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37.お世話と水魔術と新たな力

 ペルラさんのパーティの手伝いをすることになった日、ブラス君と一緒に行動していた時の癖で、人が多い時間にギルドまで来てしまった。


『別に前のパーティの時も、早く来る必要はなかったと思うのよ』

『あのときには、ブラス君よりも後に行って、変な因縁付けられないようにしていたんですよ。

 少しでも後に行くと、それを理由に一日ネチネチ言われそうでしたから』

『そういうものなのね?』

『そういうものなんです』


 道中そんなことを話しながら、ギルドの扉を開けて中に入ると、まず感じるのが熱気。

 特に掲示板がある方向からやってくるので、それを避けるように反対側に逃げて、ペルラさん達を待とうと思ったのだけれど「あの」と声をかけられた。

 見ればすでに今日組むメンバーが集まっている。


「早く集まったんですね」

「早くというか、これくらいが普通」

「ブラス君はもっと遅かったですから」

「ああ……」


 わたしの言葉に応えてくれたイルダさんが、納得したような、嫌なことを思い出したような顔をする。

 イルダさんもテレンシオ君も、最初は敬語だったのだけれど、話しにくそうだったから気にしなくて良いといったら2人は普通に話すようになった。ペルラさんに関しては、そのままのほうが良いとのことで、敬語を使っている。


 掲示板の前にはたくさんの人がいるけれど、別に気にせずに談話スペースの机を1つ占拠して、少し話をすることにした。


「今日はD級の魔物討伐の依頼を受けてもらいますが、どの魔物が良いと思いますか?」

「やっぱり、大蜘蛛か?」

「そうね。どの魔物を選んでも格上って考えると、動きが遅くて単独で行動している大蜘蛛が一番じゃない?」

「あたしもそう思う」

「皆さんだけで行くときは、それで正しいです。その慎重さは大事です。

 ですが、今日はオークを倒しに行きます」


 わたしの宣言に、皆首をかしげる。

 まあ、大蜘蛛が良いと言っているのに、それを狙わないというのは意味が分からないだろう。

 慎重さが大事だとも言っているのだから、D級のわたしがいたとしても、安全策を取るのが普通だ。しかし、こればかりは譲れない。


「どうしてですか?」

「わたしが蜘蛛が嫌いだからです」

「嫌い……」

「嫌いだから倒せないのではなくて、嫌いだから視界に入った瞬間に殺してしまうんですよ。

 それはもう跡形もなく。魔石が残ればいい方くらいの威力で。ですから、今回の趣旨には外れますし、討伐部位も取れないので依頼達成になりません」


 戦いの訓練にならなければ、解体の訓練にもならない。

 蜘蛛系の依頼は自分からは絶対に受けないし、頼まれた場合討伐したことを部位や魔石以外で証明できるような方法を、ギルド側に何とかしてもらうように頼む。

 万が一シエルの攻撃を耐えるような蜘蛛が現れたら、一帯が焦土と化すと思う。


「だからオークの討伐に行きます」

「わ、わかった。だが、都合よくオーク討伐の依頼が残るのか?」

「その辺はハンター組合側に頼んでいるので、何とかなりますよ。

 ギルドからの依頼ですから、それくらいは融通してくれないと受けません」


 テレンシオ君はなんだか納得したようなしていないような顔をしているけれど、そこは納得してくれないと、わたしにはどうしようもない。


「ところで、戦い方についてはどうするか決まりましたか?」

「はい、シエルメールさんが言っていたやり方でやってみて、うまくいかなかったら戻すってことにしました」

「それなら、今日はそのつもりで動きましょうか」


 簡単にメンバーと話をしていたら、受付が空いてきたので依頼を受ける。わたしは毎回セリアさんにお世話になっているけれど、シエルのためにはほかの受付も使ってみるべきなのだろうか。

 わたしが言い出したことだけれど、ちょっと失敗だったかもしれない。

 ただ滞りなく依頼の受付をしてくれるので、本当に助かる。


 受け付けを終えて、ハンター組合近くの門から外へ出ると、テレンシオ君たちの表情がきりっとした。

 門の外では気を抜かないこと、という基本をしっかり守っているらしい。

 それ自体は悪いことではないので、何も言わずに森の中に入る。会話が最低限にしかないのは少し寂しいけれど、ピクニックに来たわけではないので、安全が確保されるまでは無駄話をしない方針なのだろう。

 魔物の位置がわかっているので、警戒しなくても大丈夫だけれど。

 Dクラスの魔物が見られるようになるところまでくると、一度足を止めた。


「この辺りから、Dクラスの魔物が出てくるようになります。

 ですから、先に休憩してしまいましょう。ここまで気を張っていたみたいですから、疲れていますよね」

「でも、ここ森の中よ?」

「周囲に魔物はいませんから大丈夫です」


 わたしの言葉に3人は一度目を見合わせて、頷いたかと思うと、体の力を抜いた。

 どうやらわたしの言葉を信じてくれたらしい。


「今のうちに戦いのときどうするかを話しておきますね。

 戦ってもらうのはオークです。そのほかの魔物が来たらわたしが倒しますので、下がっていてください。

 前に出られるとはっきり言って、邪魔になります」


 ブラス君なら怒りそうな内容の話も、彼らは気分を害した様子もなくうなずく。


「オークが来た場合は、わたしが1体になるように数を減らすので、テレンシオ君が前衛、イルダさんが後衛で戦ってください。

 その時テレンシオ君は後ろのことは考えずに、自分の安全を第一に考えてくださいね」

「あたしはどうしたら良いんですか?」

「ペルラさんは最初は見学です。代わりにわたしがオークの妨害をします。

 見ていて出来そうだと思えば、やってみてください」

「わかりました」


 なんだか緊張した面持ちなのだけれど、大丈夫だろうか。

 万が一の時のために、シエルには準備をしていてもらおう。



 体感10分程度休憩をした時、探知に魔物らしい反応があった。

 数は3体。オークといえば、豚顔で武器を持った二足歩行の魔物。持っている武器は個体によって違い、ゴブリンやコボルトと比べるとかなりタフで攻撃も通りにくい。

 2~3体で行動することが多いので、見つけた反応がオークの可能性が高い。


「それでは移動します」


 そう声をかけてから、見つけた反応に近づいていく。

 他にも反応はあるけれど、向こうから気が付かれるような距離ではないので無視。

 ちょうどあちらもこちらに近づいてきていたので、すぐにかち合うことになるだろう。


「もうすぐ魔物と遭遇しますから、ひとまず下がっていてください」


 指示だけ出して、反応が現れるのを待っていたら、急に動きが速くなった。

 単純にこちらに気が付いただけだろうけれど、その速さは通常のシエルよりも上だろう。身軽そうなイルダなら逃げられそうだけれど、装備が重いテレンシオ君や物理職ではないペルラさんだと厳しい。

 目に見える距離になってわかったのは、走るため姿勢を低くしたオークが3体。皮鎧を着ているのか、遠めだと茶色に見える。

 シエルとの入れ替わりは終わっているので、視界に入った時点で2体のオークを鎌鼬で始末する。残った1体は走るのをやめて、こちらを観察し始めた。

 相手が動物や人なら逃げるかもしれないけれど、魔物ならそれが無くてある意味楽。


「では、あとは打合せ通りにお願いします」

「あ、ああ。行くぞイルダ」

「了解!」


 テレンシオ君が走り出したのを見たオークは、観察をやめて武器を構える。

 持っているのは槍。倒した2体はよくわからなかったけれど、槍と剣だっただろうか。

 行動が早かったテレンシオ君が剣を振り下ろすけれど、オークはそれを身に着けた鎧で受けて、槍を振り回す。

 幸いテレンシオ君の鎧部分に当たったけれど、踏ん張り切れずに尻餅をつく。

 オークが追撃をする前にイルダさんが矢を打って牽制する。


『使えるのは簡単な水魔術だけ、だったかしら?』

『出来るだけ消費魔力も少なくしてみてください』

『難しい注文よね』

『代わりましょうか? 攻撃魔術ではないので、わたしでもできると思いますよ』

『エインでも私の役割を取るのはダメよ?』


 テレンシオ君は態勢を立て直して、今度は盾で槍を受けながら、合間を縫って攻撃をするように剣を振る。闇雲に狙っていた1撃目と違って、鎧のないところを狙っているけれど、決定打にはなっていない。

 イルダさんも弓でオークを狙うが、うまくダメージを与えられていないようだ。

 しかしイルダさんの攻撃がうっとうしくなってきたのか、オークがテレンシオ君を無視して、イルダさんの方を見る。

 オークがイルダさんの方へと走り出そうと足に力を入れるタイミングで「水よ(ウォタロ・)集まれ(ジラル・)地に(グラーオル)」とシエルの声が響く。


 途端にオークの足元がぬかるみ、足を取られ、地面に激突した。

 テレンシオ君は一瞬ぎょっとしたように固まったけれど、すぐに起動してオークへの攻撃を再開する。

 倒すまでには至らずとも、深い傷を負ったオークは怒ったように地団太を踏み、怒りのままにテレンシオ君に突っ込むので、今度はこぶし大の水の玉をオークの目に向かって飛ばす。


 水が目に入ったオークは水を払うように首を振るが、それを見過ごすメンバーではないらしく、追撃が加えられる。

 上手く妨害ができることが分かった後は、危なそうな攻撃に対してだけ妨害を行い、基本は2人に任せることにした。こうやって見ると、確かにD級に上がるのは遠くないと思う。

 シエルが妨害をしているとはいえ安定しているし、あとは全体としての火力が上がれば、数体相手でも勝てると思う。


 そう思っていた最後の1撃。オークは槍で受け止めたはずだったのに、テレンシオ君の剣はその槍を折り、オークの体に剣を叩きつけた。


「やった……やったぞ!」


 激闘の末倒したことに抑えられなくなったのか、テレンシオ君が叫ぶ。

 あまり褒められたことではないけれど、今回のところは仕方がないだろう。

 それよりも、気になるのは最後の1撃か。


『最後のあれ、剣に魔力が流れていたわよね?』

『やっぱり職業の力でしょう』

『今のを見た感じ、たった今できるようになったみたいね。

 珍しいものを見た、で良いのかしら?』

『良いんじゃないでしょうか』


「お疲れさまでした。ペルラさんどうでした?」


 いつまでも黙っていても仕方がないので、そういってペルラさんを見上げると、大きい目をぱちくりとさせながらわたしの方を見ていた。

 それから、嬉しそうな顔をして「はい」と返事をする。


「あれならあたしでもできそうです」

「とはいっても、すぐにできるようになるものでもありませんから、少しずつ頑張ってください」

「もちろんです」


 こうして彼らのD級体験は終わった。この後、蜘蛛が見えたので、魔石以外灰にして引かれたような気がするけれど、気にしなくて良いことにした。

新たな力を得たのはテレンシオ君です。

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