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第二話「今日は朝まで宴会だっつの!」③

「……どうしたのよ。オッサム……今日は、塞ぎがちね。疲れたの?」


 アレキサンドラ嬢が隣に来るとしなだれかかってくる。

 この人、露出が激しい上に、割と胸もデカい……到るところに切れ込みの入った赤いローブは、肌色多目、色気満載でたまに目のやり場に困る。


 若い頃だったら、その胸元のスリットに目線が釘付け……とかなってたけど、おっさんはそう言うのに興味がなくなっていくのだよ。

 

 まぁ、チラ見くらいはするけどな……。

 その胸元のスリットに指突っ込んだら、どうなるんだろうと思わなくもないけど、ハンサムで紳士な俺はそんな事はしないのだ。

 

「ん? まぁ……ちょっと考え事をな」


「なぁに? お姉さんが聞いてあげるわよ」


 俺の年齢35歳……もう立派なおっさんであるのだから、20代のアレキサンドラ嬢はむしろ年下。

 年齢は25歳でカンストしてるんだとさ。

 

 なんだけど、どうも姉御気質の持ち主らしく、いつもこんな調子。


 でも、おさわりは厳禁……事故でうっかりその豊満な胸をもにょんとタッチしちゃった時は、真っ赤になってしゃがみガード体勢になられた挙げ句、涙目プルプル……。

 

 色気アピール大好きなのに、意外と純情……ギャップ萌え狙いなのかもしれないが、まさに地雷!

 

 まぁ、そんな事はどうでもいい! ここはちょっとシリアスな話だからな。

 真面目な顔で、タバコを咥えて、マッチを取り出そうとすると、アレキサンドラ嬢が指先に炎を灯すとすっと差し出してくれる。

 

 なんだっけ、これ……接待タバコだっけ? なんとも、気が利くねー。

 ありがたく、火を借りると煙を燻らせる……世の中、禁煙とかうるせぇけど、誰にも文句言われないってのは良いもんだ。


 つか、禁煙とか何処の世界の話だっての……まったく、最近こんなんばっかりだ。

 なんなんだよ……これ?

 

「……ああ、俺さ……たまに思うんだよな……。この世界って色々おかしいような気がしてならなくてな。確かに俺も冒険者になって、色々な戦いや冒険をこなしてきたんだけど……。昔の記憶ってのが、なんか凄くいい加減なんだ。俺もオッサムじゃなくて、違う名前を名乗ってたはずなんだ……。仕事もこんな危なっかしい冒険者稼業じゃなくて、ネクタイ締めて、パソコンいじってたような記憶があるんだよな。でも、この世界でも色々冒険してたし、お前らとも古い付き合いって気もするし、実際そうだしな……。このタバコだって、本来は吸うのもご法度でさ……こんな風に人前で吸ってたら、怒られてた……ような気がするんだがな。……わりぃ、変なこと言ったな」


 ああ、なんか記憶がグチャグチャになってきた。

 考えすぎなんだろうか? 馬車での移動中に読んでた冒険小説とかの話も混ざってねぇか?


「オッサム、あなた疲れてるのよ……たまには休んだら?」


 アレキサンドラ嬢が呆れたようにため息一つ。

 けど、ド・ムー先生は真剣な様子で俺の言葉に頷いていた。

 

「そうね……実は、アタシも記憶の違和感ってのを良く感じてるの。アタシら銃使い……機械兵って、星の世界の向こうからこの世界にやってきた。そのはずなんだけど、その星の向こうの世界での出来事って全然覚えてないのよ。長い間、宇宙船に乗せられて、コールドスリープされてた影響で、アタシらは皆、記憶喪失みたいになってるって話だけど。今と全然違う生活をしてた記憶もあるのよね……ちなみに、アタシはお花屋さんの店主だったわ。毎日お花に囲まれて、花束作っていらっしゃいませーって」


「おいおい、花なんて貴重品……そんなもんで商売とか、聞いたこと無いぞ」


「そうなのよね……。この世界って、街の近くは緑もあるけど、綺麗なお花なんて、山奥とか深い森を目指さないと手に入らない……。おまけにすぐ枯れちゃうし、根こそぎ丸ごと取ってきて、そこらに植えてもちっとも根付かない……だから、そんな商売出来るはずもないのよね」


「わ、私もそれ疑問に感じてました! ちなみに、私は皆同じような可愛らしい制服着て、毎日勉強してた……そんな気がするんです」


 リゼッタも似たような事を言い出す。

 周りからも似たような声が上がる……。


 学校に通う学生さん……そんな単語が思い浮かぶ。


 そいや、ハルカもそんな事言ってたな……通信制高校だとかなんとか。


『…………十代なら、ちゃんと皆と学校通えよな……学生時代なんて、あっという間なんだし、後になってみれば、いい思い出になったりするんだぜ?』


『なに、そのじじむさい説教? てか、生女子高生の制服姿だよー? うりうりー、欲情した? えんこーと間違われたりして!』


『おめーみてぇなガキに、欲情なんてしねーよ……バァカ』


 ……なんか、リアルな会話の記憶が蘇ってきた。

 なんだ、この生々しい会話。

 

 けど、帝国もだけど、この世界って、そんな学校とかってあったか?


 リゼッタと、同じくらいの年齢の子供を街で見かけることもあるけど、あいつら普段何やってるんだろう。

 子供を集めて勉強させる? そんな施設あるなら、うちのお子様連中を通わせてやりたいよ。


 リゼッタはうちのメンバーでも若手、十代の前半、たぶん12か13とかそんなもん……要するに子供。

 子供を半機械化して、兵士にするとかまともな奴のやることじゃない。

 

 でも、十代の冒険者なんて、珍しくないし、リゼッタみたいな子供の機械化兵だって少なからずいる。

 

 かと思いきや、俺みたいなおっさんの現役冒険者もぞろぞろといる……。

 

 そんな三十も半ば過ぎたなら、いくら女神の加護を受けていても、いい加減体力も衰えを感じるし、本来なら後続の育成とかに回るものだ。

 

 にも関わらず、本来引退しているべき40とか50くらいの年いった奴も珍しくない。

 

 なんか冒険者の年齢層が、街の人々の年齢比とかけ離れてるような気がするんだよな。

 

 それに……「流星」の奴らも。

 セブンスターズの奴や、降下侵攻用の機械兵なんかはよく見かけるけど、結局何がしたいのか良く解らない。


 ダンジョンだって、定期的に湧くけど本気で惑星改造とかしたいなら、そんな散発的に一個とか二個とかじゃなくて、100個とか200個とかまとめて集中的に打ち込んでしまえば、こっちはそれだけで詰みだ。

 

 色々不自然……冷静に考えると……なんかもう、違和感だらけ。

 

 けど、そんな風に色々考えていると。

 ズキンと頭が痛む……思わず、頭を抱える。

 

 まるで外部から、それ以上考えてはいけない……そう警告されているような。

 あまりの痛みの激しさに、もう考えるどころじゃなくなりそうになる。

 

「ごめん……悪いわね。つまんない話したわね……皆、楽しんでるー? 今日はオッサムの奢りで、この酒場も貸し切り! おまけに飲み放題食べ放題なんだから、楽しまないと損よー!」


 ド・ムー先生がちょっと妙な雰囲気になりかけた場を変えるつもりらしく、明るいいつものオカマ口調で皆に声を掛ける。


 隣に来て、俺の肩にその逞しい腕が回されるんだけど、まぁ……ここは合わせて、俺もド・ムー先生の肩に腕を回す。

 

 ふぅ……頭痛も治まってきたか。

 どうも、色々考えるのが良くないみたいだ……

 

 ……今日は、そんなつまらない話をすべき場じゃないからな。

 大いに騒いで、盛り上がろう!

 

「はっはっはーっ! 今日はケイブワイバーン討伐の戦勝会! 皆、それぞれの役目を立派に果たして、ケイブワイバーンを討ち取ったんだから、これからも一人も欠けることなく、皆で力を合わせて、頑張っていこう! 俺達はひとりじゃないっ! 友よ! 今日は飲んで騒いで、派手に馬鹿騒ぎしようじゃないか! どうせ、明日は休養日! 明日のことなんか気にせずに、飲み明かしたって良いぞー!」


 そう言って、目の前にあった酒瓶を掴むと、豪快に一気に飲み干すと、皆から歓声が上がる!


 なんか、いい感じに出来上がってるリザ先生が脱ぎまーすなんて言い出して、上着をバサッと脱ぎ捨てて下着姿になってるのを、アレキサンドリア嬢が止めてる。

 

 リゼッタの奴が、キョロキョロと辺りを伺いながら、ビールジョッキを傾けようとしているので、ボッシュートッ!

 

「リゼッタ! いけませんっ! 子供はお酒なんて駄目っ! 絶対っ! こんなものは、こうしてくれるわっ!」


 ゴキュゴキュと一気飲み!

 

「くぅーっ! ウメェなぁ! こりゃ、子供には飲ませられねぇや!」


「オッサムさん、酷いです! わ、私、子供ですけど……お酒くらい飲めます! じ、実はハタチなんです! ハタチ!」


「やかましい誰がどう見ても、ガキんちょだっつの! お前、実は小学生なんじゃねーの」


「せ、制服着てたから、中学生は行ってましたーっ!」


「やっぱ、お子様じゃねーの! お前はチビどもと、ジュースかお茶でも飲んでろ!」


「ひどーいーっ!」


 そんな俺達のやり取りを聞いて、皆が爆笑する。


 うん、今日みたいな日にしみったれた雰囲気なんて、誰も得しない。

 どうせ、明日をも知れない命の冒険者稼業……次の戦いでは誰かが欠けるかも知れない……。


 冒険者は刹那に生きる……戦いの日々に、昔のこと、過去の記憶……そんなものは何の役にも立たない。

 思い出せないなら、忘れてしまえばいい。

 

 俺には、皆を生き残らせ続ける義務があるんだ。

 だから、もう気にしない……過去にとらわれていたら、きっと死ぬだけだ。

 

 俺は、そんな風に……思った。

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