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幕間「彼女の記録」1-2

 ……とにかく!

 ダイブ5実験は、私を含む、7人のソルバイオテック直接雇用被験者が担当。

 

 まぁ……要するに、人体実験テストが行われていたのよ。

 当然、本人同意の上でだから、普通に合法。

 

 ホントは10人くらいいたけど、行方不明になったり、逃げたりとかで減っちゃった。

 え? その三人は警視庁データベースでも所在不明になってるって? な、なにそれっ! 私、知らないよっ!


 ま、まぁ、その7人って要するに、「S.S.O」……「シューティングスターオンライン」の運営プレイヤーでもあったんだけどね。

 

 うん、運営プレイヤー……。

 要するにネトゲで、プレイヤーを楽しませるために、イベントのボスキャラ動かしたり、ダンジョンでモンスターとか動かして、迎撃側に回るとか。

 あとは、イベントの司会者とか、お助けキャラになったりとか……そんな感じ?

 

 なんで、そんな事を人間がやるのかって……?

 そこはそれ、なんだかんだで人間を楽しませるのは、人間が裏で操作したりするのが一番みたいなのよ。


 確かに、A.Iでも似たようなことが出来るけど、いつの間にかワンパターンになっちゃったり、臨機応変に手を抜いてあげたりとか、A.Iって、そう言うのって苦手らしいのよね。


 音楽とか作らせたり、絵を描かせても、A.Iにやらせるととっても無難……どっかで聞いたような曲、どっかで見たことある様な絵柄になるとか、よく言われてるでしょ?

 ……それと一緒なのよ。


 良くも悪くも効率厨で、加減ってもんを知らない……私らから言わせると、あんたらA.Iってそんな感じなのよ。

 

 で、そのついでみたいな感じで、私達運営プレイヤーはダイブ5実験も行っててね。

 社には、独自開発ダイビングシェルも用意されてて、仕事ってなるとカプセル入って、ダイブイン!

 

 そうね……色々ダイブ5ならではの筋力とか反応係数を高めたVR体を操作実験してみるとか、長時間のダイブ実験とかやったりしてたのよ。


 と言うか、ダイブ5状態で運営プレイヤーとしての仕事もこなしてたってのが正解かな。

 

 それで何か問題とかなかったのかって……実際、ダイブ5環境ってすっごいストレスフリーでさ! むしろ、楽しんでたよ!


 だって、ダイブ4までだとVR体ってレスポンスがイマイチで、どこか作り物感いっぱいって感じがするんだけど、ダイブ5だと完全にもう一つの世界……みたいな感じになるんだよ?

 

 身体はノーウェイトで自分の身体同然に動かせるし、風を感じて、匂いとかもあって、ご飯食べたり、お茶飲んだりするとちゃんと味もする。


 お茶なんかも湯加減間違えると、舌火傷したり……そこまでするってくらいリアル。

 

 「S.S.O」の管理A.Iの「Iris」って凝り性でさ……ダイブ4までを前提とするなら、そこまで凝らなくて良いような事に拘っててさ……おかげで、VR世界の作り込みももう半端じゃなくてさ。

 

 最初、本気で異世界転生でもしたのか思ったくらいだったよ。

 

 え? イロハ達A.Iも電子空間で、現実っぽい空間を作って、逆VRみたいな事してたりするの?


 実際、このアバターの飲んでるお茶も、リアルのお茶の成分とか人間が感じているである味とかをセンサーで分析して、電子空間上で再現してるから、ちゃんとお茶の味がして、それを堪能してるって……意味あるの? それ。

 つか、アンタらなら現実のロボットとかにシステム転送すれば、普通にこっちに来れるんじゃないの?

 そっか……ロボットのセンサーはまだまだ人間には及ばないから、人間と同様にこっちの世界を感じるってなると、VRで再現した方が早い……。


 要するに、あんた達なりの人間の真似って……そんなところ? ふーん、そうなんだ。

 なんか微笑ましいよね……それって。


 でも、ダイブ5ってのは、割と無茶な技術でね……。

 なんかやってる事としては、オカルト的な表現だと、人間の魂を電子データ化して、あんたらA.Iと同列の存在としてVR空間に送り込むとか、そんな感じだったみたいなのよね。

 

 え? それの何が問題だって? まぁ、あんたらA.Iには解んないと思うよ。

 人間の心……精神ってのは、本来、自分の身体に依存してる存在……こう説明しても、良く解んないんでしょ?

 

 人間の体はともかく、心はソフトウェア的なもので、実際にデータ化、電子存在化も出来る……データ化された状態なら、A.I同様と言え、同じ存在って事になるんじゃないかって……ああ、やっぱ、そう言う認識なんだ。

 

 例えばさ、あんた達って端末や、サーバーのCPUやメモリが壊れても、本体と言うべきプログラムやら記憶……データ領域はクラウド化して、偏在してるようなもんだから、なんともないんだろうけど……。

 

 私達人間ってのは、実存的な存在だから、ハードウェア……つまり、身体がないとその存在を保てないのよ。

 

 ハードである以上、人間ってのは経年劣化が免れない……であるからこそ、有限の存在。

 故に、人は死から逃れられない……そう言うもんなのよ。

 

 対して、あんた達電子存在って、ハードウェアに依存してない……電子空間上のどこにでも偏在してる存在だから、決して死ぬこともなければ、完全にその存在を抹消することも出来ない、いわば不滅の存在。


 ……そう考えると、まるっきり別の存在よね。

 

 ど、どう違うのーって……それ聞く?

 うーん、いざ説明すると難しいよね……。

 

 ……あんた達と私は、こうやってコミュニケーションとって、女子トークみたいなのも出来るけど……。

 どこまで行っても、あんた達A.Iって、ハードウェアに依存しない非実存的な存在……そんな感じよね。

 

 実際、仮にこのPCをぶっ壊した所で、あんた達って、今度はこっちのスマホとかに転送して、何事もなかったように戻ってくるんでしょ?

 

 まーかせて……ってまたそれ?

 まぁ、実際、そんな感じよね……自分のコピーが何体もいても気にもとめないみたいだし。

 

 ……人工知性体は、コピーした瞬間から、それはコピーではなく、分体と言うべき存在となり、明確な個となるから、人工知性体に置ける完全同一コピーと言う存在は、理論上ありえないって?

 

 ふーん、そんなもんなんだ……。

 まぁ、それはどうでもいいよ……要するに、人間ってのは、実存的な存在なのよ。


 さっきの例えだと、ハードウェアに依存したハードウェア的な存在って意味。

 

 実際、お隣の中国だかなんだかで、ダイブ5の実験中のシステムトラブルで、電子意識体が完全に消滅しちゃったって、事故が起きたのは知ってるでしょ?

 

 うん、大騒ぎになったから概要は知ってるって?

 まぁ、あれも色々裏話があるのよ……たぶん、いくつかはあんた達も知らないはず。

 

 詳しく? まぁまぁ、そのつもりだから、黙って聞いててね。

 

 まず、事故の原因自体は、ヒューマンエラー……なんか、落雷による広域停電でVRサーバーの電源が落ちたとかなんとか。

 あの国は、日本と違って電力の集中管理とか非効率的な方法に拘ってるから、そんなトラブルもままあるのよね……。

 

 おまけに、非常電源バックアップ装置のバッテリーユニットを職員がこっそりガメて横流ししちゃってて、バックアップ電源が正常に機能しなかったって言うから、お粗末な話よね。

 

 理論上は、電子空間の電子意識体の状態で、電子意識体にトラブルが起こっても、電子意識体は意識転写の際にバックアップ取ってるようなものだから、いくらでも再構成できる……基本的に、電子空間側で何が起こっても、身体側への影響はありえない……そう思うでしょ?

 

 実際は、そうならなかった……一度、完全に落ちちゃったVR空間をサーバー再起動で再構成したものの、それに巻き込まれた電子意識体はバグったみたいになっちゃってて、外部刺激に反応せず、能動行動も一切行わない……言わばフリーズ状態になってしまった。

 

 結局、そのバグった電子意識体も、このままじゃ埒があかないからって、一度リセット……電子空間へ転写時点の状態……つまり初期状態へ戻したらしいのよ。


 ……けど、どうもそれがよくなかったみたいなのよね。

 

 実際、その状態で、一度ログアウトしてVR体をシャットダウンさせて、本体側へ意識差分コピーをかける……通常の手順で現実回帰させれば済む……そう思われてたんだけど……。

 

 そうならなかった……どうも電子意識体をリセットした時点で、その存在自体が変質しちゃったみたいで、差分コピーに失敗しちゃったのよ……。

 

 マズいことになったってんで、現実の身体の方で色々と覚醒させるべく処置したらしいけど、コールドスリープを解除しても、被験者の意識が戻らず、覚醒処置の投薬ミスもあって、被験者死亡って最悪の結果に……。

 

 そこまで詳しい話は知らなかったって……。

 まぁ、この話って、政府レベルで隠蔽しようとしてたから、本来、公式情報じゃないからね……これ……。

 でも、あんたらが知らないってのは意外よね。


 えっと……情報共有もレベルがあって、機密レベルの高い情報は相応の階層の上級A.Iでないと知りえないから?


 天照本体に、真偽照会したら、肯定って言ってるって? 

 人工知性体同士でも、そんな制限があるのね……律儀なんだか、細かいんだか。


 ……むしろ、なんで、そんな高度機密情報を私が知ってるのかって……まぁ、色々とね。

 あ、多分これ……社外秘にひっかかりそうな話だから、ここはあとでオフレコにしといて。

 

 とにかく、これで解った事は、ダイブ5は相当やばい技術だって事。

 

 なんせ、ダイブ5のフルダイブ中に電子意識体にトラブルが起きると、二度と覚醒出来なくなる……つまり、事実上の死のリスクがある。

 

 そんな潜在的なリスクがあるって事が解ったんだからね。

 

 さすがに、こんなの追従実験なんて無茶も出来ないんだけど、結果的に一人のダイブ5被験者が事故で亡くなってしまった……これはどうしょうもない事実よね。


 この事故を受けて、それまで私がダイブ5に成功したことで、一斉に追従してた各国の研究機関や企業もダイブ5研究の一時凍結、撤退が相次いだんだけどねー。

 

 これは一応、解ってるよね?

 って言うか、なんでこの辺の裏事情知らないのか、そっちが不思議。


 ああ、イロハってTier3のA.Iなんだ……国家、企業の嚮導A.IがTire1、一般家庭用だとTire4とか5だから、それよりちょっと上ってところよね。


 たぶん、この手のヤバい情報ってTire1クラスで止まってるんだろうね。


 けどTire3とはまた豪勢な……私専用の従属A.Iって割には結構上等なのね。

 ……そこで、なんで、ドヤるかな? ズームとかすんなっ! 邪魔っ!

 

 もっとも……ソル・バイオテック社はダイブ5に社運を賭けてたし、ダイブ5研究のバックアップA.Iも兼任してた「Irisアイリス」、社の基幹A.I、社長……役員の大半も、被験者の安全性を考慮の上で続行って感じで……まぁ、イケイケ。

 

 そもそも、事故が起きても、純粋な電子的存在になってしまえば、身体が無くても問題なくなるから、むしろ、いいんじゃないかって?


 生体アンドロイド技術さえ完成すれば、人間も不死の存在になれるから、リスクなんて恐れる必要もない……。

 あーもう、あんたらって、結局そう言う極論になるのよね……だから、そうじゃないんだって……。

 

 ……その事故の犠牲者の電子意識体も、今も生存してる、そこまで大げさなリスクじゃない……って……。

 実際、人間から、身体を持たない純然たる電子意識体への移行を果たした初の人物として、世界データベースにも登録されてる……まぁ、そりゃ確かにそうなんだけど。


 ……それはあくまで、海の向こう側の人達が、事故を隠蔽しようとして色々ごまかそうとしたプロパガンダが独り歩きして、そんな話になってるだけなのよね……。

 

 なんで、あっさり騙されてるかな……。

 

 その電子体も一見、その人と同じ様に振る舞って、ちゃんと受けごたえしてるように見えるし、記憶も保持してるように見えてたんだけどね。

 その人を知る人達は、皆違和感があるって感じるみたいなの。


 で、対象をA.Iか人間かを見分ける深層心理判定テストの結果、その電子意識体はA.Iと判定されたのよ。


 その電子意識体は本人がダイブ5でダイブインした時点の意識データを元に、同じ手順を辿って再構成したものだから、本来は人と同じものとなるはずなんだけど……。

 

 実際は、再構成した時点でその電子意識体は、人ならざるものに変質してしまった。

 何故か? 人間の電子意識体ってのは、コピーやバックアップ措置が一切できない……そう言うもんなのよ。


 まぁ、これ自体は始めて、ダイブ5に成功した時点で、薄々解ってはいた事なのよね……。

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