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47.道具屋とベッドと不慣れ

後半少しエッチなような、違うような、そんな感じです。

具体的には『【短編移植版】不遇×不遇=チート!? 二人で一人の不遇姫は海を目指す』の1話の終盤くらいです。

「次は道具屋よね?」

『後5日はいるので、今日じゃなくてもいいですが、どんなものがあるかだけでも見ておきましょうか。

 大き目の魔法袋があるかどうかも気になりますし』

「便利だものね。あればいくつかの依頼を、並行して行えそうだもの」

『問題はあったとして、購入できるかですが……手が出せなかった場合でも、1つの目標にはなりそうです』


 わたし達が欲している大きさになると、今の手持ちでは買えないと思う。

 曰く、家が建つとか、城が建つとかいうレベルだから。理想は魔物の死体を何十匹レベルで持ち運べるようになるようなもの。

 それがあれば、倒して血抜きだけして、あとは手数料さえ払えばハンター組合に丸投げできる。


 小さい町だと、道具屋と武器屋が1つずつということもあるけれど、王都の場合には武器屋がいくつもあったように、道具屋もいくつもあるらしい。

 客層によって棲み分けをしている。

 特にハンターの場合、店に入るだけで他のお客を威圧しかねないので、分けておいた方が店側も客側もいいのだろう――同じハンターでもランクによって、所得が全然違うので、そこでも分けられていたりする。


 そうなるとシエルはどのお店に入ればいいのかとなるわけだけれど、上級ハンターが利用しているところが無難だといえる。

 シエルに絡んでくるのは、大体D級までの下級ハンターがほとんどで、上級ハンターになるほどわきまえているから。

 上級ハンターともなれば、貴族からの依頼をこなすこともあると言うし、最低限の礼儀なんかも必要になってくるからだと思う。


 ということでやってきた道具屋は、何というか小さな2階建ての量販店みたいな感じだった。

 もちろん、鉄筋なんかで建物を作っているわけではないけれど、たくさんの商品が陳列されていて、店員が何人かフロアを回りながら商品の説明をしている。

 シエルの他にも客はいるけれど、入店したシエルを一瞥しただけで特に気にした様子もなく、買い物に戻って行った。


『何も言われないのは意外ね』

『貴族の令嬢がお忍びで来たとか思われているんじゃないですか?』

『間違いではないのよね。たぶん』

『貴族制度はよくわかりませんが、シエルの場合貴族の子供であっても、貴族令嬢ではないとは思いますよ』


 前世において全く関わることがなかっただけあって、貴族制度の細かいところまではわからない。

 公爵とシエルは血が繋がっているだろうけれど、そもそもシエルはその存在が公に認められていたのだろうか。隠して子供を作って、報告せずに閉じ込められたらいないものと同じではないだろうか。

 継承権とかどうなっているのか。男子が優勢なのか、当主の弟と息子ではどちらが上になるのかなどなど。

 その辺は、正直どうでもいいけれど、夜とか訓練しているときに考えると暇つぶしになる。


『ざっと見たところだと、魔法袋はなさそうね』

『1階にないだけという可能性もありますが……入れ物はこの辺りにまとめられていますから、無いのか並べていないかといったところでしょうか。

 とりあえず、2階も確認しておきましょう』


 1階には背負い袋などの荷物を入れるものや、テント、あとはリアカーみたいなものまである。

 2階には着火剤やランプ、火打石、携帯食料など旅に必要なものがまとめられているといった感じだろうか。ランプなんかは魔道具になっていて、結構な値段がする。

 ただ、やはりというべきか、魔法袋は売っていない。無いものは仕方ないかなと思っていたら、シエルがおもむろに女性店員に近づいた。


「魔法袋無いの?」

「はい。申し訳ありませんが、当店にはございません」

「残念」

「魔法袋はその数がとても少なく、王都でも出回るのは年に1度程度しかございません。

 ですので、既に持っている人から譲ってもらうというのが、1つ確実な方法になります」

「分かった。また来る」

「はい、お待ちしております」


 最短でも出発は5日後。魔法袋以外だと、欲しいものは携帯食料が最たるものだし、他のものも今買うと荷物になる。

 だから何も買わずに店を後にしようとしたわけだけれど、笑顔で送り出されてしまった。

 何も買わずに帰ると、嫌な顔をされることが大半だったので、それだけ王都は教育されているということかもしれない。

 仮にも上級ハンター向けというのもあるだろうけれど。


 時間的にはまだ少し余裕があるけれど、昨晩は夜中まで気を張っていたということもあって、早めに宿に戻ることにした。



 宿の部屋まで戻ってくると、シエルに伝えて最初に置いていた荷物を確認してもらう。

 何も異常がないことを確認したところで、シエルがきれいに整えられたベッドに仰向けになるように、身を投げ出した。

 今日も色々あって、疲れたのだろう。


 なぜ最初に荷物を確認したのかといえば、この宿をまだ信用していないから。

 あえて金目の物を置いていって、盗まれるかどうか調べていたのだ。

 結果は盗まれていなかった、ということで安心……とは言えない。そもそも物を盗むというのは、やることが露骨すぎてよほど程度の低い宿でないとやらないから――聞いた話だけれど。


 まあ、信用してないといえば、どんな宿でも信用はしていないのだけれど。

 わたしは常に起きているので、寝込みを襲われることもない。つまりいつも通り。12年間相変わらずだ。

 むしろ高級ベッドにお風呂がある分、いつもよりも良い状況だといえる。


 なんて考えていたら、シエルが「ふふっ」と笑みを漏らした。


『どうかしましたか?』

「もうすぐ、海を見られるのよね。それが、とても楽しみなの」


 もうすぐと言っても、王都からさらに北にある町に行って、山越えしないといけないので結構あるけれど。しかし屋敷から抜け出して2年以上かけてここまで来たことを考えると、あと1か月もしないうちに海を見られるだろうというのは、もうすぐかもしれない。


「海は水がいっぱいあるのよね。でも青いのよね。どうしてかしら。コップの水は色がないのに」

『どうしてでしょうね』


 興奮気味にシエルが話すけれど、どう答えて良いものか困ってしまう。

 前世の知識から考えると、光の反射とか波長とかが関わってくるとはわかるけれど、そうなると光がどういうものなのかという話もしないといけなくなる。

 シエルは頭が良いので、もしかしたら理解してくれるかもしれないけれど、魔法・魔術があるこの世界で前世の科学知識がそのまま使えるかもわからない。


『それに、本当に海が青いか、わたしも見てみないとわからないですよ』


 シエルが海を見たいと言い出したのは、わたしが"シエルメール"なんて名前を付けたのが原因だけれど、そもそも論として、わたしはこの世界の海の色を知らない。

 前世では当たり前のように海の色は青だと言うけれど、この世界だと黒いかもしれない。

 何せこの世界には、月が2つもある。加えて2つの月の色は異なる。


「だから、見に行くのよ。できればエインの知っている海を見たいけれど、エインと一緒ならどんな海でも見てみたいもの。

 ところでエイン。1ついいかしら」

『何でしょうか』

「何度も聞くけれど、エインは神様じゃないのよね?」

『何度も返しますが、神ではありません。わたしが神なら、屋敷から逃げ出すのに、10年もかけませんでしたよ』


 シエルは度々わたしに神ではないかと尋ねてくる。

 神をシエルに降ろすための魔法で、わたしはシエルに取り憑いたと考えられるからだとは思うけれど、この質問の後シエルはいろいろ考え始める。

 そのたびに、何かボロを出してしまったのではないかとか、何か大きな勘違いをされているのではないかとか、わたしも考えてしまうけれど続けて何か重大なことを尋ねられたことはない。


 ちょっとシリアスをしていたと思ったのだけれど、おもむろにシエルの手が自分の胸に伸びてきた。

 そのまま大きさを確かめるように、揉み始めてしまう。小さめではあるけれど、以前よりも大きくなった。

 そんなことよりも、なんとも言えないもどかしさというか、心と体が微妙にかみ合っていない感じがして恥ずかしい。


『シエル……何をして、いるんですか』

「何って、エインが揉んだら大きくなるって言ったのよ?」


 そう。わたしが言ったのだ。それは間違いないのだけれど、どうしてシエルは平然としていられるのだろうか。

 だから余計に口を出し辛い。いや、これでシエルがわたしと同じように感じていたとして、口を出せるかといえば出せないけれど。


『だから、それは、俗説だって、教えたと思いますが』

「そうだったわね。でも、本当かどうかを試したこともないとも言っていたもの。

 だったら、私で試してみてもいいんじゃない?」


 だとしたら、毎日続けないと意味がないと思う。

 でもそれを口にすれば、毎日今のような状況になるわけで、流石にもううかつには口にできない。

 かつての失敗のせいで今があるのだから、学習をしなければ。出来るといいな。出来るかな。

 とは言え、シエルが思い出したかのようにやるものだから、なかなかこの刺激に慣れないのだとすると、いっそ伝えた方が良いかもしれない。それはシエルの教育上良くないだろうか。


『ひぅ』


 何とか意識を逸らそうと思考を巡らせていたら、シエルの手がその頂点に触れた。

 その刺激で、思わず声を漏らしてしまう。慣れない。慣れない。恥ずかしい。

 この刺激にも、ふいに出してしまった高い声にも、どうしても慣れることができない。

 今はただシエルに悟られないように、我慢するしかない。幸いわたしが声を出したことに気が付いていないのか、シエルは何も言ってこないから。


 長いようで短い時間が過ぎ、シエルが胸から手を離す。

 ようやく解放された。シエルは何故か満足そうにベッドで横になっている。それから、何かに浸るかのように目を閉じた。

 わたしはとりあえず気を逸らしたかったのと、シエルがこのまま寝てしまいそうな気がしたので『眠たいなら先にお風呂に入りませんか?』と声をかける。

 しかし、シエルの耳には――実際耳で聴いているかはわからないけれど――届かなかったのか、反応がない。だから『シエル、聞こえていますか。シエル』と呼びかけると、今度は反応があった。


「ごめんなさい。少し、考え込んでいたみたい」

『いえ、寝るのだったら、先にお風呂に入ってはどうですか、と伝えたかっただけですから』

「そうするわ。せっかく良いところに泊まっているんだもの、満喫したいわね」


 そう言ってシエルは起き上がると、軽い足取りでお風呂のお湯を張りに行った。

この章の閑話に関してですが、シエル視点をやる予定はあまりありません。

というのも、短編であらかたやっているからですね。エピソードが増えているため、全く同じではないですが、シエルの思考というか、行動とか考え方とか、そういったところは変える気はないので、おおよそ短編と変わらないかと思います。


エピソード増えたので、その分のシエル視点の閑話が欲しいという要望があれば、書くかもしれませんが、その時はたぶん短くなります。

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