第七話「オッサム、正気帰る」③
俺はトリデ・オッサム……A級クラン「黒銀X団」のリーダー。
言われなき、反逆者の汚名を着せられて、それでも半年間の追放刑を受け入れた潔さに定評のある紳士。
けど……このハルカちゃんとの記憶は?
テストプレイってなんだ、それ。
現実? ゲーム……?
そう言えば、リゼッタが言っていたな……制服着て学校通ってた。
ド・ムーの旦那なんて、花売ってたとか。
学校も花屋もこの世界には存在しない……。
俺は……寨・スカイ・インダストリアル社長?
飛行船運行会社のオーナー。
いや、ちょっと待て! それは何処の世界の話なんだ?
今、一瞬脳裏に浮かんだネクタイ締めて、パソコンの画面と向き合ってる記憶はなんだ?
俺は、冒険者であって、そもそもパソコンだの飛行船だの、そんなものはこの世界には存在しない!
だが、俺はそれらを普通に知っている。
この世界に存在しないはずのもの……概念の記憶。
と言うか……俺が現実だと認識してるこの世界は……なんなんだ?
「お、俺は今を生きてる……俺は、トリデ・オッサム。この世界がゲーム? はははっ、馬鹿言ってんじゃねぇよ……。とにかく、俺はここで半年間のお勤めを果たす。それまでは帰れないんだ……」
うん、俺が元の暮らしに戻るには、課せられた刑期を勤め上げる。
それこそが最善……女神様が俺に課した試練。
この試練を終えた時……俺は、堂々と元の生活に戻れるのだ。
実際問題、こんなザル警備、逃げようと思えば不可能じゃない。
今まで逃げるチャンスだって、いくらでもあったのに、逃げなかったのは、それが一番だったからだ。
けど、それ以前の問題……。
俺は何をやったってんだ?
俺は……ある時期から、この世界に疑問を持っていた。
現実の世界ってのは、こんなんじゃないと……そして、俺は皆にその考えを話して……。
リゼッタやド・ムーの旦那も違う世界の記憶の話をして……。
そうだ……そこから、色々とおかしくなっていったんだ。
「……まだ、そんな事言ってるんだ……。どのみち、向こうはやる気満々みたいなんだけどね……。」
ハルカちゃんが、遠くを指差す。
なんだか、赤くてデカいのが立ち上がろうとしていた。
全長20mはあろうかと言う巨大なドラゴン……。
「赤熱龍……。まぁ、こっちは私がターゲットなんだろうけどね。ここの連中も正体表したみたいね……もう四の五の言ってないで、覚悟決めるしか無いんじゃないの?」
収容所の瓦礫がガラガラと崩れると3mはあろうかと言う緑色の巨人が立ち上がるところだった。
そして、目の前のひよこちゃんハウスを覆い尽くしていた炎がみるみるうちに、鳥のような姿を象る。
「な、なんだありゃ……」
「「緑の巨人」と「鳳凰」……。こりゃまたエゲツないのが出てきたわね……。それともう一人……さっさと出てきなさいよ!」
ハルカちゃんが一喝すると、瓦礫の中から見慣れた頬のコケた陰気な奴が姿を見せる。
ジャギル所長……。
「オッサム……貴様、どう言うつもりだ? 女神様の祝福を拒絶するとは……なぜ、受け入れないのだ。貴様は我々の課した刑を受け入れ、順調に矯正も受け入れて……見どころがあると思っていたのに……。あくまで、我々に逆らうとは……何故だ? 貴様は何故、敢えてバグとなる道を選ぶのか?」
「ご、誤解だ……俺は逃げようなんて思ってない。話を……聞いてくれ!」
「オッサム……コイツら相手に、話し合いなんて通じるなんて思わないほうがいいよ」
「……S級敵性VR体……アマカゼ・ハルカ、抹消対象。……造反体トリデ・オッサム、貴様の抹消許可が降りた。速やかに抹消作業を執行の上で、凍結……再矯正措置を行う事が決定された」
ジャギル所長が、ボロをまとった骸骨のような姿に成り代わる。
A級モンスター……不死の怪物。
「リ、リッチーだと? それにこの巨人と鳳凰……ロジャーさんとバタムさん? 馬鹿な……お、俺はこんな怪物共とずっと一緒にいたってのか……」
「そう言うこと……いずれもA級モンスター。赤熱龍に至っては、軽くS級よねー。こりゃ二人じゃ厳しいよね」
「お前っ! なんで、そんな冷静なんだよ! つか、俺は装備も何もないから、こんなA級モンスターと戦うとか無理だぞ!」
そんな風に喚き散らしていると、アイテムカードを渡される。
「ほら、ご愛用の装備品……アンタ、いつまでグダグダ言ってるつもりなの? いい加減目を覚ましなさいっての!」
ロケットランサー、黒の翼、漆黒の鎧……俺の愛用の装備品の数々。
「これって……なんで俺の装備をお前が持ってるのさっ!」
「私がいつ、一人で来たって言ったのかな? イイお仲間達よね……すべてを捨てる覚悟で仲間のために地の果てまでって……ここまで慕われてるって、羨ましいくらいよ」
ハルカちゃんがそう言うと、鳳凰に巨大な氷の塊がぶつかり、続いて、何かが高速で激突する。
「一番槍っ! いっただきぃーっ!」
ツンツン頭の銀色の甲冑を纏った飛空騎士……トウシロウだった!
続いて、銃声が響き渡り、リッチーが突然ビクビクと悶えたと思ったら、盛大に爆発!
サブマシンガンを構えた黒装束が目の前に降り立つ。
「オッサムさん! 会いたかったです!」
振り返ると覆面をめくりながら、満面の笑みを浮かべ、抱きついてくるリゼッタ。
「お前っ! なんでここにっ! つか、後ろっ!」
緑の巨人が巨大な斧を振りかざしながら、こっちへと迫りくる。
「ここは、まかせろっ!」
2mはあろうかと言う巨人が軽やかに脇を駆け抜けると、緑の巨人の振り下ろした斧を巨大な大剣で受け止める。
「グレイブっ! お前までっ!」
「もう、皆せっかちさんなんだから……。元気だった? オッサム」
巨大なガトリングガンを構えたモヒカンの筋肉……ド・ムーの旦那。
「……だ、旦那まで!」
「言っとくけど、この人達は独自にアンタを救出すべく、こんな所まで遥々出張ってきたのよ。私は、たまたまこの人達と出会って、協力したってだけの話。ただ、こんなS級モンスターまで出て来るなんて……アンタ達も見積もり甘かったんじゃない?」
「そう言わないでよ。ごめんね……オッサム。アタシ達……一度はアタシらだけで、オッサムを取り返そうとしたんだけど、この化物共に阻まれちゃって……。でも、このハルカって子が手伝ってくれるって話になったから、お言葉に甘えちゃったの」
「馬鹿野郎……大人しくしてろってあれほど……」
「話はあとっ! 悪いけど、オッサム……この三匹は、みんなに任せて、私らで赤熱龍をやる! 覚悟は良い?」
「……覚悟も何も……なんだが……」
見渡すと、すでに各々が戦闘状態。
リザ先生とアレクサンドリアは、森の中で隠れ潜みつつ援護しているようだった。
鳳凰とトウシロウ。
緑の巨人とグレイブ、リッチーにはリゼッタとド・ムーの旦那が対応しているようだった。
赤熱龍も動き出してこっちへと向かってる……。
あれまでこっちに来たら、乱戦は必至……どうやら、俺がやるしかなさそうだった。
アイテムカードから、装備を具現化。
一瞬で黒い翼と、漆黒の鎧兜、同じく漆黒のランスが装備される。
漆黒の騎士オッサム……パーフェクトオッサムってとこだ。
「やれやれ……。結局、こうなるって訳か」
「……なんかもう、それって完全に悪役よね……コーホーとか言ってそう」
……自分でもそう思う。
トゲトゲしくって、真っ黒で……もう厨ニ臭しかしない。
然り、俺はこう言うのが大好きなのだっ!
「悪かったな! 俺の二つ名「黒き稲妻」が伊達じゃねぇって見せてやらァっ!」
もうやけくそだ!
職業設定変更……さらばウッドバスター! つうか、こんなクラスのなんの役にも立たねぇ。
何が「士魂2」だ……ただのボロ布じゃねーか。
俺、本来の「飛空騎士」にクラスチェンジ!
そうだ……俺はこうでなくちゃいけない……エキセントリック・スーパーガイ!
「この世に正義も愛もないと嘆くなかれっ! ないならば、なってみせようこの俺が! 愛と正義の名のもとに……滾れ! 漆黒の翼ッ! 超絶紳士、トリデ・オッサム……見参っ!」
考案俺な口上を述べながら、黒い翼に念を込めると、ふわりと浮かび上がり、そのまま100mほどの高さにまで舞い上がる。
……この自在に天空を駆ける感覚……これぞ「飛空騎士」!!




