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第四話「自由への進撃、明日への扉」③

 ……かくして、月が頂点に登るころ。

 俺は、音もなく牢を抜け出す。

 

 地下牢の廊下の角を曲がると、牢番のデニムさんが酒瓶を抱えて、気持ちよさそうに寝入っていた。

 つか、このおっさん、マジで熟睡してやがる。

 

 床に落ちていた毛布を掛けてやりながら、静かにその場を後にする。

 

 地下牢へ続いていた狭い階段を足音を立てずに駆け上がると、見取り図通り廊下の角に出る。

 左手側をちらりと見ると、衛兵達が終わった終わった……なんて言い合いながら、その先のホールに集まっているようだった。

 

 ……仕事納めの終礼ってとこか?

 まぁ、どこも似たようなもんだ。

 

「全員集まったな? よしよし、では我が隊の本日の業務は何事もなく終了である! 全員、これにて解散! だが、今日は俺も貴様らも、待望のお給金が出ているからな。もはや言わずものがと思うが、これから一杯どうだね? 諸君!」


「はいっ! 隊長の奢りとかありがた過ぎて、涙が出ます!」


 若い兵士の調子のいい言葉に、ホールの衛兵たちは爆笑に包まれる。


「ばっきゃろーっ! 割り勘に決まってんだろっ! まぁ、ちょっとくらいは余計に出してやるがな。では、我が第5警備小隊はこれより、いつもの居酒屋へと突撃す! 総員っ、我に続けーっ!」


「「いやっほぉおおおおおっ!」」


 ……なんか、めっちゃ楽しそうだなぁ。

 

 強面の衛兵達も誰も見てないと、こんな調子なのね……。

 まったく、さすがにこんないい奴らに迷惑なんてかけられねぇよな。

 

 すっかり静まり返った廊下をまっすぐ歩くと、突き当たり角。

 埃を被った木箱とか錆びた槍だのが、置いてあるけど、どかすと下の方に、取っ手とかんぬきがあった。

 

 閂を外して、軽く押すと思った以上に軽く開く。

 慎重に顔を出すと、そこはもう裏庭だった……上手い具合に灌木があって、座り込むと完全に隠れられる。

 

 ゆっくりと扉を閉めると、石造りの壁と同化して解らなくなる。

 塗料かなにかで、石壁と同じ模様を描いて、カモフラージュ……これじゃ、解りっこない。

 

 なんとも巧妙な非常口ですこと。

 

「さて、これからどうするか……」

 

 さすがに、建物の周囲には5mほどの高い壁が囲っていて、最寄りの裏門にも数人の衛兵が常駐しているはずだった。

 交代の時間帯となると、巡回などは止まっていると思うが……。

 

 さすがに、何の装備もなくこの壁をよじ登ったり、ぶち壊すのは難しい……どうしたもんか。

 

 ……なんてことを考えていると、黒尽くめの小さな人影が軽く壁を飛び越して、華麗に宙を舞うと少し離れたところに音もなく着地するところだった。

 

 慌てて隠れようとするのだけど、向こうが先に気付いて、一足飛びに駆け寄ると、スチャっとナイフを突き付けられる。

 

「まてっ! 俺だ! ……お前、リゼッタか?」


 思いっきり、その姿に見覚えがあったので、慌てて声をかけると黒尽くめが覆面を外して、ナイフをしまい込む。

 

「ご、ごめんなさいっ! オッサムさん……な、なんで、こんなところでっ!」


「そりゃ、こっちのセリフだよ……。しかも、お前ガチガチのフル装備じゃねぇか……もしかして、五軍のガキどももいるのか?」


 盗賊団のアジトなんかの襲撃の際。

 隠密行動に長けて、しぶとさに定評があるリゼッタはいつも先兵として、まっさきに敵の拠点に侵入して、建物や見張りの配置などを偵察する。

 

 リゼッタが最初に大雑把に偵察した情報を元に、次に、五軍のちび共が細かいところを偵察する……こいつらの利点は体の小ささだから、この手の夜闇に乗じての偵察行動には最適だった。

 

 ましてや、リゼッタは機械化兵でもあるから、パワードスーツを装備すれば、今みたいに高い壁すらもジャンプひとつで乗り越えてしまう……まさに、忍者って奴だ。


 真っ先に動いてる可能性があるとしたら、リゼッタだとは思っていたが、案の定だった。

 なにより、今が衛兵が交代……絶好のタイミングと言う事で、潜入を開始……うーむ、お互いここで出食わしたのは、偶然でも何でもない。

 ……けど、そう言う事なら、話も早い。


「あ、はい! チビちゃん達とここの周辺偵察に出向いてきたんですが……まさか、オッサムさん、すでに脱獄してたなんて! そう言う事なら話が早いです! 私達「黒銀X団」は……残されたメンバー全員の総意として、オッサムさんを脱獄させて、帝都から全員で逃亡、国境警備隊と一戦交えるのも辞さない覚悟で、中立地帯へと脱出。……その前提で、すでに各所への人員配置も終え、すでに作戦も第一段階……偵察段階に入っています」


「おいおい……。総意って……お前ら、何考えてるんだよ……」


「何って……そんなの当たり前じゃないですか! 本来は私が単独侵入し、この建物の警備の手薄なところを探り当て、オッサムさんの所在を突き止めた上で、裏門を一軍メンバーが強襲、警備隊を沈黙させた上で、帝都各所に火を放ち、警備隊を混乱させて、脱走させる手はずでしたが……もう、このまま私と一緒に脱出しちゃいましょう! 一軍の皆さんも、すでに壁の向こうに待機してます。少し予定を繰り上げるだけですから、問題ありません」


「いや、ちょっと、待てって! 問題あるっての! つか、そんな物騒な話で、すでに皆、まとまっちゃってるの? 君ら、手際もだけど、思い切りが良すぎるよ! 俺の判決だって、ついさっき……今日の夜に出たばっかりで、まだ公表されてないはずだろ……」


「ド・ムー先生の知り合いの執政府関係者から情報提供があったんですよ。オッサムさんには、問答無用で有罪判決が出て、北方の矯正施設送りになるって! しかも明日には秘密裏に護送されるから、チャンスは今夜限りだって! 治安維持局も私達のマークは完全に解いてますし、今回はアルドノアさん達も、明日から騎士団とA級クランの合同演習なんで、郊外の演習場に向かってて、帝都にはいません。……色んな人がオッサムさんを逃がそうと協力してくれてるんです! 迷う理由なんてないです……さぁっ、立ってください!」


 ……多分、あのカローンさんの仕業なんだろう……。

 俺らと繋がりがあるのを知ってて、関係者に情報を流して、クランの連中も敢えてノーマーク状態にした。

 

 アルドノア達は……このタイミングで、A級クランを集めて、合同演習とか……絶対、わざとだな。

 騎士団もって事になると、騎士団長もグルの可能性が高い。


 そうなると、帝都の実働部隊は、治安維持局の警備隊のみ。

 

 警備隊は、騎士団と違って、装備も貧弱、練度も微妙。

 それなりに数は多いけど、俺の仲間たちは一騎当千の強者揃い……十分、勝算はある。

 

 ……少なくとも帝都を脱出すること自体は、難しくないだろう。

 

 まったくどいつもこいつも……義理堅いことで……。

 ……思わず眼がしらがジーンと熱くなっちまう。

 

「そうか……ありがたい話だな」


「……さぁ、私が背負いますから、早くここから脱出しましょう! 振り落とされないように、私を背中からぎゅっと抱きしめてください! ちょ、ちょっと恥ずかしいけど……状況が状況だけに、ラッキーとか思ってたり、ドキドキしたりとかしてませんからっ!」


 そう言いながら、リゼッタが背中を見せて、掴まれと……。

 

 今のフルアーマーリゼッタなら、鉄の棒をひん曲げて、城壁をぶち破るくらいのパワーがあるんだけど。

 さすがに、身体まで大きくなったりはしないからなぁ……。

 

 背負うと言うより、担ぐような感じになりそうだし……着地の時の衝撃も、それなりに覚悟がいりそうだった。


 ……と言うか、そもそも俺にはそのつもりもなかった。

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