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77.お話と退室と拉致

 フィイヤナミア様はゆっくりと神官(仮)に近づき、じっと目を見る。


「この場がどうして生まれたのか、分かってはいるのだけれど。

 ハンター組合の失態を表沙汰にして、自分たちの発言力を高めようとしていたのよね。

 あとはあわよくば、シエルメールちゃんの持っている魔法袋を手に入れようってところかしら」


 確かにわかっているだろう。フィイヤナミア様なら、この町の中の会話くらい簡単に盗聴できるだろうし、どこに誰がいるのかもわかっているはずだから。

 ちょっと後ろ暗い会議でもしようものなら、一瞬で詳細を把握されかねない。


 わたしと同じなら、感じ取れるすべての情報を把握しようと思うと、それこそ神様でないと無理な情報量があると思うけれど。


 神官(仮)がフィイヤナミア様から目を逸らす。

「な、なぜそれを……」と墓穴を掘らなかっただけましかもしれないけれど、その反応は肯定しているようなものではないだろうか。

 だけれどフィイヤナミア様はそれ以上追及することはなく、わたしの方へと戻ってきた。


(わたくし)としては、正式なお客様に不快な思いをさせたということで、該当者全員を追い出しても良いのだけれど……」

「な、何をおっしゃいますかッ。それで困るのは、中央ですぞ!」

(わたくし)は困らないわ。むしろシエルメールちゃんに出ていかれたほうが、不利益になるのよ。

 だけれど今回に関してはここにいない人が原因よね。明確な原因が。

 ええ、ええ。だからどうしたらいいか、分かるわね? (わたくし)怒っているの」

「承知いたしました。エストークから呼び出して、償わせます」

「ええ、よろしくね。(わたくし)の庭に、恥知らずの組織があるなんて耐えられないものね」


 フィイヤナミア様がにっこりと笑い、話が終わる。

 うん、この笑顔は逆らっちゃいけないタイプの笑みだ。


 これでこれら一連の問題の責任は、エストーク王都ギルドの代理が取ることになるのだろう。

 そのこと自体は、わたしとしても様を見ろとしか思えない。

 何せ襲ってきたわけだし、貶めようとしてきたわけだし。


「これで良いわね? 文句はないわね?」


 フィイヤナミア様が念を押し、全員が頷いた。

 それからフィイヤナミア様はハンター組合関連以外の人族を示して「貴方達はここから出て行ってくれる?」と退出を促す。

 言われた側は「な……」と絶句していたけれど、最終的に悔しそうな顔をして出て行った。

 あれが組織のトップでないといいのだけれど。でもたぶん上の方にいるんだろうな。


 退室を命じられた人たちが全員部屋から出て行って、ユンミカさん、バッホさん、ワングワンさんの3人とハンター組合のスキンヘッドさんと、小物っぽいのが残った。と言う事は、この小物さんはハンター組合の関係者だったのか。


「さて、さて。これで話が進むわね」

「助かります」

(わたくし)のお客様のためだもの。一応世界的に大変そうだから許しているけれど、本来すぐに(わたくし)の屋敷に招待するところなのよ?」


 スキンヘッドが見た目若いフィイヤナミア様に敬語を使っているのが、なんともアンバランスで面白い。

 と言うか、屋敷に連れて行ってもらえる(行かれる?)とはどういうことなのか。

 少なくとも、フィイヤナミア様と顔を合わせたのは今日が初めてで、家に泊めてもらうような仲でもない。当然シエルが国のトップに歓迎してもらえるような身分というわけでもない。


 不思議に思って膝を見ると、森精霊がまだ膝の上にいた。美人がニコニコと笑っているのは、見ていてほのぼのする。


「良いかしら? 良いわね? 今日シエルメールちゃんに訊きたいのは『人造ノ神ノ遣イ』の事。そうよね?」


 いつの間にかフィイヤナミア様が仕切っている。立場的に彼女が仕切るのに何の問題もないのだろうけれど。

 フィイヤナミア様がスキンヘッドに尋ねると、彼は頷いて返した。


「その前に自己紹介をしておこう。さっきは出来なかったからな。

 オレはドゥルト。ハンター組合の幹部をしている。先ほどのことは申し訳なかった。いや、ここに来るまでに何度もエストークのハンター組合が迷惑をかけた」


 スキンヘッドさん――ドゥルトさんが頭を下げる。


「相応の補償と再発防止をしていただければ構いません」

「ああ、もちろんだ」


 疲れた声を出すドゥルトさんは、愚者の集いのシャッスさんの立ち位置なのだと確信した。

 何かと面倒ごとを押し付けられるような、苦労人ポジション。

 大変だと思うけれど、頑張ってほしい。


「もういいわね。悪いのだけれど、話してもらえないかしら?」


 フィイヤナミア様が話を本筋に戻す。

 うん。こうやって強引に話を戻してくれるのは助かる。

 さっきもフィイヤナミア様がいれば話がスムーズにいったのではないだろうか。むしろフィイヤナミア様が来てくれたから、あの程度で終わったのか。


「人造ノ神ノ遣イと言われても、わたしが話せることはそんなにないですよ。

 人造というのであれば、リスペルギア公爵が造りだしたんじゃないかってことくらいです」

「それだ。なぜリスペルギア公爵が名指しで出てくる?」

「公爵家と言えばそれなりに資産があるでしょうし、むしろ有力候補ではないですか?」


 とぼけてみたけれど、魔物を自作しようと思ったらそれなりの設備が必要になるだろうし、かなりお金がかかると思う。だからお金のある公爵家の名前が挙がることは、きっと不自然ではないはずだ。

 仮に安価で出来るなら、人造魔物問題が起こっているだろう。

 ドゥルトさんは頭を掻いて、大きく息を吐いた。


「エストークのリスペルギア公爵と言えば、ハンターの間でも評判がいいところだ。

 国としてみても、評価の高い貴族だろう。決してあてずっぽうで探りを入れて良い家ではないんだ」

「何か探りを入れるための根拠が必要になるというわけですね。

 ですがそのために、リスペルギア公爵が隠している屋敷の場所を教えたはずです」

「現状エストークは魔物氾濫の影響で慌ただしくてな。調査もきちんとできていない。

 一応ハンターを送り込んだが、何もなかった」

「結界で隠されていますからね」

「結界か……それなりの実力の魔術師が必要だな」


 ドゥルトさんが真面目な目つきで考え始める。

 それだけ、この件を重要視しているようだ。低級ハンターどころかC級ハンターでさえも鎧袖一触にしてしまう魔物を、人の手で造ったとなれば力も入るか。


「そもそもどうして、シエルメール殿はその結界を知っている?」


 殿をつけたのは、わたし達がフィイヤナミア様のお客様だからだろうか。

 言われなれないので変な感じがする。


『どこまで話しましょうか?』

『大体のことは話していいのではないかしら?

 ここならリスペルギアの手は届かないのよね? だとしたら、話しておいていいのではないかしら。

 被害が大きくなると、面倒が生まれそうだもの』

『伝え方やわたしの存在は?』

『エインの判断に任せるわ』


 独断で決めるのはいけないと思いシエルに尋ねると、思いのほかに適当な答えが返ってきた。

 言っていることは確かだし、特にフィイヤナミア様に関しては信頼を得るためにも教えたほうがよさそうだ。


「リスペルギアがやったかもしれない証拠なら、目の前にいますよ」

「……シエルメール殿の事か?」

「はい。わたしは彼の森の中の屋敷で育てられた、リスペルギアの失敗作です」

「それをどう証明する?」

「ここで教えることはできません。さすがにハンターが、自分の手の内を晒すわけにはいきませんので。失敗作とは言っても、切り札にはなるレベルですから」


 歌姫と舞姫の同時使用は、わたし達にしかできない切り札。

 癖の強い姫職2つ分の強さは、雨でAランクの魔物を落とすほどだ。

 職業による優劣は努力でひっくり返せることもあるらしいけれど、職業の力はすごいと実感させられる。


 それはそれとして、さすがに「わたしが証拠ですよ」と言うだけでは信じられないだろうから、情報をプラスしていく。


「決定的なことは、フィイヤナミア様にはお伝えするので、その後で判断してください。

 ですが、それでは話が進まなさそうなので、いくつか判断材料を。

 わたしは生まれてから10歳までを屋敷で過ごしました。失敗作だったわたしは10歳の誕生日が来て、職業的にも役に立たないと判断されてから、他の貴族に売られました。

 しかし馬車での移動中にサイクロプスに襲われて、貴族と護衛は死亡し、わたしはサイクロプスを倒して町でハンターになったわけです」

「それが証拠になるのか?」

「10歳でサイクロプスを倒せる人をご存知ですか?

 サイクロプスとは言わずとも、わたしの年代で小規模とは言え単独で魔物氾濫を解決できる人はいますか?

 ワイバーンを10体倒せますか?

 いないのであれば、わたしには何かがあるのだと分かってもらえますよね?」


 まったく答えになっていないけれど、冷静になってみるとこの頭がおかしい経歴は、わたし達に何かがあると思わせるには十分だろう。


「分かった。

 最終的な判断はフィイヤナミア様に任せて大丈夫でしょうか」

「ええ、ええ。良いわよ」

「それでは、シエルメール殿の言葉が正しいものとして、リスペルギア公爵は何をしたいんだ?」

「何をしたいんでしょうね?」


 これに関しては本当にわからない。

 何せシエルを神にすることですら、通過点だったのだから。

 正確には神の破瓜の血。それで何かを作ると考えると、薬とかファンタジー的には賢者の石とかだろうか。

 まあ、分からない。


 素直に答えたら、ドゥルトさんの隣にいた小物が舌打ちした。

 そんなこともわからないのかよ、と言わんばかりだ。

 今は小物さんくらいしかいないけれど、いなくなった人がいた場合ここで横槍が入ったのかもしれない。


「わたしは調査をしていたわけではありません。実験体として囚われていただけです」

「大体よ。大体よ、大人にもなっていない子に、期待しすぎじゃないかしら?

 アルトロだったかしら? 確か貴方の家には13歳になる娘がいたわね?

 今からその子を南の帝国に売って、内部調査してもらうわね?」

「な、なにをおっしゃるのですか。そのようなこと、無理に決まっているではありませんか!」


 小物――アルトロがフィイヤナミア様の発言に、焦ったように応える。

 フィイヤナミア様はフィイヤナミア様で、にんまりと笑っているのは、楽しんでいるからなのか、怒っているからなのか。


「今貴方、シエルメールちゃんが情報を持っていなかったことで、舌打ちをしたでしょう?

 つまり貴方の中で、10歳にも満たない女の子が囚われている組織の目的を調べることは、当然と思っているのよね?

 貴方の娘は13歳。シエルメールちゃんの時よりも年上だわ。だとしたら、それこそ完璧に調査をしてくれるでしょう?」

「そ、それは……」

「貴方達は()()、シエルメールちゃんは()()()。この違いが判らないとは言わせないわよ? わからなければ出て行ってもらうだけだけれど」


 フィイヤナミア様の言葉にアルトロが黙り込む。

 なんだか当事者であるのに、置いてきぼりを食らってしまったけれど、言いたいことはフィイヤナミア様が代わりに言ってくれたのでわたし的にはすっきりした。


「少し良いかしら?」


 今まで聞きに徹していたユンミカさんが声を上げる。


「わかる範囲、答えられる範囲で良いのだけれど、その公爵の目的が精霊様ということはないのかしら?」


 なるほど、歌姫で人族のわたしが妙に精霊に懐かれているから、そういう不安があるのか。

 確かに精霊達を思うままにできたら、世界を好きにできそうだ。


「リスペルギア公爵が最終的にどうしたいのかはわかりませんが、精霊ではなくて、神に執着しているようです。

 もともとわたしは、神を造ろうとしてできた失敗作ですから。ですが、神を造って何をしたいのかは分かりません」

「……ええ、分かったわ。ありがとう」


 精霊は関係ないよと話したのに、なぜかユンミカさんの反応が悪い。

 精霊は関係ないのね安心したわ、とはしゃいでも良いところだと思うのに。いや、さすがにはしゃぎはしないだろうけれど。


 今の話を聞いて、今度はドゥルトさんが反応する。


「神を造るだって?」

「だから人造ノ神ノ遣イは、リスペルギア公爵が作ったんだろうなと思うんですよね」

「……となると、フィイヤナミア様の判断待ちか」

「はいはい。これで話は終わったわね? それならシエルメールちゃんを(わたくし)の屋敷まで案内するわね」


 こうしてわたし達は、フィイヤナミア様に拉致られた。

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