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32.パーティと初依頼とお金

 ブラス君と依頼のために森に入って、1時間ほど歩いたところで、それらしい反応が探知に引っかかった。

 いつもだったら適当に反応に近づいて、シエルに狩ってもらって終わりだけれど、今日は一人ではないので勝手な行動は控えたい。

 とは言え、探知魔術について話してあげるほど、わたしは優しくないので「あっちから音がしました」と適当なことを言っておく。


 別に手がかかりがあるわけでもないのか、わたしの発言に舌打ちをしつつも、従って歩く。

 年下に意見されるのがそんなに嫌なのだろうか。それともお腹が空いているだけなのだろうか。

 根掘り葉掘り私のことを聞かれるよりはマシなので、現状は放置する。


『エインは我慢強いのね』

『ブラス君の年齢を考えると、仕方がないかなとも思いますから。イライラする状況だというのも、想像つきますし』

『だからと言って、エインが気を使う必要はないわよね』

『必要はないですね。ですが、いちいち相手にしていても、時間がかかるばかりですから。

 常識的に見て無視できない損がない限りは、全部聞き流そうかなと思っているんです。

 一応C級に上がるための試験の1つですからね』

『エインは大人なのね』

『わたしはそんなに大人じゃないですよ。なりそこないです』


 ブラス君と話せなくても、シエルと話せるというのはとても楽しい。

 それから、ブラス君が「本当にこっちから音がしたのかよ」とぼやき始めたところで、コボルトの群れとぶつかった。相手の数は6体なので、普通に考えるなら3体ずつ。わたしのランクを考えるならわたしが4でブラス君が2。

 ブラス君が口だけじゃなければ、わたしが2でブラス君が4といったところだろう。


 で、ブラス君の指示はというと「俺が一番強いやつをやるから耐えろよ」である。

 ついでに、こちらの反応を待つことなく突っ込んでいった。せっかく、向こうには気が付かれていない様子だったのに、これで確実に気が付かれた。

 わたしはシエルと入れ替わって、後を託す。ブラス君の行動で思うことといえば、そりゃあメンバーに逃げられるってことだ。


 お腹が空いていたから、思わず手が出たという可能性はあるけれど、わたし達がそれを考慮してあげる筋合いはない。

 むしろブラス君の認識しているわたしの、というかシエルの強さだと、ここで死にそうなのだけれど。

 死んで良いと思っているのか、死ぬわけないだろうと思っているのか、そこまで頭が回っていないのか。

 ちょっと腹が立ってきた。と思っている間に、シエルがコボルトを倒しきる。


 慣れた手つきで魔石を取り出し、討伐部位である牙を折る。

 5体もいるので少し時間はかかったが、ブラス君の方はまだ戦いが終わっていないようだ。

 シエルは手助けする様子はなく、傍観の姿勢に入っている。

 わたしも新たに魔物が来た時のために探知に気を配りながらも、観戦することにした。


 コボルトだけれど、走るときは4足歩行をして、普通の犬以上の速さを出す。そのため、追いかけっこをしたら、一般人では逃げられないだろう。シエルも身体能力だけを見れば高くないので、簡単に追いつかれる。

 その素早さを生かして、相手を意図的に翻弄することができたらE級ではなく、D級くらいの強さになるだろう。同じ犬っぽい魔物であるウルフが、まさにそうだといえる。

 ウルフは二足歩行しないし、コボルトはたまに武器をもって攻撃してくるので、全く同じではないけれど。

 言ってしまえば単調なのだ。相手の動きが早くても、単調なら避けることも簡単だし、カウンターを食らわせるのも難しくないので、1対1で落ち着いて戦えばE級で戦闘に慣れていれば、問題なく倒せる。


 で、ブラス君なのだけれど、コボルトの動きについて行けていない。

 相手の動きは見えているようなので、避けたり、剣で守ったりと怪我を最低限には押さえているけれど、攻撃を相手の動きに合わせられていない。なんか剣に振り回されているようにも見える。

 ふらついているので、それが原因だとは思うけれど、そんな健康状態で良くコボルトの討伐なんて受けようと思ったものだ。


 ただ上級剣士と自称するだけあって、一撃一撃の鋭さはある。かすっただけでも、それなりにダメージを与えているようだし、太めの枝くらいなら構わず切り落とす。

 それだけの力があるくせに勝てない。

 大振りをして避けられて、あわててコボルトからの攻撃を防ぐ。シエルが退屈そうに眺めていることにも気が付かず、何なら倒したコボルトを燃やして埋めていることも知らないようだ。

 近づく反応があったので、シエルに指示して倒してもらい、魔術で処理まで終わらせる。


 剣士のことはわからないけれど、このままだと負けてしまいそうなので、シエルに頼んで軽くサポートしてもらう。

 とはいっても、コボルトが動くのに合わせてちょっと土で山を作るだけだ。簡単な魔術だけれど転ばせるには十分。

 足を引っかけてふらついたコボルトをブラス君が薙いで、戦闘終了。やはりちゃんと当たれば、一撃で倒せるらしい。


 シエルに入れ替わってもらいブラス君を迎えると、なんだかやり切ったとばかりの良い表情をしていた。

 それから、わたしがなんともないのを見ると「へえ、終わってたんだな」と感心した様子を見せる。

 言いたいことはいろいろあるけれど、すべてのみ込んで「はい」とだけ答えて、袋に入った魔石と牙を見せる。予想はついていたが、シエルが追加で1グループ倒したことには気が付かない。

 ブラス君は魔石と牙をコボルトから剥ぎ取ると、わたしに投げようとしたので制止させた。


()()()()は変わりませんから、それぞれが持っておきましょう」

「っち、まあそうだな」


 自分の持っている魔石が、普通のEランクとしては大きめであることがわかっているのか、舌打ちはしたもののブラス君は納得してくれた。

 それから町に戻るにも、ブラス君は見当違いの方向に行くので、案内するのが面倒だった。



 ギルドに戻って受け付けでブラス君と一緒に魔石と牙を渡す。受け付けは当然ながらセリアさん。本来E級上位の依頼を受けることができないブラス君も、セリアさんのところでしか対応してもらえないから――正確には受け付けてもらえるものの時間がかかるから。

 少し大きな魔石にブラス君は得意げにフンと鼻を鳴らすけれど、討伐数は明らかにこちらが多い。

 それが何を意味するかなんて、ハンターならわかりそうなものだけれど、残念ながらブラス君はわからない。


「これはそれぞれ狩ってきたものだということで、よろしいでしょうか」

「ああ」

「一緒に入っている魔石の買取もお願いします」

「承りました」


 勝手にブラス君が話を進めるので、魔石の半分は()()であることを明言しておく。

 依頼とは関係ない分の魔石は買い取ってもらう。その様子をブラス君が訝し気に見ているけれど、何もおかしなことはないはずだ。

 セリアさんはまずコボルトの牙と魔石を確認してから、同額になるように硬貨を積み上げた。


「依頼達成を確認しました。これが今回の依頼報酬になります。

 前もって言っていた通り、平等に分けていますのでご確認ください」


 E級だからこんなものか、と思っていたら、何やら言いたそうにブラス君がわたしの硬貨タワーを見つめている。

 あげるなんてまずありえないので、さっさと受け取って財布代わりにしている皮袋に入れておく。

 この袋もだいぶ重くなってきた。というか、硬貨しかないうえに1つ1つが日本の500円玉よりも大きいので、非常にかさばる。これでも、大銀貨と金貨は別に分けているのだけれど。

 財布に使えるような、小さいものでもいいので、魔法袋が欲しい。


「それから、これが魔石の買取分になります」


 セリアさんが今度は小さな袋にお金を入れて、わたしに渡した。

 また増えた。わたしのせいだけれど、魔石として持っておくよりはお金にしてしまったほうがまだ持ちやすいから、仕方がない。

 そしてやっぱりブラス君が、わたしのお金をにらむ。そして「それも半分じゃねえのか?」と謎理論を展開してきた。いや、そういわれるだろうなと思って、わたしも行動してきたけれど、カマかけに思いっきり引っかかったみたいな感じだろうか。


「なぜでしょう?」

「依頼で手に入れた金は半分にするって話だろ?」

「報酬を半分というだけで、これはあくまで買い取りのお金ですよ?」

「……っち、ああ。そうだったな。仕方ねえな」


 とぼけて返してみると、そう言い残して去っていく。果たして何が仕方なかったのか、わたしにはわからない。

 ただ彼がお金を欲しているということはよくわかった。失敗続きの依頼のせいで借金があるのか、それともまた別の理由があるのか。

 どちらでも、わたしには関係はない。パーティ組んだので、無関係ではないけれど、知ったことではない。


 取り残されたので、セリアさんと顔を見合わせ苦笑する。

 よくもまあ、あんな人を押し付けてくれたものだ。

 むしろ、前のパーティはブラス君と一緒にいられたものだ。次の予定を立てることもなく、行ってしまったけれど、どうするつもりなのだろう。

 朝からギルドにいれば良いか。来なければ来なかったで、誰かさんの相手をすればいいだけなので。Bランクの魔石をどうするかも考えたいところだし。


 やることは無くなったけれど、もう少しギルドに居たい。

 だけれど、今日もくっついてきていたカロルさんが、まだ帰らないのか、みたいな目でわたしを見ているので、ギルドから出ることにした。



「お前見てたぜ、そこそこ金持ってんだろ?」


 出たらすぐに絡まれました。こうなりそうだったから、ギルドから出たくなかったのだけれど。

 ハンター組合の建物を出たあたりで、誰かを待ち伏せしているようだったけれど、残念ながらわたしだったようだ。

 無視して通り過ぎて行こうとしたら、示し合わせたように新たに3人の男が現れた。

 全員20歳くらいだろうか、ブラス君よりは年上みたいだが、アレホよりは年下に見える。


「無視すんなよ。ちょーっとだけ、奢ってくれたらそれで良いんだからさぁ」

「まだるっこしいので、決闘しましょう。わたしが負ければ、今日もらったお金はすべて差し上げます。

 その代わり、こちらが勝ったらわたしの持っているお金と同じ金額をください」

「ルールはそれでいいんだな?」

「ギルド職員が良いと言えばですよ」

「それじゃあ、さっそく行こうじゃないか」


 出たばかりのギルドに再び入ると、カロルさんがまだ居て、わたしの後ろにいる人たちを見て面倒くさそうな顔をした。

 わたしを追い出したのが悪いのだから、また付き合ってもらおう。

 セリアさんがいるカウンターに行って、事の経緯を説明すると彼女は同情を含んだ目でわたしを見た。



 いつだかの運動場のような場所に連れていかれて、カロルさんがまた審判を行う。

 ルールは簡単。4対1で戦闘不能にするか、降参したら負け。殺しは厳禁。なんだか念を押すように注意された。


『せっかくなので、今日は身体強化を使って攻撃を受けないように、逃げながら戦いましょうか』

『そのためにこれを受けたのね』

『ブラス君を見ていたら、ある程度動けたほうが良いかなと思いまして。

 それと鎌鼬を使って、アレホと同じように倒してみてください。魔力コントロールの練習です』

『うぅ……結構大変そうね。ちょっと間違えると、腕くらい切り落としてしまいそうよ』

『そうならないように頑張ってください』


 シエルが悩みながらも『わかったわ』と了承してくれたので、わたしは黙って見ておくことにする。

 相手さんはシエルを囲むように構えると、「始め」の合図で同時にとびかかってきた。

 4人ともが剣なので、遠距離攻撃を考えなくていいというのは、楽かもしれない。


 シエルは大きく後ろに跳んで、距離を稼ぐと鎌鼬をいくつもとばす。男たちに浅い傷を作ったのは良いけれど、その程度の威力しかないと勘違いした男たちは「構わず突っ込め」と一斉に迫ってきた。



 決闘の結果として、傷だらけの男たちは血が足りなくなったのか、剣を落として倒れてしまった。

 シエルも肩で息をしていて、終盤は魔術の制御が甘くなっていた。やっぱり、シエルの弱点は体力だろう。わたしも体力は多くないわけだけれど、どれだけ疲れていても、普段とほぼ変わらない精度で結界を作れる自信がある。


『ところで、逃げてばかりだったけれど良かったのかしら。

 途中で何度も「逃げるな、卑怯だぞ」って男たちが叫んでいたけれど』

『シエルは魔術師ですから、距離を取るのは普通じゃないですかね。

 むしろ、魔術師に距離を取られる方が悪いです。訓練としても、今はこれで良いと思いますよ』

『そういうものなのね?』

『わたしも戦いに関してはわからないので、正しいかはわかりませんけどね。

 でも今は、魔術師としての立ち回りがきちんとできるようになりましょう』


「これで満足かしら」

「なんでわたしが戦いたかったみたいな言い方するんですか?

 カロルさんが出て行けと言わんばかりの視線を向けたから、こうなったんですよ」


 カロルさんが呆れたように話しかけてくるので、事実を事実として返す。

 カロルさんは視線を逸らすと、逃げるように「まあ、いいわ」と誤魔化した。


「確か貴女が持っているのと同じ額を要求するんだったわよね。

 こいつら、破産するんじゃないかしら?」

「たぶん金貨10枚くらいですよ。カロルさんなら、ポンと払えますよね?」

「ワタシはB級だもの。こいつらはE~D級。しかも貯金とは無縁の生活していそうよね」

「まあ、それぞれ金貨3枚で手を打ちます」


 本当はもっと持っているけれど。だから、これくらいはという金額を提示したけれど、ダメだった。

 本当かなと、起こして金貨10枚を見せてそれぞれに金貨3枚を要求すると、顔を真っ青にしていた。

 仕方がないので、手持ちのお金すべてで手を打った。

 ただ決闘を仕掛けておいて、そのルールすら守れなかったということで、全員ランクが下がった。

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