててパタパタと走り去るリゼッタちゃん。
うーん、おかしいなぁ……あの娘、記憶を失うほど飲んでなかったはず。
と言うか、あれからも酒なんか飲ましちゃいないからな……。
未成年はお酒駄目! 絶対!
……それくらい、皆弁えてるから、他のやつが飲ませたとは思えない。
「ド・ムー先生も起こして聞いてみるか……さすがに、先生が記憶飛ぶほど飲むとは思えねーし」
酒瓶片手に転がってる髭面オヤジを乱暴に足でグリグリする。
「ド・ムーの旦那! もう朝だぜ! 起きやがれっての!」
「あら……オッサムちゃん。おはよ……もうやぁね……。起こすなら、もっとや・さ・し・く!」
「やかましいわ……こんなとこで寝てるほうが悪い」
起き上がりながら、抱えてた酒瓶をグビリとやるド・ムー先生。
まったく、呑んべぇだからな……このオヤジは。
ちなみに、このオヤジは、基本、上半身裸にサスペンダー……なんて、ムサ苦しい姿をしている。
肩や背中に、派手に入れ墨を入れてるから、遠目には服着てるように見えるけど、戦闘時以外は基本、裸だ……筋肉美を見て欲しいんだとか……別に、俺は見たくないが。
……でも、たまにスーツとか着てると、激しく似合わないんで、そういう時は指さして笑ってやる。
「うーん! 寝起きに、オッサムちゃんの顔を見ながらの迎え酒なんて、さいっこうに幸せ……で、どうかしたの? アタシになんか用があったんでしょ」
「いや……まぁ、昨日の話の続きなんだがな。なんか、皆で変な記憶があるって話しただろ? リゼッタちゃんとかもそんな話しててさ……。旦那は花屋の主人で、リゼッタちゃんは学校通いの中学生……だったかな? そんな話したじゃん」
「……そんな話したかしら? けど、お花屋さんなんて、そんな商売出来たら素敵よね。昨日は……皆で飲んで騒いで……あらやだ、皆して、あのままここで寝入っちゃったんだ。と言うか、何話したかなんて、良く覚えてないわね……。ちょっと飲みすぎちゃったかしら」
「おいおい、記憶を無くすほど飲んだってのか? 飲みすぎだろ……」
「ごめんなさいね。ついハメ外しちゃって……けど、昔の記憶ね……。きっと皆、色々あるんだろうけど、忘れていい記憶だから忘れちゃうんじゃないかしら? たまにふっと蘇ることもあるかもしれないけど。どうせ過去には戻れないんだから、一夜の夢のようなもの。今を大切に生きる……それでいいんじゃないのかしら」
「いやいや、俺は色々思い出してきてるんだよ……。でも、思い出そうとすると頭が……ううっ、くそっ! ま……た……か……」
……また、ガンガンと頭が痛くなる。
二日酔いかな? いや……これは違うな。
思わず、頭を抱えてうずくまる……。
「オッサムちゃん! 大丈夫っ!」
ド・ムーの旦那が血相を変えて、抱き起こしてくれる。
「す、すまん……年は取りたくないねぇ……二日酔いかな? 頭がクラクラして、頭痛が……」
「もうっ! びっくりさせないでよ……。って言うか、昨日戻ったばっかりなんだから、まだ疲れが残ってるんじゃないの? 今日はもう一日、クランハウスで横になってればいいわ。ここの後片付けや、色々細かい事はアタシらがやっとくから」
「すまねぇな……旦那。そうさせてもらうわ……って、ちょっ!」
気がつくとそのまま持ち上げられて、いわゆるお姫様抱っこ状態の俺。
「うふふ……このまま、クランハウスのベッドまで運んでいってあげるわよ! もしかして、約得って奴?」
起きたばかりのリザ先生とアレキサンドラ嬢が二人して、手をつなぎ合って、はわわーっって感じでこっち見てる。
顔洗って、戻ってきたばかりのリゼッタちゃんも、両手で口を抑えながら、赤い顔でじっと熱い視線を送ってる。
「ちょっ! まっ! お前らーっ! なんで、そんな目で見るのー! ねぇってばっ!」
かくして、俺がド・ムー先生の逞しくもパワフルな腕に抱かれて、半ばさらし者状態で、朝の街をかっ飛ばされるのであった!