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82.エインと神と真実 後編

「まず君はシエルメールの中に突然生まれた人格ではなく、別の世界で死んだ者の魂で間違いないよ」

「そこは別に疑問視してなかったんですけど」

「本当に? 君があの瞬間、全く関係のない人の記憶を持って生まれた人格ではないと証明できるかな?」

「それは出来ないですが……」


 それを言い出すと、世界が今さっき出来上がったんだと言われても、それを証明することはできないと思うのだけれど。

 そんなことを考えていたら、眉間にしわが寄っていた。

 その姿を見られたせいか、創造神様にまた笑われる。


「本当に君はシエルメールがいないとポンコツだね。

 話を戻すけれど、君の認識は間違っていないというのは、1つ大切な指標じゃない?」

「確かにそうですね。君の認識は全部間違えているよと言われるよりはマシです」


 夢村(ゆめむら)怜音(れおん)の記憶を持つふりをしている精神異常者ではなかったということだ。

 と言うか、夢村怜音が確かに存在していたということを喜ぶべきなのかもしれない。


「君は一度死んで、この世界に転生することになった。

 本来であれば、死んだ魂は初期化、再設定して全くの別人として世界に送り出すんだよ。

 だから君が此処に来るのは、初めてじゃなくて2回目になるね。死んだ直後の魂はいわば休眠状態に入って、転生するまで覚醒することはないから覚えていないだろうけどね」

「世界を超えての転生って珍しいんですか?」

「ぜーんぜん。同じ世界に転生することもあるけれど、(わたし)が管理する世界間ならバランス調整で頻繁に行っているよ。どうせ初期化するし」

「わたしの転生自体に特別なことは無いってことですね」


 創造神様が言う通り、初期化・再設定する以上どこの世界の魂とか関係ないのだろう。

 物語とかで見る転生はあくまでも物語ということか。


「強くてニューゲームみたいなやつね。無いとは言えないよ。

 気まぐれに記憶を残したまま転生させることもあるし、死んだはずの魂が転生の前に起きて交渉してくることもあるし。

 大体(わたし)の気分次第だけれど、君の場合はその辺どうにかするつもりは全くなかったよ」


 今までの話を聞くにそうなんだろうな。

 むしろ、生前大して何も成せなかったわたしが特別視されることが無理というものだ。


「だけれど、魔術特化の才能にするつもりではあったね。

 一度パラメーターを最大にしてから、どう減らそうかなって考えていたから。

 パラメーターとか何とかは、たとえ話だけれど、そっちの方が理解しやすいでしょう?」

「はい、助かります」


 転生する魂、1人1人にそんな対応していたら、時間がかかるというものではないと思うのだけれど。

 もしかしなくても、神様的パワーか何かで、同時進行とかやっているんだろうな。


「そんな感じ。仮にも最高神だからね」

「今のんびりしている間にも、裏ではせっせと働いているんですね」

「ははは、敬いたまえ」

「それがなくても、神様は敬いますけど」


 生前は別に神というものを意識していたという記憶はない。

 だけれど、神社に行けば鳥居の前で頭を下げていたし、お地蔵様の前で手を合わせるくらいはしていた。

 だからこうやって、目の前に現れれば畏まりもする。


「その割には排除しそうな雰囲気あったよね」

「シエルのほうが大事ですから」

「ふふふ。本題だけれど、君の魂を弄っているときに異常事態が起こったんだよ」

「……地上から干渉でもありました?」

「その通り。小癪にも(わたし)を捕まえようとしてきたから、戯れに手元にあった魂を捕まえさせたんだよね。

 干渉を辿って大本を断つこともできたけれど、人の身でありながら神界に干渉してきた努力に免じてね」


 わたしは努力賞か何かだったのだろうか。

 と言うか、人が神界に干渉してきて、神様達は大丈夫なのだろうか。

 下手したら、あの男の実験が成功しそうな気がしてきたんだけれど。


「それは大丈夫。神界に足を踏み入れたからと言って、ここでやっていけるわけじゃないからね。

 蟻は地上にいるけれど、1匹だけで人に勝てるものでもない。そういうものだよ。本当はもっと大きな隔たりがあるけれどね」

「ともかく創造神様がわたしを差し出したから、わたしがシエルのもとに行ったと、そういうわけですね」

「付け加えるなら、初期化前だったから記憶は残っているし、魔術関連は弄ったから魔術があんなに使えたんだよ。あと少し何かがずれていたら、今ほど魔術は使えなかっただろうし、記憶もなかったかもしれない」

「記憶がなかったとすると、シエルの中が混沌としそうですね」


 シエルが泣き出せばわたしも泣き出す。みたいなことが起こっていたかもしれない。


「おや、少しくらい恨み言を言われると思ったんだけど、言わないんだね」

「おかげでシエルが助かったと考えれば、まあ……。それに話的に何かしてくれたんですよね」

「そうそう。連れていかれた先でどうなるかは何となくわかっていたし、(わたし)も多少は君のことが気の毒だなと思ってね、せめてこの世界で大人と認められる15歳までは守ってあげようと思ったわけだよ」

「だから、15歳までは大丈夫って言っていたんですね」

「普通、毎日お腹裂かれていたら、子供の精神力じゃ死ぬからね?

 人って切られていなくても、切られたとか、刺されたとか本気で思ったら死ぬからね?」


 言われてみれば、5歳までの生活でシエルが生きていられたのは、奇跡に近い。

 出来るだけシエルを守ってきていたけれど、食事と称したあの行為だけはわたしは止めることができなかったから。


「具体的には君が連れていかれる前に、(わたし)の一部を君に埋め込んだんだよ。

 そうすることで(わたし)は君の居場所を探れるし、君達を守ることができる」


 だとしたら、わたしが頑張っていたのは無意味だったということだろうか。

 それは少し悲しいかな、と思っている中でも創造神様の話は続く。


「だけれど2つ誤算があった。

 1つは誰かさんが頑張りすぎたこと。(わたし)は君達が15歳になる時に力がすべて失われるように計算して、君に一部を埋め込んだ。

 でも君は想像以上に頑張った。頑張った結果、(わたし)の力が予定よりも大幅に余ってしまった。


 だから君の頑張りは無駄ではないよ。今の君の技量は(わたし)の手助けがあったとはいえ、君でなければ辿りつけなかった境地。

 数年間、文字通り丸一日を魔術・魔法の研究に当てることは、人であれば狂気であると言えるからね。しかも君は常に気を張っていた。常に実戦の中に居たと言っても良いかな。

 12年以上実戦を経験し続けてきた君の技量は人から見れば並じゃない。


 まあ、(わたし)の力だけれど、一応勝手に消費されたところもあるんだよ? 君が初めて魔法を使った時とか、職業(ジョブ)の決定の時とか。それでもだいぶ余ってしまったんだよね」


 努力が無駄じゃなかったと言ってもらえるのは、素直にうれしい。考えてみたら15歳以降にシエルを守るためにも、今はどうあれ必要なことだったとは思う。

 それと偶々使えたと思っていた魔法は、創造神様の力を借りていたからなのか。

 そりゃあ、使えるはずだ。職業についても手を借りていたとなれば、足を向けて眠れない。


「ですが、そう言った力と言うか、魔力……神力? は感じませんでしたよ?」

「そこは隠していたからね。万が一にも君達に神力があるとバレると困る相手が、ずっと近くにいたもの」


 はい、いましたね。バレていたら15歳で力がなくなった時に、確実にアウトな状況になっていましたね。


「一応言っておくけれど、(わたし)の一部――神力でいいよね。神力は君の方に宿っているから。シエルメールはあくまでも、君の宿主になるから一緒に守られていたんだよ。

 君に宿っていたから、シエルメールの方をどうにかしたところで、神も残滓も感じない」

「それは分かります」

「それは重畳(ちょうじょう)。別に力が余っていたって言うのは、15歳を過ぎても事あるごとに消費させれば何の問題もなかったんだよね。

 だけれど2つ目の誤算があった」

「人造ノ神ノ遣イですか」

「そうそう。アレは君を連れて行った存在が、今度はこの世界に漂っている神力を持っていったから生まれたものなんだよね。本当人って良くやるよね」


 その程度の反応ということは、別に創造神様的にリスペルギア公爵がやらかしたことはアウトではないらしい。

 創造神様を見ると、目をぱちくりとさせた後、くすっと笑った。


「実害があったわけではないしね。どちらかと言えば、娯楽を提供してくれそうだったから放っておいただけだよ。

 逆に言えばあの人に執着があるわけでもないから、地上の采配任せだよ。(わたし)はね」


 リスペルギアを罰したとして、創造神様から怒られるわけではないらしい。


「それで出来上がった魔物を倒した時に、君達は神界の空気とも呼べるものに触れた。

 その時に(わたし)の力が、君に定着しちゃったんだよね。結構余ってた奴が」

「……それって、わたしが神様になりませんか?」

「余っていたといっても、(わたし)の中の極々一部だったから、半神……十分の一神様くらい?

 (わたし)達には極わずかな神力だけれど、地上ではとても強力な力には成る。だから神力を用いた君の結界を破れる者はそうはいない」


 神の力を用いた結界。そりゃあ、フィイヤナミア様もわたしと争いたくないというはずだ。

 でも、そのフィイヤナミア様はわたしの結界を破壊できるとか言っていたけれど、創造神様からフィイヤナミア様の愛称っぽい名前が出ていたけれど……。


「フィイは(わたし)が送り込んだからね。あと精霊も。

 フィイはあの世界に役割を全うさせるため、精霊は世界の自然のバランスを取らせるため。

 フィイは監視役、精霊は労働役。言い方はいろいろあるけれど、世界や人が破綻しないように送り込んであげたんだよ。精霊は勝手に増えているから、作って送ったのは精霊王って呼ばれている個体だけどね」

「わたしが精霊に懐かれているのって、それが原因だったりしますか?」

「君が持っている神力はもともと(わたし)のだからね。

 少なくとも(わたし)の関係者だとわかるだろうし、下手したら家族・親と思われるだろうから、懐くだろうね。この手の疑問にできるだけ答えておくと、上位精霊が君に気をかけていたのもこのせいだし、精霊が見えるようになったのは神力が定着したから。


 定着前は埋め込んでいるとはいえ、(わたし)の管轄だったから見えなかったんだろうけれど、定着後は君の管轄。君自身の力に置き換わったから、見えるようになったんだね。

 シエルメールも一緒に見えるようになったのは、シエルメールの身体が君の神力に当てられて変化したから。


 姿が見えるだけなのは、神として半人前以下だからってところかな?」


 今までの疑問がなんてことないかのように解かれていく。

 うん、わかるわけがない。突拍子が無さすぎる。

 いや思い返してみると、始まりはリスペルギアが神様を作ろうとしたところからなので、最初に戻ってきたわけだけれど。


「フィイヤナミア様や精霊王とわたしの関係ってどうなりますか?」

「一種の家族……かな? フィイは君に優しかったでしょ?」

「はい。わたしはずっと疑っていましたけど」

「フィイはそれくらいで怒る子じゃないし、君の考えも懸念も理解していたと思うけどね」


 それはそうだろう。そうでなければ、こちらが警戒していると分かっているのに、あんなに距離を詰めようとしないと思う。


「まとめると君に起こった不思議なことは大体(わたし)の神力によるものってことだね。

 本当はもっと不思議なことが起こるはずだったんだけどね。心臓が貫かれたのに死なないとか」

「そのレベルで守ってたんですね」

「それがあり得る生活環境だったからね。でもさすがに首と胴が離れたら無理だったよ」

「そこから蘇ったらホラーですね」


 たぶん見た人はトラウマになるだろう。

 そうなるとゾンビとかそっちの魔物になりかねない。

 話がひと段落したからか、どこから出したのかティーカップを傾ける。

 いつの間にかわたしの前にもあるので、一口いただくことにした。


 一口だけだけれど、優しいお茶の香りが口いっぱいに広がる。

 渋くはなく、すっきりと甘い。

 舌鼓を打っていたら、創造神様が「次の話に移ろうか」と再開した。

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