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33.薬と少年と評価

「そういえば、たまに酒場に行っているみたいね」

「歌ってお金がもらえれば、嬉しいですから。ついでに情報も入ってきますし」

「情報はついでなのね」


 ブラス君とパーティを組み始めて1か月ほどたっただろうか。

 パーティといっても、一緒に行動するのは週の半分ほど。残りの半分も依頼を受けているらしいけれど、そっちの成果はほどほど。失敗まではしないが怪我して、教会でお金を取られているらしく収支は0といっていい。わたし達はまず教会に行かないので、どれくらいお金を取られるか知らないが、すぐに怪我が治るのであれば、それなりに取られるのだろう。

 教会というよりも、病院って感じだ。でもその時払うお金は寄付となる。


 今日はなぜかセリアさんに呼ばれて、カロルさんと二人で待っている。

 気が付けば、半年以上の付き合いにもなるのか。普通の感覚だと短いのかもしれないけれど、シエル目線だと公爵に次ぐくらいの付き合いだ。


「だいたい、歌が好きじゃないと職業もそれに準じたものにはなりませんよ」

「言われてみればそうなのよ。でも貴女、魔術もたいがいじゃない?」

「魔術よりも歌のほうが長く親しんでいただけですよ」

「貴女何歳よ」

「10歳です」

「年相応の可愛げがないのよね」


『本当に何言っているんでしょうね。こんなにシエルは愛らしいのに』

『えっと、私は愛らしいのかしら?』

『わたしはそう思いますよ』

『そうなのね、そうなのね……!』

『どうかしました?』

『何でもないのよ』


 シエルを見て、見た目が悪いという人はまずいないと思うけれど。

 屋敷から逃げるまでは、逃げることに精いっぱいで、あまり褒めてあげられなかったから、褒められ慣れていないのだろう。

 変な男に引っかからないためにも、これからはちょくちょく褒めてあげたほうが良いかもしれない。

 あまり正面から褒めるのは、わたしも慣れてはいないのだけれど、嘘を言うわけでもないし、できなくはないだろう。


「そういえば、カロルさんは魔石を使った薬について何か知っていますか?」

「それをどこで知ったのかしら?」


 Bランクの魔物の魔石であの薬が作れたら、魔力を上げることができるんじゃないかなと思って訊いてみたけれど、鋭い目線が返ってきた。

 髪の毛が白くなった理由を、いつかは話すことになるとは思ったけれど、このタイミングになるのか。

 改まって話すつもりもなかったけれど、もう少し違う状況になると思っていた。


「カロルさんが思っている薬と同じかは知りませんが、どこでと言われたら閉じ込められているときにです」

「質問を変えるわ。その薬のことをどうして知りたいのかしら?」

「ああ、確かに人を殺すためにも使えますからね。

 もしかして、わたしが他人に使うと思っていますか?」

「良いから、答えてくれないかしら? 場合によっては、危険人物として今ここで捕えないといけないのよ」


 珍しく上級ハンターらしい迫力をカロルさんが醸し出す。

 気温が下がっているのか、窓には結露が見えるけれど、結界に守られたわたしとしては寒くはない。

 これは返答を間違えたら、氷の槍が飛んできそうだ。ブラス君を押し付けられた腹いせにおちょくっていたのだけれど、やりすぎたらしい。


「なぜ知りたいか、でしたね。閉じ込められているときに使われた薬を知りたいだけですよ」

「……威嚇して悪かったわね」


 カロルさんから出ていた威圧が落ち着いたかと思ったら、力が抜けたように椅子に(もた)れ掛かった。そのまま何かを考えているのか、手で頭を押さえている。

 この反応を鑑みるに、あの薬は一般的なものではないらしい。存在が知られているかどうかは置いておいて、劇薬や毒薬にカテゴライズされるものなのかもしれない。

 魔力の扱いをしたことがない人が使った場合はほぼ100%死ぬので、劇薬とか毒薬として使用を禁じられているような薬なのだろう。


「使われたって言っていたけれど、どれくらいの頻度だったのかしら」

「毎日欠かさず。5歳から逃げ出すまでの5年間です」

「貴女、良く生きているわね」

「確認なんですけど、あの薬は魔石に宿っていた魔力を圧縮して、体内で暴走させるものですよね?」

「ええ、ワタシも実物は見たことがないけれど、貴族の間では毒薬として重宝されている薬よ。

 何せ魔力を暴走させるだけで、毒と違うから毒物反応は出ない。暴走した魔力も、いずれは勝手に抜けてしまうからうってつけよね。最近は回路も調べるようにしているから、一発でわかるけれど。

 その厄介さから使用どころか、所持することも禁止されているはずよ。幸い作るためにはかなりお金がかかるから、よほどのことがないと出回らないけれど」

「たぶんカロルさんだったら、飲んでも死なないと思いますよ。非常に面倒くさいですけど」

「飲まされる予定はないわ」

「これ飲んだからって罪にはなりませんよね?」

「所持を禁止している毒を飲まされた側が罪に問われるなら、罪になるわね」


 なんだかカロルさんが疲れているのだけれど、そこまで衝撃的な内容だったのか。

 正直あの薬で死にかけたことがないので、わたしとしてはしっくりこない。

 でもシエルだけだったら、髪を回路にしないと耐えられないほどだったと考えると、ヤバイ薬だったのかもしれない。

 つまり公爵はあの段階で、万が一にかけていたのか。死ぬのが当然で、生き残ったら使ってやろう、みたいな。そう考えると、シエルが生き残り続けていたというのは、公爵も意外だっただろうし、舞姫だった時の落胆は想像を絶するだろう。

 こちらにしてみれば、ざまあみろと言いたいところだが。


「でもこれでわかったわ。あの薬を飲んでも生き残れるほどの何かがあるのね。強いのも当然だわ」

「生き残れた理由はこれですよ」


 長い髪を抱えるように前に持ってくる。

 カロルさんの視線が、真っ白の髪に釘付けになったところで、説明を始める。


「暴走した魔力を押し込めた結果がこの髪です」

「もとは金色だったのよね。つまりその髪の毛1本1本が回路になったって言いたいのかしら」

「そうみたいですね。わたしも回路になったという結果しかわからないので、どういう理屈で回路になったのかはわからないんですよ。

 でも、髪が白い人が魔術師として優秀なのは、髪を回路にできるからでしょうね。というか、回路になると髪が白くなるんだと思います」

「新発見よ。大発見といっていいわ。でもそれを公表するわけにはいかないわね」

「5歳でもなんとかなるんですけどね」

「そんなの貴女だけよ。はぁ……目の前に格好の研究材料があるのに、進めちゃいけないってわかっているのは、精神的につらいわね」


 ため息を漏らすカロルさんは、彼女が美人であることを思い出させてくれるけれど、発言が残念なので何のフォローにもなっていない。

 このほかにも、シエルとわたしの状態とか、神を引っ張ってくる儀式とか、その薬が魔力増強に使えるとか、カロルさんの興味を引きそうなものはありはするけれど、たぶんどれもこの世界の禁忌に当たりそうだ。


『薬は作れなさそうですね』

『魔力が増えれば便利ではあるけれど、現段階で魔力不足になることもないもの。

 魔石は売るか、他で使えないか考えてみていいんじゃないかしら?』

『そうですね。むしろ、高価な薬を5年も使い続けてくれたことは感謝ですね』

『エイン的にはそうかもしれないけれど、結構きついのよ?』


 なんてやり取りをしているときに、セリアさんがやってきた。


「お待たせしました。何かあったの?」

「待ったわ。そして何があったのかは、まあ言えないわね。

 無理だと思うけれど、察してくれないかしら」

「気になるけど今は、本題ね。

 シエルメールさんにも来てもらったのは、ブラス君のことについて訊くためです」

「それって、わたしに訊いていいんですか? わたしの試験も兼ねていたと思うんですけど」


 ここでブラス君を貶めることで、自分の評価を上げることもできるだろう。

 だからこそ、わたしを呼ぶのは良くないと思ったけれど、二人の表情を見るにそうでもないらしい。


「貴女のパーティとしての働きは、すでに十分見たわ。

 考えてみれば、ソロで全部できるのだから、パーティに入ってもどんな仕事もできるわよね。

 不安だった戦闘面における連携も、言われた仕事を確実にこなすという意味では十分よ。毎回、彼が危なくなるまで放置しているのはどうかと思うけれど、最終的なサポートも上級での実用にも耐えそうね」

「1か月パーティを組み続けていただきましたし、この件に関してはほぼ合格点なんです。

 出来れば上級ハンターとして、指示を出してもらえるとよかったのですが……」

「無理です。わたしの話を聞いてくれるのは、道案内くらいですから」

「ええ、わかっています。ブラス君側に問題がありますから、そこを問うつもりはありません。

 ただ下のランクのハンターの育成協力ということで、評価に入りますから、問題が起こらない限りもう少しパーティを組んでいてほしいのですが……」

「そういうことなら大丈夫ですよ」


 ハンター組合側の印象をよくすること自体は、わたし達にしてみると悪いことではないだろうから、拒否することはない。

 セリアさんはホッとしたような顔をしているけれど、たぶんこのままわたしと組んでいても、彼の更生にはつながらない。


「それでブラス君の話なんですが、どのような感じでしょうか。率直に言ってもらって構わないので、教えてください」

「ハンターに向いていないです」


 わたしの即答に、セリアさんが困ったように笑う。


「例えばどのようなところがでしょうか」

「強さだけで見れば、ゴブリンを2体までなら1人で安定して戦えますから、E級ハンターとしてやっていくのも難しくないでしょう。

 1対1ならEランクの上位ともやれますから、もう少し強くなれば1対1に限ってDランクの魔物とも戦えるかもしれません。ですが、それ以外が壊滅的です。

 何も考えずに適当に歩いてターゲットを探しますし、ターゲットを見つけたらとにかく自分と1対1で戦おうとします。残りはすべて仲間に任せますから、敵が多ければ多いほど、いないのと変わらなくなるでしょう。こちらから見つけて、有利な状態でも気にせず正面から突っ込みますし、こちらの話を聞こうともしません。おそらくわたしの戦いを1度も見たことないんじゃないでしょうか。

 群れの中で最も強いものを見抜く力がありますから、それをうまく使えれば化けるかもしれませんが、自分が戦う相手を探すためにしか使っていませんから、宝の持ち腐れですね」


 他にもあるけれど、とりあえずはこれくらいで良いだろう。

 セリアさんがカロルさんを見ると、カロルさんが頷いて返す。


「そのとおりね。たぶん夜営するときにも、働きは悪いんじゃないかしら。

 とにかく、性格に難があるのよ。上級剣士なんて職業を得たせいで、調子に乗って降りてこられないのね。この子と依頼に行くと依頼達成できるのは、自分のおかげだと本気で思っているのよ。

 何をどうしたらそんな結論に至れるのか、ワタシにはさっぱりよ。

 そもそも、なぜこの子と一緒ならE級の上位依頼を受けられるようになるのか、考えないのかしら」

「わかった。シエルメールさんには申し訳ありませんが、あと数回彼に付き合ってもらいます」


 セリアさんは何故かため息をつくけれど、こちらにしてみればあと数回で良いのは嬉しい限りだ。

 C級昇格がいつになるかはわからないけれど、サノワの町に来てあと数か月で1年経つと考えると、それまでの間にはなれると考えてよさそうだ。ダメなら、セリアさんたちから説明があるだろうし。

 今日の一番の収穫は、あの薬が結構ヤバいものだと知れたことだろうか。

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