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41.酒場と大陸とリスペルギア

もう少し閑話を書こうかなと思いましたが、迷った結果先に進めることにしました。

それから、迷って結果シエルの対エイン以外での口調が、短編時と変わりました。

加えて迷った結果、短編時よりもいくつかイベントを増やそうかなと思っています。短編の時だと、王都ほぼスルーしていましたからね。


あと、今話より短編2つ目と同時期になりますが、今回は短編2つ目よりも少し前の話になります。

「嬢ちゃんも若けえのに、大変だったんだな」

「わたしは逃げていただけですから。それに今はそこまで大変でもないですよ」

「その歳でD級だからなぁ。将来有望たぁ、嬢ちゃんのことだな」


 シエルも12歳になり、わたし達はとりあえず北に向かっている。

 この辺りはサノワで計画していた通りのことをやっているだけだけれど。

 サノワを出て、とりあえずの目標は、海を見る事。


 この世界というか、この大陸は大きな国が4つと自治区が2つが存在している。

 1つ目がわたし達がいる「エストーク」。東の王国とも呼ばれ、大陸の東に位置している。

 それから「オスエンテ」。西の王国と呼ばれる大国だけれど、そのさらに西には小国群が存在しているため、大陸で見るとやや中央にある。

 3つ目が「ユスルーク」。南の王国で大陸の南に位置しているが、その一部が4つ目の大国である「帝国」となり、今まさに戦争状態にあるらしい。


 それから自治区としては大国に囲まれた場所にある「独立地域」。これはギルドや教会の本部があるところで、中央とか本部などで呼ばれる。

 土地としては小さく、住民の多くがギルドもしくは教会の関係者になる。ここで言うギルドとは、ハンター組合を含めて、商業組合、魔術組合なども含まれているらしい。


 最後にオスエンテの北にある、ドワーフ領。名前の通り人とは異なる種族の領地。

 ドワーフといえば、鍛冶を得意とした小人のイメージだけれど、この世界でもそうなのかはわからない。

 西の小国群には、エルフ国もあるらしいけれど、わたしが集められる情報だと詳しいことはまるで分らない。


 またエストークの南、帝国の東側には広大な森林と巨大な山脈があるが、ここは魔物の巣窟となっていて深いところに行くほど強くなる。

 海を見るには、サノワから北に向かって山を越えていくか、南に向かって帝国に入るか、魔物の巣窟に突っ込むかのどれかになるのだけれど、一番近いということで北に向かっている。帝国は戦争中で危険だし、そもそも国境を越えられないというのもあるのだけれど。


 魔物の巣窟である南の大森林付近なら、実績を積みつつ海も見られそうなものだけれど、ここの魔物はちょっと強い。

 浅いところならE以下~Dクラスだけれど、最奥にはSクラス越えの魔物がいるとも言われている。

 それに北にある山も魔物は多いらしいので、実績作りには悪くない。この辺はあくまで受け売りなので、実際のところはわからないけれど。


 ともかく今は、北に向かっている途中。まっすぐ行けばもうついているかもしれないけれど、あくまでB級が目標なので町や村に寄りながら、C級の討伐依頼をあらかた片づけて次に向かっている。

 あとギルドに行くとだいたい絡まれるので、それを適当にあしらうだけでもそれなりに時間がかかる。


 で、今現在の話だけれど、王都手前の町の酒場で情報収集をしている。

 サノワを出てしばらくは、酒場での情報収集はしていなかったのだけれど、わたしがうずうずしているのをシエルに勘付かれたことで、1つの役割として命じられた。

 酒場ではとある町で両親にひどい目に合わされていたから逃げ出して、サノワでハンターになったという程度の話はするのだけれど、そうなると皆が皆わたしのことをD級と勘違いする。

 D級にならないと、町間の移動はできないけれど、C級以上には見られないというなんともシンプルな話だ。


 シエルの身体も10歳のころよりは成長して、そこそこに年相応の部類に入ると思うのだけれど。

 でも周りを見た限り、12歳にしては小柄なのかもしれない。胸は可もなく不可もなく。

 まあ、今は隣に座ったおじさまに、情報提供をしてもらおう。


「ランクといえば、C級ハンターになると貴族様とのつながりもできるかもしれないんですよね?」

「C級ってだけじゃ難しいが、確かに嬢ちゃんならいつかできるかもな」

「貴族様って悪いことをしている人もいますよね? 安全なところといえばどこになるんでしょうか」

「とりあえず王都に行ってりゃあ安心だろうが、おすすめとしてはリスペルギア公爵領だな」

「リスペルギア公爵ですか?」


 うん。まあいつかヒットするとは思っていたけれど、このタイミングになるのか。

 あとその公爵様のせいで、貴族に様を付けるのが嫌になる。


「リスペルギア公爵様と言やあ、どこよりも民のことを考えているって評判だからな。

 ハンターへの報酬をケチる貴族は多いが、公爵様のところは大盤振舞って話だ。ハンターの重要性をよく理解してくださっている。

 逆に言えば、それだけ多くのハンターが集まっているってことでもあるがなぁ。よほど嬢ちゃんが出世しないと、目をつけてもらえねえな」


 お酒を飲んでいるのもあって、おじさんは声を上げてはははと笑う。何が楽しいのかはわからないけれど、とても重要な情報ではあった。

 これだけで終わらせてしまうと、わたしがリスペルギア家の関係者だとバレる可能性が、1ミクロンくらいありそうなので、質問を続ける。


「わたしこの町を出たら、次に王都に行こうと思っているんですけど、何か気を付けたほうが良いことってありますか?」

「そうだな。その歳でD級ってことは、嬢ちゃんは上級職あたりだろ?」

「詳しくは言えませんが」

「あそこのマスターは、極端に職業差別を嫌ってるからな。下手なことは言わないほうが良いぜ」


 舞姫も歌姫も確かに上級職よりも上だけれど、差別される側なのでそこまで気にしなくていいだろう。

 最悪職業を伝える必要はあるけれど、保護される側だろうから安心といえば安心。


「気をつけます」

「おお、そうしろそうしろ。年上の言うことは聞いておくもんだ」


 シエルが女の子だから背中をバシバシされないけれど、今にもされそうな勢いがあって、少し怖い。

 これでひと段落かなと思ったら、後ろから声がかかる。


「王都といえば、1度はスられるのが恒例だろ」

「そういえばそうだなぁ。恒例って程でもねえが、気を付けておくに越したこたあねえ。

 それだけ人がいるってことだ。嬢ちゃんもハンターだから大丈夫だろうが、貧民街には気をつけなよ」

「やっぱり人が多くなると、そういうところがあるんですね」

「こればっかりはな」

「だが、リスペルギア領には貧民はいないって話だ」

「我らがリスペルギア、最高~!」


 何が面白いのか笑い始めた2人を置いて、わたしは酒場を後にする。

 ちょっと失礼かなとも思ったけれど、こちらの声はもう聞こえていないようだったので、大丈夫だろう。

 今日は宿屋に戻って、明日の朝にギルドに顔を出して出発することにした。



 いくつかの宿屋に泊まってみて思うのは、サノワの町でお世話になっていた宿の質の高さ。

 わたし達が宿を探すのが下手ってだけかもしれないけれど、まずお風呂はない。

 だから体を洗うのは魔術で済ませる。あとベッドが硬い。

 石や地面よりはましなので、シエル的には快適のようだけれど。


「リスペルギアは良い貴族なのね」

『そういう面もあるってだけです。いくら善政を敷いていたとしても、シエルにした仕打ちがなくなるわけではありません』

「そうね。今のところ、私達を放置してくれていたら、それでいいものね」


 シエルはあまり興味なさそうに呟く。

 本心ではどう思っているのかわからないけれど、ひとまずはリスペルギア家をどうこうしたいということはないらしい。

 わたし的には崩壊してほしい。でも、無理なことはわかっているので、今は逃げることを優先する。

 現状の最善は、リスペルギアに見つからないこと。

 B級にならないと逃げられないのに、目立ってはいけないというのは、結構難しいのだけれど。


「そういえば、スられるってどういう事かしら?」

『簡単に言うと、路上で財布などを盗まれることですかね』

「そんな大胆なことをして大丈夫なのかしら?」

『盗まれたことに気が付かれないように、うまくやるんですよ』

「そんなことができるのね」

『やったら駄目ですよ?』

「やらないわ。やる理由がないもの」


 リスペルギア公爵よりも興味を持っていたみたいなので、釘を刺しておいたのだけれど、シエルが頬を膨らませて拗ねてしまった。

 これは別にシエルも本気で拗ねているわけではないことはわかっているけれど、少し困ってしまう。

 わたしだって宿題をしようとしているときに、宿題をしなさいといわれたら、無意味に不機嫌になっていたのだ。シエルの反応も当然でもある。

 何にしてもわたしのせいなので、ご機嫌取りに一曲歌うことにした。


 むくれていたシエルは、わたしの歌を聞き入り、一曲終わるとやっぱりむくれる。

 わたしに体があれば、膨れた頬を突っつきたい。


「エインはずるいわ」

『ずるいですか?』

「だってわたしが怒っているときに歌うもの。怒れなくなってしまうわ」

『今は怒っていないんですか?』

「怒っているわ。エインはずるいもの」


 シエルのセリフがループしたけれど、最後はなんだか棒読みっぽい。

 まあ、そういうことだ。『それは困りましたね』と苦笑すると、シエルが「許してあげるわ」と言って笑い出す。

 それにつられて、わたしも笑い出した。



 翌朝、シエルがギルドに向かう。町を出るついでに、護衛依頼か何かあれば受けるつもりだ。

 ハンターにとって移動=働いていない時間となるため、普通は町を移動するときには護衛依頼を受ける。

 わたし達もここに来るまでの間に、何度か商人の護衛をしたけれど、都合よくないことも多いためあわよくばだ。

 護衛依頼が出るのを待つよりも、予定を優先する。


「シエルメールさん、今日出発でしたよね?」

「ん。そう」

「残念ながら、王都行きの護衛依頼はすべて埋まっているんですよ」

「それなら仕方ない」

「それで、出発を延ばしたりは……」

「しない。それじゃあね」


 ギルドに入ったシエルを見つけて、受付嬢が声をかけてくる。

 目当ての依頼がないことを教えてくれるのはうれしいけれど、残念ながら引き留められても、留まらない。こういったやり取りは別に珍しくはないので、シエルも慣れたように建物を出て行く。


 シエルの話し方だけれど、気が付いたら無口キャラっぽいものになっていた。

 まあ、いつだか『話すのが苦手なら、最低限だけ話すようにしてみたらどうですか』と口走ったわたしが悪い。

 それで問題が起きそうなら、わたしがフォローをすればいい。最悪結界全開で逃げるって手もある。


 ともかくわたし達は、王都を目指して歩き出した。

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