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31.パーティと少年

総合400pt ブックマーク100突破しました。

ありがとうございます!

 D級ハンターになったものの、特に嬉しいという感じはしなかった。

 一応一区切りだから、気持ちを新たにという感じでもない。わたしの知っているD級ハンターが戦斧使いのアレホしか思い浮かばないせいかもしれない。

 アレと同じランクというのは、むしろテンションが下がってしまう。


 シエルは『D級って一応すごいのよね?』くらいの反応しかしていない。

 世のハンターたちが聞けば、煽りにしか聞こえないだろうけれど、シエルは純粋な疑問として言っている。

 対してハンター組合側は、10歳でE級でもすごいのに、D級は前代未聞だと豪語していた。

 セリアさんのセリフだったから、もっと丁寧な感じだったけれど。


 わたしは半ばズルをして手に入れたような能力とは言え、シエルは自分の努力で魔術を使えるようになったし、舞姫も使いこなしているのだけれど、きっと生意気と思われるのだろう。

 なんだかテストで高得点を取っているときのようだ。点数を訊かれて、答えただけなのに、変に突っかかられたり、恨まれたりするやつ。というのは、流石に被害妄想が過ぎるかな。


 D級ハンターになったものの、魔物を狩って、適当に薬草を採ってという生活を繰り返しているから、やっぱり気持ちを新たにする必要はなかったということにしておこう。

 ただし、大蜘蛛だけは許さない。なぜ大蜘蛛はDランクなのか。そしてなぜわたし達に討伐させようとするのか。

 1万歩譲って、討伐するだけなら良いけれど、討伐部位を持って来いというのは理不尽だと思う。何せ大蜘蛛は出会って即消滅なのだから。身体の1部分や魔石程度残ることの方が稀だ。


 D級ハンターとしてやっていくのに、おおむね問題はないけれど、C級に上がるにもやっぱり必要な技術や推奨される能力があるらしい。

 そんなわけで、セリアさんとカロルさんに、ギルド内の小部屋に連れて行かれた。


「貴女には、パーティを組んでもらうわ」

「唐突ですね」

「まあ、別に嫌ならいいのよ。必須ではないもの」

「でも出来れば受けてほしいって、言っていますよね。セリアさんの表情が」


 パーティでの活動は、ハンターをやるうえではできたほうが良いものではあるのはわかる。

 わたし達の場合、能力的にもバックグラウンド的にもソロのほうが良いのだけれど、そうは言っていられない状況も出てこないとは限らない。

 例えば魔物氾濫(スタンピード)。何らかの理由で魔物が食べるものがなくなって、餌として人を狙うというのが、自然発生。そうならないように、ハンター組合が魔物を適度に間引いているため、起こるのは稀だとされる。


 ただ、人為的に起こすこともできるため、常に安心というわけではない。

 最も有名なのが、歌姫による自爆特攻だけれど、魔物を引き寄せる薬物を調合することもできる。

 当然使用禁止されているし、材料も簡単には手に入らない。少し使った程度では集まる魔物の数もたかが知れているので、スタンピードを起こすほどとなると、一財産を使い果たすくらい必要という。


 ついでにわたしの持っているお金をすべて使えば、その薬を手に入れるのに十分な額になる。

 金貨が何枚もあったから、一般家庭から見れば大金持ちなのは違いないのだ。

 貴族と平民の差がそれくらいあるともいえる。リスペルギア公爵の力の強さもそれだけあるといえるわけで、全く嬉しくはないけれど。


 閑話休題。


 パーティを組むなら、カロルさんと組むのが気楽だけれど、ランクの関係でそれはできない。

 つまりわたしと組ませたい人がいるわけだ。詳しくは表情が曇っているセリアさんが教えてくれるだろう。良い予感はしないけれど。


「シエルメールさんは、以前助けた4人パーティのことは覚えていますか?」

「カロルさんに押し付けたやつですよね」

「そうよ。あの後、かなり面倒だったわ」

「そうなりそうだったから、押し付けました」

「まあ、それに関しては良いわ。ただその時のことが関係しているのよ」


 正直あまり印象には残っていない。遠目に見て、シエルが適当に手助けして、逃げ出しただけなのだ。

 シエルに至っては『誰だったかしら?』とまるで覚えていないらしい。


「そのパーティなのですが、現在分裂して3人と1人でそれぞれ活動しています」

「1人を追い出したんですね。確かに戦いを見ているだけでも、そうなりそうな雰囲気はありましたね」

「正確には3人が出て行ったという形のようですが、そこは重要ではないですね。

 シエルメールさんには、1人の方。E級ハンターの役割(ロール)が剣士のブラス君とパーティを組んでほしいんです」


 また面倒事を押し付けられたかなと思うけれど、黙っている。

 これまでにセリアさんから渡された依頼は、ギルド内で消化不良になっていたものを多分に含んでいた。それについては、不人気の依頼をこなすことでギルド側からの印象を良くするという意味合いがあったので、ある程度は許容している。

 今回もそれの一環ということだろう。名前を言われてもわからないけれど、おそらく無謀にもリーダーに突っ込んでいっていた少年のようだから、厄介事に違いない。


 役割は職業とは別にパーティとしてどんなことができるのか、みたいなもの。わたし達なら魔術師が役割ということで良いだろう。わたしの例があるように、必ずしも職業と役割は一致しない。

 役割は自己申告であるけれど、おおよそ剣士とか槍士とか斧士とか魔術士と言ったものをあげる。そのため剣士と言われても、職業の剣士なのか、役割の剣士なのかはわからない。


「少し考える時間をもらっていいですか?」

「はい。大丈夫です」


『エインとしてはどう考えているのかしら?

 私は覚えていないから、どうしたら良いのかわからないのよね』

『パーティを組むということに関してはどうですか?』

『エインとなら組みたいわ。常に組んでいるようなものだけれどね。

 他の人だとしたら、どうかしら。イメージがわかないわ。だからこそ1度組んでみてもいいかもしれないわね。それで、エインはどう考えているの?』

『わたしとしても、パーティは組んでみて良いと思います。

 ですが、何も考えずに組んでしまうと、トラブルに巻き込まれそうで嫌なんですよね』


 何せパーティメンバーが全員抜けたような相手だ。

 一応わたしとしては、こういう条件ならというものは考えているけれど、シエルにも考える機会を与えたいので、反応を待ってみる。


『確かE級よね。だから少なくとも私達よりも弱いのよ。

 受ける依頼としても、E級のものになるだろうから、完全に足手まといだとしても私達が危険になることもなさそうね。

 だから気を付けたいのは、依頼外よね。パーティが分裂したのは、あの時だけが原因か訊いてみてくれないかしら』

『わかりました』

『ありがとう。助かるわ』


「彼のパーティってどうして分裂したんですか?」

「シエルメールさんは見たと思いますが、ブラス君が無謀な戦い方をすること、それから依頼報酬の分配方法でも問題があったみたいですね」

「わかりました」


『だとしたら、あくまでも臨時のパーティとして、依頼だけの関係にする。依頼が終わった後に、必要以上に接触しないように、ギルドのほうでも見てもらえると嬉しいわ。

 それから報酬も均等に分けるようにというのを、相手側に徹底させるようにギルドから働きかける。

 最後に彼を強くするとか、改心させることはしないと認めてもらうのはどうかしら』

『はい、わたしもそれでいいと思います』


 ギルド側が何を求めているのかはわからないけれど、わたしに言い渡されたのは、非常時における連携が取れるかどうか。

 本心として、彼の成長を促してほしいと思っていたとしても、わたし達がそこまで面倒見てあげる義理はない。

 シエルの案をほぼそのまま伝えると、セリアさんは少し残念そうに笑ってから「それでお願いします」と頭を下げた。

 カロルさんも「本当に10歳か疑わしいわね」とわたしを見てくるけれど、この答えはシエルが出したものだ。だから本当に10歳のやり取りだといって問題ない。


 へへーん。うちのシエルはすごいだろう。なんて。


「それから、もう1つお願いというか、確認なんですが」

「他にもあるのね」

「パーティを組んでも、()()()()()()だと考えて良いか聞きたかっただけですよ」

「それはそうね。あくまでも貴女のテストという体ではあるもの」

「それなら、大丈夫です」


 こんな感じで、わたしの初パーティ活動は、お試し気分で決まった。



 パーティを組むことが決まり、案内されるままについていくと、わたしよりもだいぶ大きい少年から青年の間みたいな人がそこにいた。

 茶に赤が混じったような髪色に、緑の瞳。男性らしくガッシリしている。

 どこにでもいそうな、夢を追いし若者の1人といったところか。わたしも若者カテゴリだとは思うけれど。


 彼がブラス君なのだろうけれど、こちらを睨まないでほしい。

 きっと、なんで子守しなくちゃいけないんだとか思っているんだろうな。

 見た目的にG級ハンターであると思われているだろうし、D級だと説明しても認めてくれないだろう。そんな雰囲気がある。


「で、俺はこのチビの面倒を見ればいいのか?」

「パーティを組むって意味ならそうね。もちろん拒否権はないわよ。

 ここのところ、依頼の失敗が続いているから、拒否した場合やパーティとしてうまくやっていけなかった場合は、F級に降格になるわ」

「ふん」


 カロルさんの言葉を聞いたブラス君は、忌々しそうにわたしを見る。どう考えても、彼自身のせいだと思うのだけれど、

 カロルさんの言葉を引き継いで、セリアさんが説明を再開する。


「彼女とパーティを組むのであれば、E級の上位依頼を受けてもらっても構いません。

 またハンター組合が要請したパーティになりますので、どのような理由があっても、報酬はきっちり分割させていただきます。通常のパーティとは違い、依頼時以外でお二人の間でトラブルがあった場合、ハンター同士のトラブルとして扱いますので、ご注意ください」

「こいつが足手まといになった場合は?」

「ハンターですので、最終的には自己責任です」

「それなら分かった」


 それはあわよくば、見捨てるということだろうか。こちらも同じことが言えるので、別に良いのだけれど。

 でもパーティメンバーとして、あり得ない行動をとると、降格させられるのをわかっているのだろうか。


「じゃあ、この依頼受けるから。足引っ張るなよ。チビ」

「コボルト討伐依頼、大丈夫なんですか?」

「チビは上級剣士の言うことを聞いておけばいいんだよ」


 ブラス君はそう言って、受け付けを済ませてギルドを出て行く。

 それに続いていく前に、チラッとカロルさんとセリアさんの方を見たら、困ったような顔でわたしを見ていた。

 何というか、思っていた以上に取り付く島もないのだけれど、よくよくブラス君を見て見ると、どことなくふらついている。

 依頼が失敗続きだったといっていたし、お金がないのだろうか。服もボロボロで、擦り傷がたくさん見える。で、お腹が空いているからふらついている、とか。


 そんな状態で良くもコボルト討伐の依頼を受けたものだ。

 E級なので強いとは思わないけれど、二足歩行の犬のような外見のコボルトは、常に5~6体で行動しているため、ゴブリンよりも厄介なのだ。

 ゴブリンリーダーがいるような群れだと、10体以上いることは珍しくないけれど、ゴブリンは基本的に単独行動をする魔物で、多くても3体と同時に遭遇する程度だ。

 ゴブリンリーダーに苦戦していた程度で、コボルトを数体相手できるとは思わないのだけれど。


 大体まだ自己紹介すら終わらせていないのに、よく依頼を決めたものだ。

 わたしは名前を知っているけれど、そちらは知らないだろうに。まあ探知結果はいつも通りだし、ブラス君の好きにさせて、シエルにはサポートをメインにやってもらうとしよう。

 戦いが始まるまでは、わたしがメインで動くことになるけれど。

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