四五六の一家の武芸は獣術と呼ばれた。それは、獣ように荒々しいからではなく、効率よく相手を倒し、敵の戦意を喪失させることに重きを置いたからだった。
この戦術は農民出の秀吉だけが理解を示していた。他の武将は圧倒的な力で相手を蹴散らす戦いこそが理想と考えていたからだ。
長時間戦い続けることができる彼らの術では、重たい甲冑や鎖帷子などは使わない。手甲やすねあてなどの最小限の防具をつけ、身軽な状態で戦う。相手は、足軽でも重たい鎧を着けている。そのため、一度倒れるとすぐには起き上がれない。敵を引き倒すための払い技や関節技が多い。敵はその身軽な動きから、獣とも鬼とも呼び恐れた。
「殺すのが目的ではない。お前たちが戦う相手は主に足軽だ。槍や薙刀から身を守れればそれでいい。敵の獲物を奪うことだ。」
槍を脇と腕で抑え、相手の腕をひねり倒す。棒や綱で相手の足を絡めとる。馬は一度倒れると立ち上がれない。網も効果的だった。漁師には古い網を使って敵の動きを封じることを教えた。
「どんなものも武器になる。身近なもの、普段使っているものを利用できないかよく考えろ。」
「私、噺家なんですが、武器は口でしょうか?相手に悪口雑言を浴びせてなえさせるとか。」
「手ぬぐいを使え。両の端を持って。相手の小手に巻き付ける。ひねりながら足を払えば簡単に倒れる。」