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46.お城と武器屋

「ねえ、エイン。最上級の部屋って言われたわ。なぜかしら?」


 部屋に2人だけになって、シエルがそんな疑問を投げかけてくる。


『「一番安い部屋で良いので」ってことは、二番目に安い部屋でも、一番高い部屋でも問題ないってことですからね』

「だとしても、私達に最上級の部屋を用意する意味はないわよね?」

『たぶん、権力者って見栄とか大事なんですよ。ここで本当に最安値の部屋を用意すると、「こんな部屋しか用意できないのか」と舐められるかもしれませんから』

「ふぅん……」


 シエルは納得していない様子だけれど、わたしもよくわからないところなので、何も言わない。

 安くていいって言われたら、存分に安くしたほうが良いと思うのだけれど。それだけ、シエルのことを評価=警戒しているとも言えるのか。


「まあ、いいわ。それにしても、中途半端に時間が余ったのよね。どうしましょうか?」

『少し遅いですが、昼ご飯食べに行きますか?』

「そうね。行ってみましょう」


 ご飯ということで、元気になったシエルは、荷物を置いて外に出ることにした。



 昼間の城下町は、昨日夕方に見たときよりも賑わっていた。

 とりあえず広場に行くと、周りに屋台がいくつもある。


「ね、ね。エイン。何を食べれば良いかしら? 何を食べて良いかしら?」

『何を食べてもいいと思いますが、とりあえず屋台に行ってみますか? すぐ食べられますし』

「そうね。そうしましょう。話すのはちょっと面倒だけれど」


 最後にシエルはテンションを下げたけれど、すぐにきょろきょろとあたりを見渡す。

 目に入るのは、黒パンや串焼き肉、スープ、サラダといったところだろうか。いくつも屋台はあるけれど、特別珍しいものは見当たらない。

 屋台だからなのか、この世界がそうなのか、あまり食事の種類は多くないらしい。

 おいしいところは本当においしいので、生前よりも悪いとは言い切れないけれど、種類が少ないのは寂しい。ただし、シエルが生まれてからの10年間と比べると、天国と地獄ともいえる。


 それに町々によってスープの中身が違っていたり、使われる小麦粉が違っていたりと、味も違う。

 生前ならほとんど違いを感じなかったけれど、シエルは味に敏感なのかその違いを感じ取るので、毎回似たような料理でもおいしそうに食べる。


「嬢ちゃん。ボア焼きはどうだい?」

「じゃあ、1つ」

「おう、銅貨1枚な」

「ん」


「お、お嬢ちゃん、スープもどうだい?」

「ちょうだい」

「こっちも銅貨1枚ね」

「ん」


 シエルの白い髪は目立つのか、屋台の近くを歩くと向こうから声をかけてくれる。

 見た目が可愛いというのもあるかもしれない。

 もしもシエルが大食いなら、屋台を端から端まで食べつくしたかもしれないけれど、そんなに食べられないので、4軒目で終わり。

 5軒目のおっちゃんが悲しそうな顔をしていたけれど、食べられないものは無理なのだ。


『どうでしたか?』

「おいしかったわ。特に調味料が他の町よりも使われている感じね。

 優しい村のスープも好きだけれど、こちらのは刺激があってそれはそれでおいしいのね」

『確かに味が濃い目でしたね。少し高いものもありましたが、王都だけあって品物が集まっているのかもしれません』


 昔々はもっとたくさんの調味料を使った食べ物を食べていたけれど、今では薄味に慣れてしまった。

 もしくは、シエルの好みがわたしにも反映されているのかもしれない。

 毎日のように食べていたお米とか、今では全く食べたいとは思わないし。仮に日本食に飢えていたら、最初の10年でわたしは発狂していたかもしれないけれど。


「今からどうしようかしら? ギルドにでも行ってみましょうか?」


 満腹になったシエルが、広場で休みながらわたしに話しかけてくる。


『時間的には中途半端ですけど、絡まれる心配も少ないと思いますから、それでもいいと思いますよ』

「なんだか行きたくなさそうね」

『午前中でちょっと疲れたので、絡まれる可能性が高いギルドには行きたくないかなって思います』

「じゃあ、もう少しお休みね。

 いっそ、今日はもう何もしないっていうのもいいわね。エインはどこか行きたいところはあるのかしら?」


 疲れたと言っても精神的になので、頑張ろうと思えば頑張れるけれど、シエルにはばれていたらしい。

 ここはシエルの言葉に甘えることにして、ハンター業はお休みにしてもらう。


『せっかくの王都ですし、お城に行ってみませんか? 中には入れないと思いますけど、出来るだけ近くに行ってみたいです』

「そうね。せっかくだものね」


 わたしが意見を出したことが嬉しいのか、シエルは立ち上がって、お城が見える方角に向かって歩き出した。



 意気揚々と歩きだしたものの、お城に近づくには貴族街に行く必要があり、貴族街に平民が入るには相応の理由が必要なことを騎士に教えてもらった。

 貴族街に平民が入らないように、見張っている人たちなのだけれど、容姿だけ――ではなく血筋的にもだけれど――は貴族っぽいシエルを通していいのか迷っていて、なんだか申し訳なくなり、平民であることを名乗り出た。

 お城を見ようと貴族街に迷い込みそうになる平民――旅行者――は少なくないため、それ以外は特に怪しまれる事無く追い返されて、休んでいた広場まで戻ってきた。


 それでも、個人的には全く収穫がなかったわけではないけれど、あまり嬉しい収穫でもなかったので悩ましいところだ。


「いつか見られる機会があるわ」

『気を使っていただいてありがとうございます。ですが無理してまで見たいものでもないですから、大丈夫ですよ』

「そうなのね? その割には落ち込んでいるような感じがしたのだけれど」

『それなりにお城に近づいたときに気が付いてしまったんですが、どうやら魔術を使えなくさせる空間があるみたいなんですよね』

「そんなものがあるのね。確かに使われると厄介よね」

『わたし達の生命線ですからね。どの範囲まで使えなくなるのかはわかりませんが、お城の一部で使われるくらいですから、それなりの効果があると考えていいでしょう』


 わたしの結界も魔術だし、シエルの攻撃も魔術。それが使えないとなると、本当にただの小娘になり果てる……わけではないけれど、厄介なことに変わりはない。

 おそらく使われているのは、王が民とも会うであろう謁見の間とかだろうから、攻撃魔術は使えないとみてよさそうだ。お城全体を覆っていないところを見るに、使うために条件があるのか、デメリットがあるのか、広範囲で使えないのか、簡単に使われそうにないことは救いだろう。


『ですから剣とか槍とか、何か別の攻撃手段をそろそろ手にしてもいいのかなと思うんです』

「武器屋に行ってみようってことで良いかしら?」

『今まで一度も行ったことなかったですからね。王都ですから、それなりに良いものがあると思いますし』

「でも私って何の武器を使えばいいのかしら?」


 シエルが首をかしげる。

 舞姫であるシエルは、舞やダンスに関することであれば、ある程度使いこなすことができる。

 そういう意味では、どの武器を持ったとしても使えないことはない。舞とは魅せることだから。

 とはいっても、ある程度イメージは必要で、全く想像できないものを使って舞うことはできない。


 わたしのイメージだと、剣や刀、棒、槍などはなんとなく舞でも使えると思う。

 逆に斧や弓などだと、イメージが湧かないので使えない。この辺りはシエルも似たようなことを考えているだろう。他に武器といえば前世なら銃とかも考えられるけれど、この世界には存在していない。


『とりあえずは、剣で良いんじゃないですか? 持っている人も多いですし』

「そうかしら?」

『「剣舞士」を装って話もできるのもポイントですね。剣舞士に合わせたものと、お店に任せることもできそうです。

 剣舞士は珍しいですが、王都ですから何とかなるかもしれません』


 剣舞士とは名前通り剣舞に特化した職業。位置的には戦闘職と娯楽職の間くらいだけれど、娯楽職としても市民権を得ている――らしい。

 戦い方としては受けることはしない、いわば「蝶のように舞い蜂のように刺す」というやつだ。

 剣を持った舞姫と大差はないけれど、剣舞士の場合は音楽が不要になる。この辺りも、市民権を得ているが故だろう。


「わかったわ。行ってみましょう」


 歩き出したシエルは、屋台で初心者向けの武器屋を聞いてから、広場を後にした。



「いらっしゃい。あら、お嬢ちゃんハンターかい?」

「そう」

「若いのに大変だねぇ。うちには、武器を買いに来たってことで良いんだね?」

「良いわ」


 教えてもらった武器屋に入ると、所せましと武器が並べられた中にいる恰幅の良い女性が、シエルを見て驚いていた。シエルも何とか年相応には見えるはずなので、子供がいたずらで入ってきたとは思われずに助かった。もしかすると、ハンター的な格好をしているからかもしれないけれど。

 驚かれたのは、年齢的にあり得るとはいえ、12歳程の少女がハンターをすることか、シエルの髪が白いことだろう。


 明らかにハンターになったばかりの年齢であるため、お店に合っていないと追い出されることはなさそうだ。


「お嬢ちゃんは、どんな武器を使うんだい?」


 初心者向けだからなのか、武器屋の女性はこちらから何も言わずとも、話しかけてくれる。屋台同様、正直助かる。

 ざっと武器を見回しても、その良し悪しはもちろんのこと、素材の違いなんかもさっぱり分からない。


「剣舞士用の剣ってどれ?」

「剣舞士って、なかなか珍しいのを探してるねえ。使うだけならここに並んでいる剣でも十分なんだけど、剣舞士用としてちゃんとしたものになると並んでないね」

「どう違うの?」

「剣舞士は見た目も大事になってくるのさ。もちろんただの剣も美しいって人はいるけどね。

 でも剣舞士に求められているのは、華やかさというか、大衆にもわかりやすい豪華さ。

 わかりやすく言えば、貴族様が持っていそうな、装飾でちょっとごてごてした剣ってわけだね」

「どこに行けば買えるの?」

「どこに行っても、特注品だねえ。ハンターなら見た目だけのなまくらじゃダメだろう?

 うちでも、作ってあげられないことはないけど、金貨数枚はかかるね」


『買っても良いかしら?』

『それくらいなら、痛くないですし、買ってもいいと思いますよ。

 特注ってことは、シエルに合わせたものを作ってくれると思いますし。ただ長期間はとどまらないと思いますから、数日以内に完成するならってところですね』


 金貨となれば決して安い額ではないけれど、魔法袋的にも銀貨や大銀貨を減らしたいので10枚でも20枚でも使えるなら、それはそれで助かる。

 他のお店に行っても、初心者には売れないと言われる可能性もあるわけで、買うならここで問題はないだろう。


「いつまでにできる?」

「5日あれば大丈夫だろう。お嬢ちゃん、お金はあるのかい?」

「ん」


 シエルが金貨を何枚か見せると、女性は一瞬驚いたような顔をして、それでもすぐに持ち直した。

 それからお店の奥に続きそうな扉を開けて、「あんた客だよ」と大声を出した。

 しばらくもしないうちに、奥から上半身ほぼ裸の、ハンターよりも筋肉がありそうな禿頭の男性が現れた。

 どことなく眠そうな顔をした男性は、シエルを見つけると訝しげる。


「客ってのは、嬢ちゃんかい?」

「そうだよ。剣舞用の剣が欲しいだって」

「こりゃまた、難儀な職業になったもんだ。嬢ちゃん、剣を持つのは初めてだな?」

「はじめて」


 難癖付けられるかと思ったけれど、そんなことはなかった。今までの経験上、何かひと悶着あると思ったのだけれど、流石は初心者向けといったところか。


「嬢ちゃんを見るに、出来るだけ軽いほうが良いだろう。ってことは、細剣が良いか。

 片刃にして、突きもできるように……デザインはこっち任せでいいのか?」

「お任せ。使いやすいの」

「じゃあ、そこにある剣を持ってどれくらいの重さが良いか、軽く振って確かめてくれ」


 男性に示された剣をシエルが持って、言われた通り軽く振る。

 持った段階で気が付いたけれど、大人用に作られているのか、男性向けに作られているのか、長くて重たい。それを伝えると、別の剣を渡されてまた振る。


 いくつか振って、大体の重さがわかるとそれを何かにメモしていた。


「これなら料金は金貨2枚。できるなら予備も買っておいたほうが良いだろう。

 予備も含めると金貨3枚半、出せるか?」

『予備も買うべきかしら?』

『買っておいたほうが良いと思います』

「大丈夫。予備も含めるといつできる?」

「早けりゃ3日。5日もあれば大丈夫だろう」


 男性はためらいなく言ったけれど、そのあとでチラッと女性を見た。

 女性が頷くのを確認してから、「大丈夫だ」と確定する。

 金貨2枚となると、この店の最も安い武器の10倍以上する。


「銀貨と大銀貨で良い?」

「そっちのが助かるね。初心者が集まるから、まず金貨での取引はないんだよ」

「やっていけるの?」

「その分、楽してるからね。お嬢ちゃんの場合、デザインまでしっかり話し合って、複雑なものになれば金貨の枚数も増えるし、他のところだと握りの確認とかもやってる。

 うちは同じような武器ばかり作って、その分安くしてるんだよ。そうしないとハンターになりたての若者は、武器1つ買えなくなるからね」

「じゃあ、これ」


 シエルが銀貨と大銀貨を混ぜて金貨3枚半分渡す。

 女性は手のひらに収まる木の板に、今日の日付と完成予定日、それから『剣舞用』と書いて半額分と一緒にシエルに持たせた。


「こういう時は、半額だけ渡すもんだよ。それで剣の現物と交換で残りの半分を渡す」

「知らなかった」

「この木の板は引換券になるから、なくさないようにしとくれ。

 お嬢ちゃんの顔は忘れないだろうけど、万が一ってこともあるからね」

「分かった。それじゃあ5日後に」


 木の板と半額分の硬貨を受け取ったシエルは、軽く頭を下げてから、武器屋を後にした。

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