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第五話「この狂った監獄へようこそ!」①

 あれから、三日後。

 

 延々、無限軌道の護送車に揺られること丸二日。

 北の大地の矯正施設とやらに、俺は送り込まれていた。

 

 まぁ、見送りに来た連中と、すったもんだ色々あったりしましたがね。

 

 リゼッタとか、リゼッタがピーピー泣き出して、ガキンチョ共が連鎖してーのとか。

 メンバー連中はどいつもこいつも、号泣しながらの送り出しになった。

 

 まぁ、今生の別れでもあるまいし……大げさな話じゃある。

 

 護送中の待遇は悪くなかった。

 治安維持局の連中も、俺が敢えて逃げずに刑に服したと言う事は、解っていたようで、終始すまなさそうに、何かと気遣ってもくれた。

 

 本来、馬車を乗り継いで、一ヶ月近くの長旅になるそうなのだけど。

 降下した「流星」の奴らが乗り捨てていって、鹵獲パクったと思わしき、無限軌道車両なんてのを使っての護送になった。

 

 帝国軍にも何台もないような貴重な車両なんだが……。

 女帝陛下のお気遣いとかそんななのかも知れない。

 

「じゃあな……お勤めが終わったら、またこいつで迎えに来てやるから、達者でやれよ」


「ああ、色々とありがとうよ。いい車だったよ」


「だろ? 流星の奴らが置いてったのをパクって、修理したんだが、便利すぎて馬車なんか乗ってられないぜ」


「そうだよなぁ……量産とか出来ないもんかね」


「元流星の機械化兵とかが、手作りで何台か作ってるらしいんだが……オリジナルのコイツには、及ばないって話だな」


「そんなんがあるんだ……帰ったら、俺も相談してみるかな」


「はっはっは、そりゃいいな……。まぁ、俺達がこう言うのも何だが……。訳の解らん罪状で、こんな訳の解らんところへ送り込まれるとか同情を禁じ得ない……。大人しく半年間お勤めを果たせば、それで釈放だからな。じゃあ、それまで元気でなっ!」


「ああ、そちらもお元気でっ!」


 ……丸々2日、ずっと一緒に、寝食を共にした警護官達と別れを告げると、帝国の紋章を掲げた無限軌道車両がゆっくりと遠ざかっていった。

 

 代わりに、出迎えてくれているのは、頬のコケた痩せぎすの男と、バンダナに緑色のベスト、腰に手斧をぶら下げて、背中にデカい斧を背負った木こりって感じのおっさん。

 

 後は、ニコニコ顔のでっぷりとしたおばちゃん。

 

 なんだかよく判らんが、この三人がここの代表者っぽい。

 とりあえず、振り返るとペコリと頭を下げて、挨拶でも……。

 

「どうも、本日からこの矯正施設でお世話になるトリデ=オッサムです。宜しくおねがいします」


 ……しーんと反応なし、あれー?

 とりあえず、身体を起こして三人をぐるりと見渡す。

 

「あらあら、ごめんなさいね。ボーとしちゃって、あたしはバタムって言うの。マダムバタムって呼んでね。ひよこちゃん達の鑑定士なの。それと、食堂で皆さんのお食事を作る係を兼任してるのよ。おほほほほ……」


 ひよこちゃんの鑑定士って……なに、その職業。


 つか、このおばちゃん、何処見て話ししてるの?

 目線が俺に向いてないのに、俺に向かって話しかけてるような感じで……なんか、怖い。

 

「おうっ! 俺はロジャー、木こりのロジャーだ! 木を切り続けて、40年……難しいことは何もなかった。なに? 木こりの仕事? そんなもんはただ目の前にある木を切ってぶち殺すだけだ……簡単な仕事だ! 奴らはほっとくと際限なく増え続けるからな……片っ端から切り倒さんと、この世界が木で埋め尽くされちまう!」


 ……いきなり話し出したし、このおっさんも目線が宙を彷徨ってて……何なの?

 おまけに、このおっさん……聞いても居ないのに、なんか一人でぶつくさ喋ってる。


「えっと? 木こりなんですか?」


「おうっ! 俺はロジャー、木こりのロジャーだ! 木を切り続けて、40年……」


 なんか、ループしてない? この人。

 そもそも、ぶち殺すって……木こりってそんな職業だっけ?

 

 もう一人の痩せぎすのはなんか、こっちをじっと見てるんだけど口を開く様子もない。

 

「ああ、うん! マダムバタムに、ロジャー氏ね! とにかく、よろしくよろしく! えっと、そこのお方は自己紹介はナシなんですかい? 名前も知らないんじゃ、俺もやりにくくってしょうがない。……勝手なアダ名とか付けて、呼んじゃったりしますよ?」


 どっちも話にならないと判断。

 とりあえず、最後の希望とばかりに陰気臭いおっさんに話しかけてみる。


 この人もこのロジャーさんみたいに、ループ会話し出したらどうしよう……。

 マジで、俺帰るわ……ホントに。


「……私の名は、ジャギルだ。この施設の監視役と言った所だな。くれぐれもここから、逃げようなどと考えてはいけない。いいな? ロジャー、システムコマンド……彼にこの施設の案内を……終わったら、私の執務室まで連れてくるように」


 表情を全く変えずに淡々とそれだけ言うと、さっさと振り返って、何処かへと歩いていってしまう。

 ……陰気臭くて、ヤな奴臭が凄いな。

 

 まぁ、ちゃんと人の目を見て話すだけまだ、普通の人って感じはする。

 

「サーイエッサー! システムコマンド受領……わりぃな……やっとコマンドが出たよ。施設の案内なら、この俺に任せな!」


 なんか、壊れたテープレコーダー状態だったロジャーさん。

 急に生き生きとして、親指立てて、片目をつぶってニコリと笑う。

 あ、なんか正気に返った……と言うか、普通になった……なんだったの? 今のは。


 バタムおばさんは、ニコニコ笑顔モードのまま。

 なんか、晩御飯の好みとか聞いてるっぽいけど、誰も居ない方へ向かって、独り言みたいに話ししてる。


 ……ここ、まともな奴いないんじゃ……。

 

 デニムさんが、相当ヤバい施設だからって散々言ってたんだけど……。

 収監された奴が正気を失って廃人同然の状態で帰ってきたとか、そんな話もあるらしい……。


 なんとなく、理由が解ってきたような……。

 いや、まだだ! そんなあっさり心が折れてるようじゃ、話にならん。

 

 俺は……強く、半年間を耐えしのぐのだ!



「オッサムくん! 見ろ……この雪原と切れと言わんばかりの森の木々を! お前は明日からこのクソッタレを刈り尽くすべく闘いを挑むのだ! ま、ま、ま……まずはぁ……俺が見本をみせてやろう! フシュルルルルゥ……」


 ロジャーさん、てっきり建物とか、設備とか説明してくれると思ったのに、なんか外れの方の森に連れて行かれた。

 

 いきなりまさかり担いで、その辺に生えてたヒノキの木にカツーンカツーンと斧を叩き込む。

 

 木を切り倒す……と言っても、良くイメージされてるように、ひたすら同じ方向からガッツン、ガッツン斧を叩き込む……そんな事をやってると、自分に向かって倒れてきてとっても危ない……つか、死にます。

 

 だからこそ、ちゃんとしたやり方ってのがあるんだ。

 

 まずは、安全に木を引き倒すためのロープを出来るだけ上の方で、かつ引っ張っても折れないくらい太い場所に引っ掛ける。

 

 次に、木を倒す側に、大きく斜めとまっすぐに切り込み……受け口を作る。

 斜面とかだったら、上の方へ向けて受け口を作るのがセオリーだ。


 何故か? 上の方へ向かって倒れる方がゆっくりだし、下の方へ向かってしまうとすべって来て、丸太に轢かれる可能性があって危ないから。

 

 そこまでやったら反対側に追い口として、出来るだけまっすぐに、ノコギリとかで切り口を深く入れて、最後に出来上がった隙間に楔を打ち込んでいく。


 この時、追い口と受け口を繋げちゃいけない……そんな事やったらいきなりバッタリ行って、とっても危ない。

 

 皮一枚で繋がってるような状態にしておいてから、最後にロープを引っ張って倒す……まぁ、こんな感じで切る。

 これが安全性なんかも考慮した、ちゃんとした伐採の手順でもある。

 

 もちろん、細い木はもうちょっと簡略化するんだけどな。

 

 実は、クランハウスの増築の資材集めに、山に木を切りに行った時に、グレイブに教えてもらったのだ。

 ちなみに、奴は林業ってのをやってたらしい……その手際は、そりゃもうお見事なもんだった。

 

 でも、木の中に居たカミキリムシの幼虫食わされる羽目になったのは、ドン引きしたけどな。

 もっとも、そのお味は……トロですトロっ! 刺し身なんて何年も食べてないけど、まさにトロ!

 

 林業の楽しみのひとつって言ってたけど、それなりに納得だった。

 このロジャーっておっさんは、本業の木こりらしいからな……お手並み拝見……。

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