83.これからと帰宅と3日
「これからシエルとわたしがどうなるのか、ですよね?」
「そうそう。気になるよね?」
「10分の1神様らしいですからね。何か義務とかあるんですか?」
とりあえずこれは聞いておかないと。
神としてあれをして、これをしてと言われても困る。
それにまだ12年しか生きていないシエルを巻き込んで神の義務とか、出来れば遠慮願いたい。
「特にないよ。正式に神になったわけでもなし、神が何か命じたわけでもなし。
今回は補償みたいなものだしね。君が手に入れた力、好きに使ったらいいよ。この世界を破壊するって言うなら、フィイに頼んで止めてもらうけど」
「世界を破壊するってわたしに出来ますか?」
「んー、スコップで地面掘る?」
「スコップで何とかなりますか? わたしがシエルの身体借りても、スコップで掘り続けるとか無理だと思うんですけど」
身体強化できなくもないんだけど、わたしが使うとやっぱり攻撃力に加算されない。
速く走れるし、高く飛べるし、持久力も伸びるけれど、攻撃だけは駄目。
ここまで徹底されると、わたしに攻撃は無理なんだなと開き直りたくなってくる。
歌姫の力でどうこうもできないレベル。
「無理だね。今のまま一生掘り続けても、壊せない層がでてきてアウト」
「そうですよね。攻撃力貧弱ですし」
「攻撃力全振りだったら、5歳段階でフィイ介入案件だからね」
「フィイヤナミア様の仕事ってそんな感じなんですね」
「これも仕事の1つってところかな。でも、君達には特にそういう仕事はないよ。
さて少し真面目な話をしようか」
今までふざけていた創造神様が、きりっと真面目な顔をする。
「これからの君のことだけれど、今のままだと少しずつ神に近づいていくね。
そして最終的に神になるよ」
「……神になるんですか?」
「100%神様になるね」
「真面目な話はどこに行ったんですか?」
創造神様がふふふと上品に笑う。誤魔化されてなるものか。
いや誤魔化されていたほうが良いか。相手は最高神、こんなところで逆らっても意味はない。
「どうも定着した神力が、徐々に君の魔力を侵食しているっぽいんだよね。
だから放っておくと、君の魔力が全部神力に置き換わって神になる」
「がん細胞みたいですね」
「神聖な力を結構な言いようだね。
まあ、さっきも言ったけど、変換率は今が大体10%くらい。50%を超えたら神側。
侵食速度は何もしなければ、しばらくは1年で1%増えるかって感じかな。ちゃんとした一柱に認められるには試練的なものもあるけど、今は説明しなくていいよね」
つまり何もしなければ先40年は人でいられるってことだろうか?
正直、神になると言われても実感がわかない。そもそも、現状人かどうかも怪しいし、防御力が高くなるんじゃないかくらいにしか思えない。
「40年も猶予はないかな。神力を使うほど浸食速度は速まるし、神力の総量が増えれば浸食速度が速まるから。
たぶん君が半神になるまで10年かな。神力の使用頻度次第ではさらに早まるね。
ついでに神化を止めることは無理。完全に神になったら、何かお仕事してもらうかもしれないけど、それはまだまだ先かな。
先に言っておくけど、神になったとしても君は神力を攻撃には使えないと思うよ」
「筋金入りですね」
「だからこそ得られた力だからね。すでに神力を掌握して結界に転用しているなんて、生まれたばかりの神が聞いたら泣くよ?」
確かに結界への転用は難しかったけれど、言うほどの物だろうか。
なんて考えていたら、創造神様が呆れた顔をしていらっしゃる。
「言ったよね。強すぎるって。フィイにも言われていたと思うんだけど」
「神レベルでズレているとは思っていませんでした」
「生まれたばかりの神は、大きすぎる力に振り回されるって側面もありはするけど。
魔法による制限と少量の神力から始められたことによる慣れ、魔力操作からのスライド、要因はいろいろあるけれど、神力の扱いだけなら下級神くらいはあるんじゃないかな?」
「序列がわからないんですが」
「生まれてすぐが見習い。それから、下級、中級、上級、最上級、最高神って感じ。
君が神になったら見習いは免除だね、やったね」
それは喜んでいいのかさっぱりわからない。
そもそも防御一辺倒の神が一人前と言えるのだろうか。
「神はそれぞれの特性によって、苦手と得意がはっきりするからね。君ほど苦手が強調されていれば、得意部分もものすごいことになるんじゃないかな? その序列の中では、だけど」
「わたしのことはこれで良いので、わたしが神に近づくことでシエルに起こることを教えてください」
「はいはい」
やっぱり創造神様が呆れた顔をする。
理由はさすがにわかるけれど、自分の事よりも大事なのだから仕方がない。
「君に引っ張られて精霊が見えるようになったように、今後も君が神に近づくたびにその体、魂にも変化が訪れるね。
具体的には50%超えた段階で不老になる。そこから食事が不要になったり、寝なくてよくなったり、極端に死ににくくなったりしていくかな。
魂も引っ張られて、いずれは神の仲間入りだね」
「神になるの、簡単すぎません?」
「だって最高神の一部を取り込んだんだよ?
そんな事が起こるのが、君が初めての例だと言えば簡単とは言えないよね?」
そう言われるとそうかもしれないけれど。
このままだと、シエルもわたしも神になるらしい。
これはシエルに決定してもらう案件かな。
「ところで、わたしが準備している魔法ってちゃんと効果を発揮してくれますか?」
「あの突拍子もないやつね。条件を満たしているからいけるよ。少なくとも君が必要としている最低限の効果は発揮するね。
でも、条件を満たさなくなったら使えないからね?」
「使えるなら大丈夫です。思い付きで始めたことではありますし、本当に使えるものかと疑問ではありますから」
「そんな認識でよくやろうと思ったものだね」
「念のためですよ」
駄目なら駄目で、別の方法を探すだけだから。
そう言えば、わたしの神化は止められなくても、シエルのは止められるのだろうか。
「止められるけど、条件は君の消失だよ」
「そうだろうなと思ってました」
「しかも不可逆だから気を付けてね」
「仮に今わたしが消えても、シエルは精霊が見えるってことですか」
「そう言う事。だからシエルメールを人のままにしておきたいなら、50%に達する前に君が消えなければいけない」
消滅か。シエルが人でいることを望むなら、消滅することもやぶさかではないけれど、やっぱり少し怖い。
こっちの世界に送り込まれた直後だったら何の躊躇いもなかったと思うけれど、少しシエルと一緒にいすぎたのかもしれない。
とはいっても、望まないシエルを付き合わせるつもりはないし、わたしも強いて神になりたいとは思わない。
「精霊と話せるようになるのはどれくらいですか?」
「30%で話せて、50%で触れ合えるくらい? 正確には分からないかな」
「消えるにしても、精霊と話せるようになった後のほうがよさそうですね。
見えるだけって言うのは、何かと大変だと思いますし」
「あまり君の選択にどうこう言うつもりはないけれど、ちゃんと人の話は聞きなよ」
「創造神様って人に特別入れ込んで居ないと思っていたんですけど、そうでもないんですか?」
何かとわたしの事を気にかけてくれているような気がする。
創造神様が困った子だと言わんばかりに、息をつく。
「君は神の子とも言えるからね。少しは優遇するさ」
「ありがとうございます。できればシエルを優遇してほしいんですが」
「ふふふ、無理だよ」
「神様関係だとわたしが主みたいですからね。ですが、シエルもまた迷惑をかけられた1人ですから、何かしてくれても良いと思いませんか?」
「それっぽいけど、シエルメールは君を送り込んだおかげで生きていられたようなものだから、受け入れられないね」
「お願いします、義母様」
子供らしいので思いっきりおねだりしてみることにした。
元男だろうと、現在の見た目はシエル似だ。上目遣いでも何でもする所存である。
立っている者は親でも使え、なんて言葉もあるくらいだ。
「それ使い方ちょっと違うからね?
……はぁ。まあ、良いよ。シエルメールの頼みも1つだけ聞いてあげる。
だけど出来る事は限られるからね。最高神の力をむやみに使えば、地上に影響を与えかねないから。彼女が何を望むかは予想できるけれど」
「はい、ありがとうございます」
創造神様が1つ願いを聞いてくれる権利は、有って困るものでもないだろう。
「それと1つ訂正しておくと、人……と言うか、知的生命体は優遇しているよ。
この世界だと人に職業を与えているわけだし」
「そう言えばそうですね。何か理由があるんですか?」
「知的生命体ってのは、世界づくりの1つの到達点だからね。
神達の意思を解して行動できるから、ついついちょっかいかけたくなるって言うのもあるけど……同時に意思を解しながら、無視する輩がいるのも常だね」
「この世界にもいるんですね……いえ、いますね」
「別に神は困ってないんだけど、一柱拗ねちゃってるんだよね。
もうどれだけ拗ねているかは忘れたけど、君も気を付けてね」
気を付けなければならない事態に今後陥るのか。可能性だけかもしれないけれど、巻き込まれるのだけは勘弁願いたい。
巻き込まれるなら15歳までに巻き込まれたい。たぶん創造神様が助けてくれるから。
でも、神様の時間感覚だと、「ちょっとだけ」が数十年とかありそうで怖い。
「普通にあるよ。気を付けてね。ぼーっとしていたら、数百年とか経っていたって神もいるくらいだから」
「創造神様も経験がおありで?」
「本体は今でもボーっとしてるよ。無数の分け御霊が働いているけれど。
ここの神という意味では、経験はないね」
創造神様はそう言うと「さて」と場を仕切りなおした。
「これで話は終わりだけれど、何かあるかい?」
「思いつきません」
「シエルメールの頼みについては、フィイのところで呼びかけてくれたら、神託下すから」
「神託安いですね」
「君はもっと自分のことを自覚すべきだね。いや、謙遜のし過ぎは逆に無礼になるよ、かな?」
「肝に銘じておきます」
「それじゃあ、向こうは3日くらい経っているから、そのつもりでね」
手を振って創造神様は別れを告げるけれど、ちょっと待ってほしい。
3日? わたしは3日もシエルを放っておいたことになるの?
あの日1日意識を失っていた時でさえ、シエルはボロボロになっていたのに、3日もとなればシエルは大丈夫なのだろうか。