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第一話「日常とよぶには、あまりにホットな毎日」①

 ズゥン……。 

 そんな重い音を立てて、そのダンジョンの主は地面に倒れ込んだ。

 

 俺の愛用のランスが深々と突き立った巨大トカゲ……ケイブワイバーン。

 一時間にも及ぶ死闘の末、奴は倒れ……俺はまだ立っていた。

 

「……やったか?」

 

 思わず、そんな言葉が出て、慌てて口を閉ざす。

 ……っと、これは言っちゃダメなセリフだった。

 

 やったか! やってないってのは、死亡フラグの典型だろ?

 

「……皆、気をつけろ! まだ動くかも知れない! 今、俺が確実にトドメを刺す、最後のひと暴れの可能性もある……いつでも動けるようにしろっ! まだ気を抜くなっ!」


 うん、出来る男としちゃ、やっぱこれだよな。

 油断大敵、そして先頭に立ってリスクを引き受ける! こうでないとな。

 

 俺の名は、トリデ=オッサム。

 

 昔は、別の名を名乗っていたような気もするのだけど、もう忘れちまったぜ。

  

飛空騎士フライハイナイト」と呼ばれる天空を駆け、ランスチャージに命を預ける弾丸の騎士。

 

 帝国ロッサリア有数のA級クラン「黒銀(ブラックシルバー)X(クロス)団」のリーダーであり、帝国ロッサリア自由騎士フリーダムナイツの称号を持つイカした伊達男!!

 

 まぁ、こんなダンジョンじゃ、普通に地面を走り回るのが関の山だし、別に若くもないんだがね……。

 35歳とかおっさん呼ばわりもさもありなんだろ。

 

 髪型もオールバックとかちょっと厳しいんじゃないかと思って、無造作ヘアに変えてみた今日このごろ。

 

 けど、ちょっとは名の知れた冒険者でもあるんだ……有名人なんだぜ? これでも。

 

 ちらりと振り返ると、仲間達は歓声を上げようとして、慌てて再び身構えようとしているところだった。

 うん、油断大敵……やれる時がやられる時、誰の言葉だったかな?

 

 俺も油断なく愛用の盾と短剣を構えようとして、左腕が盾ごと無くなっていることに気付く。

 

「ははっ……こりゃ参ったね……」

 

 ケイブワイバーンの最後の一撃……まさに刺し違えとなったその鋭い鉤爪の一撃を、左手一本の犠牲でいなしたのだから、上出来だろう。


 右手に短剣を構え、ヨタ付きながらも、ジリジリと横たわったままのケイブワイバーンににじり寄っていく。

 

観察者オブサーバー


 ステータス魔法……そんな呼ばれ方もされる人や動物の状態や体力ヒットポイント魔力マジックポイントを可視化出来るようにする魔術を発動する。

 戦闘中にも何度か使ったが、幾重もの魔術結界を展開していて、効果がなかったのだ。

 

 名称:ケイブワイバーン

 モンスターランク:30

 

 状態:瀕死


 HP:72/85000

 MP:210/12000


 攻撃力:B

 防御力:A

 魔法攻撃:C

 魔法防御:B


 特記:

 衝撃耐性、斬撃耐性、再生、乾燥接着脚、

 高速移動+


 ケイブワイバーンの横に半透明な板が浮かび上がり、そんな数値や各種情報が表示されている。


 HPもMPも俺達とは桁が違う……文字通りの化物だった。

 

 言ってしまえば、空を飛ぶトカゲ……ワイバーンの亜種なんだが、むしろ閉所での戦闘に特化していて、岩をも砕くトゲだらけの尻尾を振り回し、炎を吐き、その鉤爪や牙は重騎士のフルプレートをもたやすく引き裂く。

 

 強靭な鱗を持ち、斬撃や衝撃に対して耐性があり、とにかくしぶとい。


 飛空騎士の渾身のランスチャージや、重砲機兵ストーミィガンナーの機関銃の集中射撃を受けても、さしたる痛痒を受けない程の驚異的なタフさを誇る。

 

 そして、ヤモリのような手足でダンジョンの垂直の壁や天井に張り付いて、重力を無視したような動きで、縦横無尽に駆け回る……メチャクチャ厄介な相手だ。

 

 その姿はワイバーンとかドラゴン系と言うよりも、むしろヤモリ……ゴツくデカくなったヤモリとでも表するべきか。

 

 もちろん、自然界にこんな化物……存在しない。

 『流星』と呼ばれる星の世界の侵略者達がこの世界を侵略、最適化する為に送り込んできたモンスターの一種なのだが。


 一人では絶対に勝てない強敵だった。

 

 けれど、それももはや、虫の息……。

 「瀕死」の状態ステータス……本来、このHPが残り一割を切った状態だと、行動不能になる上に、ジリジリとHPが減っていき、治療を施さない限り、確実に死ぬ……そんな状態なのだが。

 ……にもかかわらずそのHPはじりじりと回復していっている。

 

「クソッタレ! やたらしぶとい思ったら、再生持ちだったのかよ! ちっくしょっ! 解ってたら、炎の魔剣(イフリーディアン)辺りでも持ってきたんだがな……。けど、わりぃな……この戦い、どのみち俺達の勝ちだ! お前は強かったが……紙一重で、俺達が上回っていただけの話だ……いい勝負だった……あばよっ!」


 そう言って、ケイブワイバーンの顎を蹴り上げると、この手の生物共通の弱点、顎の下がむき出しになる。

 すかさず、そこへ短剣を深々と突き刺すと、ケイブワイバーンのわずかに残っていたHPがゼロになる。

 

 次の瞬間……ケイブワイバーンはいくつものブロック状のものになると、更にそれが細かくなっていく。

 白い光と共に、ブロックはやがて砂のようになり、眩い光と共に天へと舞い上がり……跡形もなく消えてしまう。

 

 いつみても、このモンスター共の最後は奇妙なものだ……。

 ウサギやイノシシ、森の動物達も似たようなもんなんだが、この世界では生き物が死ぬと必ず、こんな風に粒子化して消えてなくなる。

 

 それは、俺達も例外じゃない……粒子化現象とも言われている……。

 

 その代りと言ってはなんだが、粒子化後にはその生き物の持っていたものがアイテムカードと呼ばれる物に還元される。

 

 これは、剣や盾と言った装備品などもだけど、獣やモンスターの場合その体の部位……肉や毛皮などもアイテムカード化される。


 ……理由や理屈は良く解らないものの、粒子化現象は女神様へ元へ命を還元しているのだとも言われている。 

 

 なので、ケイブワイバーンが粒子化した後には、幾多ものカードが残されていた。

 ……まぁ、俺達はドロップアイテムとか呼んでるけどな……さぁ、恒例のお楽しみタイムだぜーっ!


 何がでたかなーっ! 俺は、おもむろにそれらをまとめて拾い上げるとゆっくりと束に纏め上げる。

 

 まずはひときわ目立つ黄金色のカード。

 

 ゴールドカード……同枚数の金貨と同等の価値がある。

 額面は10,000ゴールド。

 

 一人でこれだけの金を持ってれば、もう年単位で遊んで暮らせる。

 

 ケイブワイバーンの爪、牙、肉、骨、皮……等など、素材カードも大量だった。

 やっぱ、A級モンスターとなると、ドロップアイテムも豪快だな。

 

 目玉はやっぱSR装備……「ワイバーンスレイヤー」なんてのがドロップしてた!


 ワイバーン系モンスター特攻のオプション効果がある……いいね! これがあれば、この戦いも随分楽だったろうな。

 倒したモンスターの特攻装備が、ドロップ……ある意味本末転倒……まぁ、冒険者あるあるなんだがね。

 

 あとは、HR装備の「フレイムマント」炎属性攻撃低減、「ヘイストシューズ」敏捷性補正付きの靴、HR装備のくせに割とよくドロップして、外れ枠とも言われてるけど、効果自体は地味ながら使える。

 

 「ワイバーンウィップ」これもやっぱり、ワイバーン特攻のムチ。

 魔力補正も付いてるから、アレキサンドリア嬢あたりとか、どうかな?

 

 「ゲッコーシューズ&グローブ」 あれか……ケイブワイバーンみたいに、壁に貼り付けるって代物か。

 こいつは、偵察チームの誰かにでも使わせてみるかなぁ……。

 

 「再生の加護の盾」……所有者に魔力と引き換えにHP高速回復の能力を与えるスグレモノ。

 おお、誰でも再生持ちになれるのか……生存率が上がりそうだな。

 

 ただ、どう見てもバックラーと呼ばれる小盾だから、俺みたいな騎士系クラスじゃなく、両手武器使いとか軽戦士向けだわな。


 目ぼしい所としてはこんなものかな? 他にもいくつかのRやHNと言った装備カードが盛りだくさん。

 

 まぁ、それなりに悪くないな……なんだかんだで、収穫としては満足行くものだ。

 

 素材のたぐいは、飛空騎士の俺には何の役にも立たないが、これも素材屋にでも持ち込めば金になるし、仲間の鍛冶師や薬師あたりなら、きっと有効活用してくれるだろう。


 スキルカード「装甲鱗ハードスキン」「炎の息(ファイアブレス)」「再生リジェネレーション

 こんなものも混ざっていた。

 

 一時的にモンスターの持つ能力を使いこなせるようになると言う代物。

 

 どれもかなり使えそうだ……これはクランの共有財産にでもするべきかな。


 まぁ、いくつかは金にして、装備類はこの場に居ない仲間達にも分配して……。

 ワイバーンスレイヤーは、ワイバーン系との戦いでは、切り札になりかねないから、共有財産化する……多分異論も出ないだろう。

 

 HR装備やR装備は、相応に活躍した奴らに景品として分配。


 つか、俺も兜と鎧……ほすぃ。

 

 ピキって音を立てて、兜がまっぷたつに割れて、やっぱり光の粒子となって消えていく……。

 どうやら、たった今……お亡くなりになったようだった。


 ……お役目ご苦労っ! 敬礼ッ!

 

 まぁ、俺は、クランマスターでもあるから、この手の討伐任務の後のドロップ品や金の分配とかも考えなくちゃいけない。

 

 俺は余りもんでもいいんだ……残り物には福があるって言うしな。

 

 もっとも、皆、これ使ってくれって、いい装備回してくれたりもするんだけど……。

 それを期待するほど、俺だってあさましくはない! ふぅ……メットがないと顔の周りが寂しくなるね。


 けど、兜無しだったら、きっと即死だった……まったく、危うし危うし。

 

 いずれにせよ、この勝利は、俺一人のものじゃない。


 ……共に戦ってくれた仲間達一人一人の力があってこそ!


 俺の左腕一本と引き換えに、命を救ってくれた盾と鎧、兜……これを作ってくれたクラン専属の鍛冶師ハインケルには感謝してもしたらない。

 

 また装備を消失ロストしやがったって、こっぴどく怒られそうだけど、ギリギリの縁で命拾いしたのは、野郎の仕事が完璧だった証でもある。

 

 何より、俺達をここまで送り込むのに、数多くの仲間が事前偵察や資材集め、装備を整えて入念な準備を重ねてくれた。


 こんなケイブワイバーンなんて、A級ダンジョンモンスターの討伐任務って奴は、無策の単独パーティで挑むのは、無謀でしかない。

 

 時間をかけて、その住処にして、環境改変装置でもあるダンジョンを探索し尽くして、ボス以外の雑魚モンスターを駆逐して、討伐対象のボスモンスターには、クランの最高精鋭を万全の状態でぶつける……それがセオリーなんだが。


 それでも、正直ギリギリだった。

 

 俺と同じく飛空騎士のトウシロウ……俺に次ぐナンバーツーの実力者。

 クソ生意気で向こう見ずなんだが、割とおバカ……一騎打ち挑まれて、返り討ちにしたら何故か、兄貴呼ばわりされて以来の付き合いだ。


 巨大な斧を自在に扱い大きな盾で皆の壁となる重装戦士ヘビーランドウォリアーのグレイブ。

 強力な銃砲火器による重火力を誇る重砲機兵のド・ムー先生。

 

 四大元素魔術を全てマスターした最高位魔術師……現能魔術師コマンド・メイジのアレキサンドラ嬢。


 上級治癒術師ヒーリング・ソーサラーの中でも、トップクラスの実力と実績を誇るリザ先生。

 

 うちのギルドの最高精鋭と言えるメンツ……一軍アタックパーティのメンバーだ。

 いずれも劣らぬマスタークラスの実力者ばかり……最強メンバーと言っても過言じゃない。

少し前に書いていて、不評と判断し撤退したVRMMO物のリテイク版です。


3日くらいで書いて、いきなり、公開です。


連載中だった、猫コンビニもしばらくお休みなので、こっちに注力しますんで、

基本デイリーたまに、1日2回更新の予定です。

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