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第五話「この狂った監獄へようこそ!」②

「オアチャーッ! 死ねぇええええいっ!」


 ……おぅ、クレイジー。

 

 狂気に満ちた笑顔で、腰の入ったフルスイングでまさかりをドカドカと打ち込む。

 けど、打ち込むところもてんでバラバラ。

 

「え? なにこれ……」


 やがて、乱雑に幹を半分くらいまで削られたヒノキはトドメの蹴りの一撃を浴びて、バキメキと無造作に倒れていった。

 なんか、俺の知ってる木こりと違うよ?

 

 木って、材木に使うから、傷とかも最小限にすべきなのに、もうボロッボロ!


 止めとばかりにまっすぐ打ち込まれた斧の一撃で、幹も真っ二つ!!

 ……ああ、勿体ない……こんなにしちゃって、どうするんだよ。

 

「くっくっく……やっと! やっと……くたばりよった! いいな? 貴様のノルマはこれを一日10本……確実に殺る事だ。もう片っ端から斬っていい! 奴らは日々、人の世に侵食すべく増え続ける害虫のようなものだ……確実に殺さねばならんのだ! 殺せっ! 殺せっ! 殺せーっ!」


 うわぁ……ドン引きだ。

 

 けど、ここ……まるっきり手付かずみたいで、切り株すら見当たらない。

 一日10本なんて切ってたら、どんどん切り株だらけになると思うんだがなぁ……。

 

 山に木を切りに行ったときも、無闇に切るなとか言われたくらいだったのに……。

 どんどんやっちゃえって……自然破壊は計画的に……だろ。

 

「は、はぁ……仕事はこれって事っすね。あの……食事とか寝る場所は……」


「あ? あそこに建物があるだろう? あそこが矯正者の宿泊施設だ。まぁ、飯は食堂にあるものを適当に食え。ノルマが終わったら好きに過ごせばいい。風呂も寝床も好きなように使え」


 思ったより、フリーダムな感じ。

 強制収容所みたいな所だと思ってたけど、そうでもないのか。

 

 ただ、他にも収容されてる奴もいるだろうし……。

 こう言う所だと牢名主みたいなのが居たりするって話だから、ちゃんと挨拶とかしないとなぁ……。

 

「そういや、雨降ったらどうなるんですか? さすがに、こんな北方のくっそ寒い中、雨に打たれながらとか、命に関わると思うんですが」


「まぁ、雨が降ったら仕事にならんからな。そんな時は、マダムバタムのとこでひよこの選別でもやってろ」


 ああ、あれか……オスメスの選別って奴か。

 鶏はメスは卵生むけど、オスはさしたる役にも立たないからなぁ……。

 

 縁日で色つけられて売られたり、そこそこ育てて、チキンにするとか……切ない話だわな。


「はぁ……大体解りました。次はどこへ?」


「案内はこれで終わりだ……。他に何か必要なのか? だから、ジャギルの所に連れて行く。それで俺の仕事は完了だ。……くっくっく、終わったら、このクソッタレなウッド共を切り捨てまくって、バキバキに解体してやる……。ああ、楽しみでならない」


 おいおい……案内終わりって、狂った木こりのカーニバルを見せてもらっただけなんだが……。

 いずれにせよ……あんま、関わらないほうが良さそうだった。

 

 もう何も言わずに、ロジャー氏の後を付いていくと、一際大きい建物に着く。

 

「ここの二階がジャギルの執務室だ。後は勝手に行け……じゃあな」


 それだけ告げると、さっさとどっかに行ってしまう。

 適当だなぁ……。

 

 まぁ、言われたように建物に入ると、二階へ向かう。

 大きめの扉があるので、ノックして入る。

 

「……トリデ=オッサム……出頭いたしました」

 

「……来たか。まぁ、見ての通りの詰まらん所だ……。冒険者とやらをやっていたそうだが、ここらは流星共も興味ないようでな。たまに熊や猪が出るとかそんなものだ」


 何やら、大量の書類に埋もれたようになっているジャギル氏。

 こちらを見ようともせずに、書類へのサインのついで、みたいな調子で話をしてる。

 

「はぁ、収容所みたいな所だと思っていたんですが……意外と、そうでもないんですね。と言うか人が全然居ないようなのですが……ロジャーさんとマダムバタム以外の方っているのですか? 他の収容者とかも……」


「本来、こんな場所、誰も収監されないのが理想、誰も居ないのであれば、それはそれで結構な事だろう。そもそも、見張りや衛兵がいる訳ではないからな。ここは収容所でも牢獄でもない、あくまで矯正施設なのだ。先程は、逃げるなと言っておいて、こう言うのもなんだが……。逃げ出したくなったら逃げても一向に構わん。ただ周辺100kmくらいは何もないからな……遭難して凍死するのが関の山だ。別に止めはしないし、逃げても追手も出さん。むしろ、手間が省けるというものだ」


 ……自然の牢獄ってところか。

 まぁ、確かに辺り一面の雪原と森しかないんじゃあなぁ……。


 ここまで来るのも無限軌道車で丸二日……帝都まで軽く500kmはあると見ていた。

 東京大阪間……なんて謎の地名が頭に浮かんだけど、どこの国だっつの!


 実際、最後に補給と休憩に立ち寄ってた一番近くの村まで多分100kmはある……歩きだと雪の中を軽く10日はかけて、行くことになるだろう。


 まぁ、脱獄は無理だな……車両でもあれば話は別だろうけど、極寒の中、歩き……それも10日となると、多分持たないだろう。

 道だって、まともな道もなかったみたいだしな……遭難待ったなし!

 

 ……そもそも、それは初めから選択肢には入ってない。


「俺も死にたくはないですし、大人しく刑期を勤め上げるつもりですよ……。けど、何をどう矯正するつもりなので? 俺は別に反逆の意思なんてないですし……」


「ここで、生活する事が君の歪んだ思想を正すことに繋がるのだよ。まぁ、言ってもわからんと思うがね。今日は初日だからな……奉仕活動はしなくてもいい。ただ一つだけ、これは肝に銘じておくといい」


「はぁ……なんでしょう」


 そう返事をすると、やっとジャギル氏は顔を上げて、俺の目をじっと見つめる。


「……女神アイリス様は、いつも君を見ている……。アイリス様に恥じぬよう規律を守って、この世界の住民としての正しき思想を得るのだ……余計なことは考えずに、ただ無心に日々を過ごしたまえ。私からは以上だ。退出してよろしい」


「……はぁ、解りました」


 もう、何がなんだかって感じじゃあるんだけど。

 回れ右でさっさと言われたように退出する。

 

 やれやれ……おかしな事になってきたなぁ……。

 監視役とか言ってたけど……ロジャーさんも、バタムさんもまともな人間に見えない。

 

 他に人がいるような気配もない……なんなんだ、ここは?


 ……正直、不安しか無い。

 こんな地の果てで、何が出来るんだか。

 

 かくして、俺の矯正施設での生活が始まったのだった。

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