第七話「オッサム、正気帰る」②
「ううっ! あ、頭が……なんだこれはっ!」
くそっ、この程度の頭痛が痛い程度で、このオッサムは負けぬのだ!
「ちょっと……大丈夫? あ、余り無理しない方が……」
「黙れっ! 俺に近づくな……舐めてんじゃねぇぞっ!」
とにかく、俺の超必殺「薪割りダイナミック」を受け止めるほどの見切り。
ただの雑魚じゃないのは明白。
俺もすかさず、そのウッドロリウーメンから距離を取る。
「……貴様、何者だ?」
油断なくDie木殺を構えながら、ジリジリと間合いを開ける。
……それに、コイツ。
武器のひとつも持ってないくせに、打ち込む隙がまるで無い……。
「はぁ……こりゃ話にならないか。なら、一発グーパンお見舞いしてやるわ! アタシに刃を向けた報いってことでどう?」
ゆらりと、半身になって脱力したようなポーズを見せるウッドウーメン!
ここから、何を仕掛けてくるつもりだ?
「……ほほぅ? 来るのか……ウッドウーメン? いや、ウッドロ……」
俺のセリフは最後まで放たれることはなかった。
刹那……ウッドロリが俺の目の前に移動したと思ったら、パチンなんて小気味いい音と共に一瞬で視界が逆さまになる!
「ホェエエエエエエッ?!」
天地逆転リバース状態で停止……そのまま、一人パイルドライバー状態で、地面に頭が突き刺さる。
「ぶばらぼっ!」
まさに目から火花……たった一撃で、致命的レベルのダメージを負ったことを自覚する。
「ごめーん! グーパンとか嘘言ってた! テヘペロっ!」
ブイサインを決めながら、チロッと舌を出しながら、ケラケラと笑うウッドロリ!
「ふんごぉおおおおっ! てめぇっ! よくもやりやがったな!」
頭から地面に刺さった状態から、両手を地面に着けると、そのままバク転して起き上がる。
だが、頭を強打した直後にバク転なんて無茶をしたせいで、もはや足元がグデグデ……。
視界もグラグラで訳が判らん……。
「て、てめぇ……何、しやがった……」
……俗に言うピヨリ状態の俺。
頭部への打撃系ダメージが蓄積し、一定数値をオーバーすることで発生する状態異常の一種だ。
星や光るひよこのエフェクトが周囲をグルグル回ることから、そう呼ばれているのだけど……。
いかん、ここでピヨってしまうなんて……このままでは、キメられてしまう!
「単なる足払いとビンタのタイミング揃えた感じ? ……じゃあ、いい感じでピヨってるみたいだから、トドメのジャンピングアッパー行ってみよう! 悪いけど、手加減なんてしないから」
そう言って、ウッドロリが飛び上がると、シュタッと目の前に着地、勢いのまましゃがんで腰の脇に両拳を構えて、貯め作って……。
「逝ってみようっ! グレイテスト・デス・アッパーカーットッ!」
ダブルグーパンからの、アッパーカーットが炸裂ッ!
「ふげらぁああああっ!」
ピヨリ状態だから見えているのに、避けられない……そのまま、顎に一発食らって、キリモミしながら、すっ飛んでいって、またしても頭から地面へダイブ! メメタァ……とか、とっても変な音がして、曲がっちゃいけない方向に首が回った。
HPがギューと減って、そのまま俺は光に還る。
即死だった……む、無念っ!
それから……。
リスポーンした俺は、色々思い出したのだった。
この理不尽な監獄に送り込まれるまでの顛末や、目の前で土下座してるロリ巨乳少女のことも。
「……ずいぶんなご挨拶だよな……ハルカちゃんよ」
憮然としつつ、座り込んで一言呟く。
「いや、なんかついノリで……」
「ノリで人を惨殺してんじゃねぇよ……。幸い残機いっぱいだから良かったけどよぉ……」
「そ、そうね……。気をつけのまま、地面に激突したもんで、頭が潰れたトマトみたいにエグいことになってたわよ! なんだっけ、あれ? なんとか落ち?」
「ふざけんな……てめぇ、やっていいことと悪いことくらいあるだろ!」
「ご、ごめんなさいって言ってるじゃない。そ、それにその分だと、洗脳も解除されたんだし……ね?」
……ああ、今の俺は、正気だった。
なんでも、洗脳解除するのにてっとり早い方法は、ぶっ殺して復活させること……なんだとか。
その復活プロセスに干渉して、リセットみたいにする……。
そんな裏技があるからって、バグり状態だった俺を迷わずぶっ殺したんだとか。
マジカヨ。
とは言え、なんだか良く判らんが。
ここに来てからの俺の行動を思い起こすと、もう訳が判らん。
なんで、そんなひよこ愛に目覚めてたんだか……。
それに、なんだよ……木狩りって……。
無限に生えてくる木を延々、切り倒してって……バカジャネーノ俺。
それに、冤罪の件だって、周り中が御膳立して逃がそうとしてるのに……。
思いっきり逆走してるし……俺。
潔くカッコよく……波風立てずにって……馬鹿じゃん。
いつからこんなになってたんだろう? 何処かの段階でジリジリと判断力が削られてた?
……目の前のコイツは、知ってる。
ハルカって子……セブンスターズのひとり。
うん、前にテストプレイでやりあって、俺が勝ったらデートしろとか言って、ホントに勝ってしまった。
別にロリコンじゃないんだが、勢いで……つい、そんな約束をして、向こうも断ればいいのに、ホントに一日恋人って事であちこち、連れ回させられる事になった。
でもまぁ、本人も割とノリノリだったし、俺自身もそんなに悪い気分じゃなかった。
つか、話しててガチでコイツ、中高校生くらいだと実感したから。
子供相手に本気の恋愛とか、俺だってそこまで飢えてない。
若い子と遊ぶってのは、俺みたいなオッサンにとっては、なんか若返ったみたいな感じで、悪くはなかったんだがね。
もっとも、あの時のハルカと決定的な相違点がひとつ。
……あんときは、もっと胸もぺったん控えめだったんだけど。
今は、たゆんたゆんな超ご立派、Eカップはあろうかと言うモノを身に着けてらっしゃる。
なんか知らんが育ったらしい。
「ど、何処見てんのよ……」
言いながら、胸ガード。
しかも、顔真っ赤……相変わらず、男慣れしてないと言うか……ウブな子ですこと。
「す、すまん……とにかく、君はハルカちゃん……だよな?」
「うんうん、私のことは、ちゃんと覚えてるみたいね。で、これ重要な質問なんだけど、この世界は現実? それともゲーム? すぐ答えて」
唐突な質問だった。
何を言ってんだ? コイツ。
こっちは、完全不定期更新でござるよ。




