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第一話「日常とよぶには、あまりにホットな毎日」②

 何の前触れもなく衛星軌道上から、地上へ打ち込まれるダンジョンの元となる環境改質モジュール……奴らが「流星シューティングスター」と呼ばれる所以でもある。


 それは地上に落ちると、あっという間に地下に根を張り、地下迷宮のような地下構造物を構成すると共に、内部にある種の生物兵器……異形のモンスターを生み出し始める。

 

 ほっておくと、付近の環境も侵食され、緑は枯れ果て、川も消え、不毛な大地へと変貌していき、やがて、異形の植物が茂りだし……その内部に巣食うモンスター共も外にあふれ出すようになる。

 

 そうならない為に、流星が堕ち、ダンジョンの発生が確認されると、俺達冒険者が出向いて行って、ダンジョンを徹底的に破壊する。


 地上に落ちて来たばかりの低ランクのダンジョンなら、数人の低レベル冒険者パーティや帝国の騎士団でも対応できるのだけど……。

 ダンジョンの発見が遅れたり、急成長型と呼ばれるランクアップが早いダンジョンだと、俺達のような上級クランに動員がかかる。

 

 ダンジョンに挑む際に限らず、冒険者はパーティを組むのが常なのだけど……それには6人までという制約が付きまとう。

 

 何故か? それ以上の人数でパーティを組むと、女神アイリス様の加護が受けられなくなるからだ。


 女神の加護があるからこそ、俺達は「流星」の機械化兵やモンスター共と互角以上に戦える人外の力を与えられているし、その恩恵は不慮の死すら回避することが出来る。

 

 だからこそ、冒険者はその許される最大限の6人単位でパーティを組む……それが常識。


 ダンジョンの攻略は、複数パーティでも入れる上に、無限に生成される巡回ワンダリングモンスターとの戦いは複数パーティーで対する事も出来るのだけど……。


 要所要所のルームで、待ち構えているガーディアンモンスターは、話は別。


 その手のルームは一組のパーティが入ると、出入り口がすべて結界に閉ざされて、外からは入れないし、中からも基本的に出られなくなる。


 モンスター共を倒しきるか、冒険者パーティが全滅するか……二つに一つだ。


 まぁ、と言ってもやはり女神の奇跡のひとつ。

 緊急脱出ベイルアウターを使えば、事前登録しておいたダンジョンの外の野営地などの安全地帯へ転送されるので、勝てそうに無かったり、残機切れで危うくなったらそれで逃げるのも手だ。


 今回の俺達みたいに、残機切れ続出の状態で、無茶をするってのは、本来は避けるべきなんだよな。


 その辺は引き際を見誤った俺の責任ではあるのだけど、ダンジョン攻略も時間制限がある。


 ダンジョンって奴は、一定時間を過ぎるとレベルアップして、規模が一回り広くなって、各フロアのガーディアンモンスターやボスも強化される。

 

 おまけに、何もかもがリセットされるので、そうなったら、もう手に負えなくなる。


 今回のこのケイブワイバーンのダンジョンは、急成長型……それも最初の時点で20ランクだったのに、ボス攻略時点でランク30まで成長していたのだ。

 

 それまでの状況から、次のランクアップまで、一時間も猶予が無いと見ていた……。

 だからこそ、あの場でぎりぎり限界まで粘る必要があったのだ。

 

 もし、あそこで撤退してたら、ランク30の時点で、俺達一軍の総力を挙げて、あそこまで苦戦したんだ……再挑戦でレベルアップしたケイブワイバーンに勝てる見込みは薄かっただろう。


 だが、俺達ですら、潰せないとなると……割とガチで後がない。

 それこそ、A級クランの総動員で、帝国の精鋭をかき集めての総力戦を挑むほかなかったかもしれない。


 とにかく、少なからずギャンブルだったものの、俺達は勝った! 賭けには勝ったのだ!

 

 後ろを振り返って、片手を上げると、今頃になって皆、勝利を実感したようで、歓声と雄たけびが沸き起こって、皆こっちへ駆け出してくるっ!

 

 一時間にも及ぶ激戦……皆の疲労も限界を超えていて、回復アイテムの類も底をつきかけて、前衛もほぼ全滅、もはや撤退やむ無しと言える状況だったのだけど、そのくらいの元気は残っているらしい。

 

 重砲機兵のド・ムー先生も主兵装のガトリングガンの弾が尽きて、滅多に使わない大口径ハンドガンで頑張ってたような有様で、アレキサンドラ嬢ももう魔力切れで、ばったりと力尽きたようにゴロリと横になってる……。

 その素敵なお御足が剥き出しで、とっても艶かしいのだけど、気にする余裕もないみたいだった。

 

 俺は……と言うと、最後の武器だったロケットランスはケイブワイバーンをぶち抜いた勢い余って、壁に刺さって変な形にひん曲がっている……。

 

 兜も鎧も大破……まぁ、身代わりになってくれたようなもんか。

 

 おまけに残機もなし……事実上の戦闘不能者も俺を含めて三人も出ている。


「女神の奇跡」……通称「残機」なんて呼ばれてるこの宝石の輝きがある限り、俺達女神アイリスの加護を受けた冒険者は決して死なないのだけど。


 その与えられた奇跡の石も、すでにその輝きを失い……ただの石ころ同然。

 今の加護を失った状態で死ぬと……完全なる死が訪れるという話なのだけど。


 さすがに、それを試す勇気のあるやつは居ない……。

 俺も残機が無くなった時点で、よほど逃げるべきだと思ったのだけど。

 

 前衛の相方、トウシロウがやられて、後衛を守る壁となってケイブワイバーンの猛攻を一手に引き受けるグレイブの姿を見たら、保身とかそんな考えは何処かに消えちまった。

 

 イチかバチかで、横合いから捨て身のランスチャージをブチかまして……それが勝利の決定打になった。

 やべぇ、俺カッコいいっ!

 

「さっすが、オッサムよね! でも、残機無しで捨て身の特攻とか無茶しすぎーっ! すぐ治すから、じっとしてて!」


 治癒術士のリザ先生が駆け寄ってきて、治癒術の詠唱を始める。


  手足を失うのだって、直後はそれなりに痛いのだけど、痛みなんてすぐに収まるし、出血状態くらいなら、応急治癒ファーストエイドくらいは俺も使えるから、自力で何とかできる。

 

「深き傷を負いし、この者を……あるべき姿に戻せ! 回帰蘇生リザレクションッ!」


 リザ先生の最上級治癒魔術……回帰蘇生。

 どんな重傷でも無かったことに出来るスゴ魔術……リザ先生の話だと、心臓が動いていれば、半分になってても蘇生できるとか、そんな話をしてた。

 

 光の粒子が集まっていって、腕の形を象り始める……まぁ、治癒術なんて便利なものがあるから、片手を失ったくらいなら、何てことはない……。


 さすが、最上級治癒魔術……見る間に自分の腕が再生されていく。

 

 ――何度も見た光景。

 最上級治癒術士のリザ先生がいれば、この程度の怪我、大した事ないって解ってるんだけど、自分の腕がちぎれ飛んだ瞬間の、あの取り返しがつかないことになったと言う絶望感。

 

 ……あれは何度経験しても慣れない。

 

 ボスルームの外で待機していた支援パーティのメンバーが、続々とボス部屋の中に入ってきて、隅っこで壁にめり込んでたトウシロウや、その場で踏ん張ったまま、立ったまま力尽きて気絶しているグレイブを助け起こして治癒魔術や、応急処置を施していく。

 

 こいつらも揃いも揃って、限界まで頑張って、力尽きた……多分、残機も残っちゃいないだろう……。


 お互い無茶してやがるよな……つか、ギリギリ過ぎるだろう。

 戦力の見積もりが甘かったか? 相手が変異種で再生持ちと言うのが計算外だった。


 回復アイテムや予備の武器や支援アイテムも何もかもが足りなかった……。

 本来なら、軽く負け戦だったのは間違い無い。


 やはり、他所のクランがやってるみたいに捨て駒パーティーを突っ込ませて、戦力評価の上で挑むべきだったか。


 でも、あんな仲間を捨て駒にするような危なっかしいやり方……俺は好きになれない。

 引き際を誤ったら、俺達冒険者だって、死ぬ時は死ぬ……。


「リザ先生……あいつらの方を先に治してやってくれよ。俺なんて軽傷だろ」


 グレイブとかよく見りゃ身体中、穴だらけだし、トウシロウだって手足が変な方向に曲がってる……粒子化しないから生きてるのは解るけど、瀕死状態だとしたら、もう時間の問題だ……。


「バカッ! 残機ゼロで片手もがれてって、十分重傷じゃない! ホント、いっつもいっつも無茶ばっかり! 良いからそこに座りなさいっ! もうすぐ終わるから」


 リザ先生……ちょっと涙目。

 さすがにちょっと悪い事したかな……って思う。


 リザ先生は、誰にでも優しい……元々はソロで下位冒険者のお助けとか、下位クランの助っ人とかを専門にしてたんだけど。


 向こう見ずの冒険者の無茶なダンジョンアタックに付き合わされて、孤軍奮闘してたところを助太刀して、それをきっかけに付き合いが出来て……今では、すっかりうちの主力メンバーの一人。


 一言で言えば、愛の人……博愛主義者って奴だね。

 暇な日には街中でボランティア活動してたり、貧しい人達に炊き出しやったり、まぁ、俺達も当然付き合わされたりするんだがね。


 まぁ、無茶やった反省の意と、リザ先生への日頃の感謝を込めて……正座待機。


「……はいはい、センセー。解りましたよ。大人しくしてるよ……いや、むしろありがたき幸せっ!」


 パーティーの守護女神……リザ先生に逆らっちゃ長生きなんて出来ない。

 けど、座り込んだらどっと疲れが出てきた。

 

 アレキサンドラ嬢みたいに、冷たい床の上にバッタリと横たわったら、さぞ気持ち良さそうだけど、リザ先生の治療の邪魔しちゃ悪いから、それは耐え凌ぐ。

 

 何より、リーダーがあんな風に倒れてちゃ、かっこ悪いからな。

 

「はぁ……世話が焼ける人ね。ちょっと位なら、甘えたっていいのよ? ほらっ!」

 

 リザ先生が俺を背中から、ギュッと抱きしめてくれる。

 う、うん……この首筋に触れるヤワヤワ感と、あまーいようなイイ匂い……違う意味で癒やされるなっ!

 

「わりい……実は限界。ちょっと寝ていい?」


「うん、そうしなさい……幸い担いで行ってくれる仲間達なんていくらでもいるでしょ……私も膝貸してあげるから」


 言いながら、リザ先生も正座すると、自分の太ももをパンパンと叩く。

 限界なのは事実だったので、遠慮なく横になると、その太ももに頬を乗せる……いや、マジでいいわ……これ。


 リザ先生に膝枕で抱かれながら、一時の微睡み……かくして、俺達の戦いは終わったのだった。

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